◆◇◆ 利益の出ない100店舗より利益の出る1店舗 ◆◇◆
むかしむかし、あるところにパチンコを経営している会社がありました。
昔は繁盛していたのですが、パチンコ人口が減っていく中、業績が徐々に下がっていました。
社長は、3年前にお父さんの後を継いだ2代目です。
社長になった息子は、このジリ貧状態を何とかしたい。 親父が作ったこの会社、何とかこれまで通り維持をしたい。 自分の代で、会社がショボくなるのは避けたい、と思っていました。
親父が亡くなる前に、会社の将来を非常に心配していました。 息子が「社長になった俺がなんとかするから」と言っても、心配を止めませんでした。
息子は自分が本気を出せば何とかなると、楽観的に考えていたが、親父が心配したとおり、 実績を見ると売上も利益も落ちてきています。 このままでは親父に申し訳けが立たない。 それにこのままでは社員も将来に対する希望が持てない。 息子は悩んでいました。
店長会議で、みんなに頑張るように言うのですが、 地域のパチンコ人口が減っているうえに、競合店の攻勢も相変わらず強い。 店長も頑張りますと言いますが、改善の目処が立ちません。 親父の三回忌には胸を張って、会社のことを報告したと思っている社長は焦りました。
そこで、打開策を考えるために特別店長会議を開きました。
「みんなも知ってるように、売上と利益が落ちてきている。このままでは会社の将来は危うい。
少なくとも会社の業績は維持したい。みんなの知恵を貸してもらいたい」
社長はそう言うと、集まった店長20人に一人ひとりに意見を聞いて行きました。
しかし、どの店長も今以上に売上や利益を上げることは難しいという話しかしません。
その時、エリア長から提案がありました。
「やはり、新店開発しかないと思います」
営業本部長も、新店を出すことで、売上と利益を補填でき、少なくとも会社を維持することができる、
上手く行けば、業績を上げることも可能だと説明しました。
店長たちも大賛成です。
息子は思いました。『やはりそれしかないか』
今なら会社の資産は豊富にある。
それに廃業していくホールも多いので、居抜き物件も多い。
息子は腹を決めました。
営業本部長に今後5年間の出店計画を立てさせることにしました。
息子は久しぶりに心に余裕ができました。 会議終了後、営業本部長やエリア長、店長も連れて高級ラウンジに行き、 今後の計画について大いに盛り上がりました。
深夜遅く帰宅すると、シャワーを浴びてすぐにベットにはいりました。
ふと目を開けると死んだはずのお父さんが横に立っています。
「お父さん、どうしたんですか?三回忌は再来週ですよ」
と息子が言うとお父さんが答えました。
「会社が心配で、思わす出てきてしまった」
それを聞くと息子は安心してくださいと言って、昨日の会議の話をしました。
聞き終わるとお父さんは社長の息子に確認しました。
「現状を打開するノウハウがないから、新店を出して利益を維持すると言うんだな」
「まあ、そういう言い方もできるかもしれませんが・・・」
「今、各店舗の利益が下がっている。各店舗の利益がさらに下がり、1億円、5千万円と下がっていったらどうなる?」
「だから、その下げ分を新規出店で補うんですよ」
息子は答えました。
お父さんは怖い顔をして言いました。
「さらに下がって、利益がゼロ、さらにマイナスになったらどうする!?」
「・・・・・」
「一挙に巨額の赤字が出るではないか。赤字を出す店舗が100店舗になったらどうつもりだ!」
幽霊となったお父さんは社長の息子を一括しました。
「昔から資産を失う速度は、資産を構築する速度より5倍早いと言われている。
それは資産を失うときの会社規模は、資産を構築するときの会社規模より、大きくなっているからだ。
お前の計画でいけば、俺の築いた資産はあっという間になくなってしまう」
息子は金縛りにあい、お父さんの幽霊を見たまま動けません。
「息子よ!よく聞け、利益の出ない100店舗より、利益の出る1店舗じゃ。
これ以上改善ができない、工夫ができないという言い訳をする連中を甘やかしているお前が悪い。
何の工夫も無く、店舗拡大はもってのほかだ!」
そう告げるとお父さんの幽霊は消えていきました。
翌日、息子が会社にいくと、営業本部長が嬉しそうに近寄ってきました。
「社長、昨日は御馳走さまでした。みんなやる気がでました。私も今朝早く出社して、出店計画をまとめてみました」
そう言って出店計画書を息子に提出しました。
その瞬間、息子はズシリと、背中に何かが憑りついたように、重くなった感じがしました。
★・・・他の寓話も見る
掲載日: