◆◇◆ お前が、楽しくない ◆◇◆
むかしむかし、あるところにパチンコ店がありました。 信心深い店長は、事務所の神棚に向かって、毎日、お酒とお米をお供えして、店舗が繁盛するように拝んでいました。
ある時、店長は社長に呼ばれ言われました。 これからは、新台や出玉に頼ってお客様を集めるだけでは、勝ち残れない。 新業態として、コミュニティのある地域密着のホールをつくり、地元の人を集めるように言われました。 店長は社長のいう地域密着のホールを作るために毎日頑張りました。 しかしながら、なかなか思うような成果がでません。 それどころか稼働が下がり始めました。
成功しているホールの話も聞き、セミナーで情報収集もし、打てる手は打っています。
店長はこれ以上何をすれば良いかわかりません。
このままでは社長の期待を裏切るどころか、怒りをかってしまう。
苦しい時の神頼みとばかりに、事務所にある神棚に向かって、問いかけました。
「どうぞ神様、どこが悪いのか教えてください」
すると神棚から声が聞こえてきました。
「お前が、楽しくない」
店長は意味がわかりませんでした。
「もう少し詳しく、お願いします」
しかし、それ以上声は聞こえてきません。
数日悩みましたが、意味がわかりません。
店長は意を決して、神棚の神様が祭られている神社へ行きました。
そして、お賽銭を備え、改めてこの間の言葉の説明を求めました。
あまりに長く、神殿に手を合わせているので、宮司さんが来て言いました。
「今、神様はいないよ。今月は神無月といって、出雲に会議のために出張中だからね」
店長はそれは困ると言い、神様から「お前が、楽しくない」と言われたことを告げました。
すると宮司は言いました。
「ここの神様は、根本原因しか言わないからね。おそらく、それはそのままの意味で、あなたが楽しくないので、すべてに悪い波動が出ているということでしょう」
「どういう意味でしょうか?」
「ちなみにあなたは、社長から言われた『地域密着のホール』づくりを楽しんでやっていますか?」
「そんな余裕はありません。ただやるだけです」
「そうだろうね。だから、あなたの部下も、その『地域密着のホール』とやらに取り組んでいるが、おそらく楽しくないと思うよ。楽しくないと思っている人間からどんなサービスを受けても、楽しくないだろう」
「でも、頑張ってますから」
「人は頑張るところに集まるのではなくて、楽しいところに集めまる。あなたのいう地域密着の店舗ができないのは、楽しくないからじゃないかな」
そう言うと宮司さんは忙しそうに社務所に入っていきました。
店長は宮司の言っていることが腑に落ちませんでした。
神社の帰り、せっかくだからと競合店に視察を兼ねて立ち寄りました。
車を降りてホールに向かう途中、二人ずれの老人とすれ違いました。
事務所のモニターで見たことのある顔です。そのとき、二人の会話が自然と聞こえてきました。
店長は自分の店舗の話をしていたので、思わず聞き耳を立てました。
「最近、いつものホールに行かなくなったね」
「そうなんだ。いろんなことをしてるけど、スタッフがやらされ感満開で楽しくないんだ。嫌々やっていると、こっちも不快になる。『嫌々やるなら、やらんでええ』と嫁に言っている婆さんの気持ちがわかる気がするよ」
振り返った店長はしばらく二人の後姿を見ていました。
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