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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◆◆ 無知は周りを不安にさせる ◆◆◆

 むかしむかしあるところに、パチンコ店で働いている若者がいました。
 毎日まじめに働いていたのですが、ある日、常連のご夫婦で来られているお客様から少し文句を言われました。
「おまえのところは“遠隔”えんかくをしているだろう」
 若者は急に言われてキョトンとしました。
「俺はいつもかみさんと二人で来ているが、二人とも勝ことはめったにない。 俺が勝っていたら、かみさんを負けさせるように、かみさんが勝っていたら、俺が勝たないように事務所の奥から遠隔で操作しているんだろう。 みんなうわさしてるよ。たいてい負けているんだから、勝つときは気持ちよく勝してよ。 今日も、もうちょっとで勝つところだったのが、勝てなかった。まあ、あなたに言っても仕方がないけどね」
 そう言って夫婦は帰っていきました。

 若者も友達や親せきから、パチンコ店の“遠隔”の話は、聞いたことがあります。 でも、まさか自分の働いているパチンコホールが、そんなことをしているとは思いもよりませんでした。 終礼でその夫婦のクレームことは報告しましたが、主任からスルーされてしまいました。
 働いている仲間に遠隔の話をすると、「そんなこと俺が知るわけないだろう」と言って、相手にしてくれません。

 若者は、パチンコ好きの友達に相談してみました。
「そういう話は、以前はよく聞いたから、やっているかもしれないよな。 俺も同じでさ、彼女と言って二人とも勝ことは滅多にないよ。 10回言って1回ぐらい?かな。二人とも負けるのが半分くらい。そんな感じかな」
 若者は、あの夫婦と同じだと思いました。やっぱり勝過ぎないようにしているんだと思いました。 念のために他の友達にも聞きましたが、同じような感じです。

 若者は悩みました。なぜなら、亡くなったお父さんの最後の言葉は、
「悪いことはするな。悪いことに手をかしてもダメだ。人に迷惑をかけるな。良いことをしろ」だったからです。
 若者にとって“遠隔”をしている店で働くことは、悪いことに手を貸しているようで嫌でした。 しかし、急に辞めることはできません。 急に辞めるとパートをしているお母さんの負担が増えてしまいます。

 若者は我慢して働きました。 でも、回らないなど、クレームを言われる度びに「申し訳ありません」と言ってしまい。 だんだん仕事自体が、灰色に見えてきました。主任から注意されることも多くなり、仕事が益々つらくなってきます。

 若者は教会に行って神様に祈りました。
「罪深き私をお許しください。私はどうすればよいのでしょうか」
 教会でお祈りをすると気持ちが楽になるので、若者は毎日通うようになりました。

 いつものように教会でお祈りをしていると、急に周りが明るくなり、まぶしくて目をつむりました。 光がおさまり、目をあけてみると、神様が立っていました。
 神様は、おもむろに若者に声を掛けました。
「若者よ、何をそんなに悩んでいるのかな?」
 若者はお客様から文句を言われたこと、友達の話をし、“遠隔”という違法行為に手を貸していることに対する自責の念を述べました。

 話を聞き終わると神様は言いました。
「出て来るんじゃなかった」
 若者は聞き返しました。
「今、なんとおっしゃいました?」
「だから、出て来なければ良かった!と言ったんじゃ」
 若者は驚いて言葉を詰まらせながら理由を尋ねました。
 すると神様は言いました。
「お前、中学の時に勉強もせずに遊んでいたんだろう」
 確かに若者は中学の時、義務教育はくだらないと言って、あまり勉強をしないで、ゲームをして遊んでいました。

「こんな話、確率の初歩を知っていれば、そのお客さんや友達が勘違いしていることがすぐわかったはずじゃ」
 どういうことなのか、若者はさらに尋ねました。 勝ち確率
「いいか、お前が働いているホールで勝つ確率は、だいたい3回に1回ぐらいじゃ。 だから、夫婦ふたりが同時に勝つ割合は、3回の1回のそのまた3回に1回、つまり9回に1回じゃ。これが普通じゃ。 だから、夫婦そろって滅多に勝てないのが、普通。その客さんは無知だから、ただ言いがかりをお前につけているだけなんじゃ」
「そうだったんですか」若者はホッとした。
「だいたい今時、リスクの高い“遠隔”など、してるホールなどあるはずはないじゃろ!世間の風評じゃ」
 神様がそういうと若者は晴れ晴れとした顔で、教会を出ようとしました。

 それを見ていた神様は「ちょっと待て!」と後ろから呼び止めました。
 振り返ると神様が怒っています。
「なんでしょうか?」
「お前は自分の罪の自覚がないのか?」
「なんのことでしょうか?おっしゃってる意味がわかりません」
「お前がお客様の話を聞いて、ホールを疑ったことで、お客様に不信を抱かせた。 友達にも“遠隔”の話をし、説明できなかったことで、世間にホールに不信を招く種をまいた。 そうじゃないか。それは父親の『他人に迷惑をかけるな』という言葉に反しているのではないか」
 そう言われると確かにそうだと若者は思いました。

「神様、私はどのようにしたらいのでしょうか?」
「若者よ、お前のいるパチンコ業界は、確率を娯楽として楽しむ業界じゃ。 その業界で働く限りは、最低限の確率の知識を身に付けるべきではないか。 そうすれば、世間やお客さんの言葉に惑わされず、自信を持って働ける。 お前に自信があれば、このホールは安心して遊べるホールという思いがお客さんに伝わり、楽しい娯楽となる
「分かりました。頑張ります」若者は元気よく答えました。
「それでは帰るとする。困難があっても、くじけないようにな」
 そう言って神様は天へと帰っていきました。

 若者はさっそく家に帰って、確率の勉強をしようと思い、中学校の教科書を探しました。しかし、どうしても見つかりません。 若者はパートから帰ってきた母親に、教科書のことを聞きました。
「おまえ、忘れたのかい。昨日、お前が社会人になったから、もう勉強しなくていいって、 ゲームの本以外は、全部廃品回収に出しておいてくれって言ったじゃないか」

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