コミュニティマネジメント研究所

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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◇◆ 悪魔の告白 ◆◇◆

 むかしむかし、あるところにパチンコ店がありました。
 昔は繁盛していたのですが、今はさびれてしまいました。 店長はこのままでは廃店に追い込まれてしまう。 頑張って出玉やサービスを強化してきたはずなのに何が悪かったのか分かりません。 店長は途方に暮れていました。
 気がつくと閉店時間の少し前です。 店長はホールに入り、コースを見ながら顔見知りのお客様に挨拶をしていました。

 ふと見ると常連のお客様がニッコリ笑って近寄ってきます。
「いつもありがとうございます」
 常連客はニコニコして言いました。
「だいぶ少なくなってしまったね。お客さん」
「申し訳けありません。皆さんに喜んでいただこうと努力はしたのですが、新しく出来たパチンコ店が魅力的なのでしょう。 お客様をとられてしましました。情けないことです」
 そう言って店長は力なく笑いました。

 するとその常連客は店長にさらに近づき言いました。
「もうすぐこのお店は、廃店することになるよ」
 店長はびっくりして、常連のお客様の顔を見ると、
「びっくりさせてしまったかな。でも俺は今日でこの店には来ないからね。 本当のことを教えてあげよう」
 そう言ってニッコリと笑いました。

「実は、俺は悪魔なんだ」
 突然のことで、店長は何を言っているのかわかりませんでした。
「突然でビックリしただろう。ついでに、なぜこの店舗がダメになったか教えてやろう」
「どういうことでしょうか?」
「この店がダメになったのは、見知った悪魔を大切にして、見知らぬ天使を粗末にしたからさ」
 店長は不審げに尋ねた。
「あなたは、本当に悪魔さんなんですか?そうは見えないですけど。悪魔は見るからに恐ろしいものでしょう?」
 そういうと常連客はゲラゲラと笑い始めました。

「あんたはホント何にも知らないんだな。悪魔が見るからに怖い顔をしているわけがないじゃないか。 いいかい、悪魔は人に取りいて災いをなす。 人に取り憑くためには人に好かれないといけない。 好感を持ってもらわないと、悪いことができるわけないじゃないか」
 店長は『なるほどそうだ』と思った。

「実を言えば俺は、まだ下っ端さ。この店の超常連の佐田さん、あれは「サタン」さ。超大物悪魔。 スタッフに超愛想がよかっただろう。それに太っ腹。たまに周りのお客さんにコーヒーをおごったりしていただろう」
「ええ、私もよく知っています。まさか・・・」
「そのまさかさ。悪魔が一番避けないといけないのが、スタッフから嫌われること。 そして周りの人から怪しまれること。 だから佐田さんもスタッフには十分気を使っていたよ。 ところで、あいつがどれだけ勝っていたか知らないだろう。 月に平均100万円以上稼いでいたよ」

「でも、そんなに大勝している風には見えませんでしたけど」
「そりゃそうさ。勝つときでもそんなバカ勝ちはしないよ。 1日に3万円ちょっと勝てばいいんだからね。目立つのは厳禁さ。 勝ったときでもたまに、『勝てないから、もう少しスタートを回して欲しい』とスタッフに愚痴を言っていたと思うよ。 自分の玉を積んでいるふりしてさ。悪魔は被害者を装ってクレームをつけるのさ」

 そう言えば、思い当たる節がある。スタッフが終礼でお客様からの要望と言って報告してくる。 スタッフはクレームを本気にして、店が利益を取り過ぎていると思っている。

「よく考えるとわかると思うよ。佐田さんが海コーナーに居ついてから海客が減っただろう。 それは佐田さんが勝つから、海の利益が取れなくなって、利益調整していただろう。 だから悪循環が起こったんだぜ」
 確かに考えると海の利益がとれなくなり、適正利益がとれるように工夫する。 しかし、しばらくすると取れなくなり、また工夫するという正に悪魔のサイクルが起こった。 そうしている間に海のお客様がどんどん減っていた。

「そのとき主任やスタッフが、佐田さんの玉箱をあげながら、 『いつもありがとうございます。毎日のように来ていただいて助かります』なんて言ってたよね。知っている?」
 常連客はニヤニヤしながら店長の顔をのぞきこんだ。
 確かに主任に海のお客様が減り始めたので、毎日のように来ている佐田さんには感謝しないといけないねと言った記憶がある。

「佐田さん以外にも、超常連の浅瀬さん、北斗に居たてけど彼もだよ。 彼は「アザゼル」大物悪魔だよ。彼もいつも笑顔で愛想が良かっただろう。 この店舗には、他にも大物悪魔が何人もいてたよ。 いつもニコニコしていたよ。よっぽど居心地が良かったんだね」
 そう言って嬉しそうに常連客は笑った。

「そ、そんなぁ・・・。うちには悪魔しかいなかったんですか?」
「そんなわけないだろう。悪魔は少数さ。以前は人間が約4割。天使が約6割ってとこかな。 あっ、そうそう佐田さんと同じ海コーナーにいてた神田さん。彼は正真正銘の天使。大天使「ガブリエル」だよ。 俺ら陰で“ガブちゃん”て呼んでるけどね。
 彼はこの店舗に毎月売上で150万円、利益では50万円以上つぎ込んでいたよ。 田んぼをやめて不動産経営をして収入があるからさ、この店のために頑張って大盤振る舞いをしていたよね。 でも、今月に入ってとうとう諦めたね」
 そう言えば神田さんも毎日のように来ていた。 愛想はそんなにないが、クレームは言わないし、おとなしいし、黙々と打っていたという印象がある。

「でも神田さんなんかは例外だぜ。大天使は少ないんだ。 だから約6割のほとんどの天使は、そんなにお金も持っていない。 だってそうだろうお金に固執していたら、天使になれないからね」
 それもそうかと店長は思った。

「それにさ。天使は愛想がそれほど良くない。 やましいことはしていないから、無理に愛想をふりまいて、スタッフに取り入ろうとはしない。 クレームも言わない。ただ来て黙々と打つだけ。お金が無いから来店する回数も少ない」
 なるほど自分が思っている天使のイメージとはかなり違う。

「特徴がないし来店回数も少ないからスタッフは天使を覚えようとしない。 天使もさ、大事にされないから、無理にこのお店に来たいとは思はない。 だから来店回数がさらに少なくなる。そして来なくなる。
 でもさ、彼らは人数が多いし、たいてい負けて帰るから、かなりの利益貢献をホールにしていたんだぜ。 以前来ていた6割の天使は、今はめっきり居なくなったけどね」
 常連客はそう言ってニッコリほほ笑んだ。

 そう言えば、接客やサービスの強化の指示を出すと、 役職者やアルバイトスタッフは、馴染みのある愛想の良い常連さんを中心に、 気を使っていろんなサービスをしていたのを店長は思い出した。

 つまり、ホールから利益を持っていく悪魔に対して、スタッフや役職者が一生懸命にサービスをし、 利益をもたらす天使に対して、目立たない、印象に残らいからとサービスをしてこなかったことに気づいた。
 その結果、悪魔が増えて、天使が去っていった。店舗が傾くのは当然のことかと店長は納得した。

『このことは今からでもスタッフに伝えないといけない!』  

 気がつくともう常連客はいなかった。びっくりして周りを見まわしていると、耳元で声が聞こえた。
「店長さん、俺、少ししゃべりすぎたから記憶を消させてもらうよ」

 店長は、スタッフから声を掛けられた。
「店長、どうかされたんですか?」
 店長はどうしてここに立ち止まっているのか思い出せなかった。 そして、何でもないと言って、またホールを回り始めた。

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