◆◇◆ 第10話 大天使の憂鬱 ◆◇◆
むかしむかし、あるところにパチンコ業界担当の4人の天使がいました。
そこへ神に使える大天使がやってきました。
序列1位の一の天使が言いました。
「神様からのお言葉があったのでしょうか?」
大天使は頷きました。
序列2位の二の天使が言いました。
「それでは今回の新台は大ヒットになるんですね」
大天使は言いました。
「その通り、パチンコ業界の人間のお祈りの量が、お祈りタンクに一杯になったということで、神様が今回の新台の大ヒットを約束された」
序列3位に三の天使が言いました。
「これで多くのパチンコ店が救われますね。これで私も安心して眠ることができます」
序列4位の四の天使が言いました。
「これでパチンコ業界も救われる」
四人の天使は単純に喜びました。
この様子を大天使は見ていて、このままではマズイと思いました。
「みなさん。人間観察が砂糖に蜂蜜をかけたように甘い。良い台が入ったからといって、すべてのパチンコ店が救われるとはいかないだろう」
大天使は考えました。このままにしておくと、このグループは人間観察ができていないと、いずれ神様から私が怒られる。
ここはみんなの人間観察眼を養うために何かしないといけない。
その時、大天使は閃きました。
「みんな、良い機会だから、人間観察力を上げる訓練をしよう。
それでは、今回の新台入替で、どのようなパチンコ店が稼働を伸ばすのか考えてほしい。
明日みんなに発表をしてもらう。いいね」
大天使は、4人の天使に告げました。4人の天使は、さっそくいろいろなホールを見に行くことにしました。
翌日、大天使を4人の天使が待っていました。
「それでは、四の私から発表します。私は、神様に祈りをささげていた量が多いパチンコ店が、一番稼働を伸ばすと思います。
なぜなら、神様の庇護を受けられるからです」
「それでは、三の天使が発表します。私は予定しているDMの枚数やチラシの枚数が一番多いパチンコ店が稼働を伸ばすと思います。
多くの人にその存在を知らせるからです」
「では、二の天使いきます。私は地域のパチンコ店の中で、導入台数が一番多いパチンコ店が稼働を伸ばすと考えます。
人間は一番に憧れます。また、新台が打てる確率の高い店を選ぶと思います」
「では、最後、私一の天使が発表します。私は出玉の量が一番多い店舗の稼働が一番と思います。
なぜなら、一番勝ちやすいからです。勝てると人はまた打ちに来ます」
大天使は頷きながら聞いていました。
「それでは新台導入の一か月後に一緒に検証しよう。真理を当てたものには、褒美としてランチを御馳走しよう」
そう言って中央神殿へ帰っていきました。
新台導入1か月後、大天使が4人の天使の前に表われました。
「みんな集まっているようだね。結果も出ていることなので、まず自分が発表した結果を報告してもらう。
予測に対する結果の検証を自分ですることも、自分の見識を向上させる大切な作業だ。
それでは四の天使から報告してくれ」
「それでは、発表します。今回初めて祈りの量と稼働数や稼働アップ率の関係を調べてみました。
残念ながら、あまり相関関係はありませんでした。でも、なぜなんでしょうか?」
「神はこの世を因果の法則で作られた。種を蒔かないと芽は出ないし花は咲かない。
いくら祈っていても、種を蒔かない限り何も起こらないのだよ」
「わかりました」そう言って四の天使は発表を終わりました。
「それでは、私、三の天使が報告します。私もDM枚数やチラシ枚数と稼働の関係を調べるため、散布図を作りました。
しかしながら、相関関係は見られませんでした。良く調べるとDMやチラシを見る人も少なく、見る率はバラバラでした。
単純に配布数で決まるのではないことが分かりました。
ただ気づいたのは、DMを見る率と店舗とお客様の親しさは相関がみられることが分かりました。以上です」
「三の天使よ。何かを発見するのは大切ことです」と大天使は褒めました。
「では、二の天使、報告します。私もダメでした。地域一番の導入台数と稼働との相関関係は低いものでした。
中には無理して1BOX導入して、地域最速一番台数にも関わらず、ぜんぜんお客さんの入らないホールもありました」
「昔のようにパチンコ人口が多ければ、相関関係は成り立ったけども、今のようにパチンコ人口が減っては、地域一番台数などの魅力は低下してきているからね」
「それでは、最後、一の天使が報告します。私もハズレでした。出玉量と稼働の相関関係は薄くなっていました。
馬鹿みたいに出玉をしているホールが全然稼働が上がらないと思えば、逆にそんなに出玉をしていないのに、パンパンに稼働がついているホールもありました。
念のため遊技者の勝ち体験率と出玉量を調べると、関係がないことが分かりました。私の基本的考えが間違っていたようです」
そう言って一の天使はガックリと肩を落としました。
「一の天使よ、なぜ、遊技者の勝ち体験率と出玉量の相関関係が無いのか、調べてみましたか?」
「はい、大天使様。わかったことがあります。
いくらスタートが回っても、投資するお金の量が少なければ、大当たりしないし、勝ち体験もしないということです。
一人当たり平均して3000円しか投資しないホールと、20000円投資をするホールを比べれば明らかです。
3000円のホールでは大量に負け体験者が発生して、再来店しませんでした」
「さすが、一の天使。出玉量と稼働の相関関係が強くできるのは、パチンコユーザーが同じ投資金額をするということが前提条件なのだよ。
それに気づけただけでも収穫だよ」
「ありがとうございます。大天使様」
一の天使は頭を下げた。
大天使は、みんなに訓辞をした。
「みんなこれまで、漠然とパチンコ業界を担当していたのが、これでわかったと思う。今回、みんなは仮説を立て、パチンコ店舗を見た。
だから、自分の考えが正しいのかどうか検証することができた。これが大切なんです。
皆さんは、人間を導く存在です。人間以上に神の理を理解しいなければなりません。
今後もこのように仮説を立て、業界を観察してください」
その時、四の天使が手を挙げた。
「なんだね」
「大天使様は、今回の新台入替で、どのようなホールの稼働が伸びたのでしょうか?」
そう言われて大天使はニッコリとほほ笑んだ。
「それは言うまでもない。稼働を上げるための種を、多く蒔いたホールだよ」
「具体的には・・・」
「例えば、このホール・・・」
大天使が右手をかざすと、大天使の右手に巨大スクリーンが現れ、とあるパチンコ店が映し出されました。
「このホールは、3か月前から準備をし、2か月前から具体的な種まきをしている。1か月前には事前集客を終え、新台入替当日を迎えている。
そして、導入後も再来店を促すための施策をストーリー性を持ちながら次々と打っている。
みんなが見てきたような、ただ新台を多く入れるだけとか、出玉をするだけとか、チラシを打って終わりなどのような単発強化的な施策はしていない」
すると三の天使が言いました。
「ある店長がいろいろしているが、稼働が上がらないと愚痴っていましたけど」
「それは、自分でやっているつもりになっているだけじゃないかな。ちなみにこのホールは、これまでに大小の施策を15以上しているが、そのホールはどうかな?」
「せいぜい5つぐらいです。でもこれ以上は思いつかないと言ってました」
「それは、その店長が自分で限界を作っているのだよ」
「そう言えば、これ以上無理とか言って、それ以上考えませんでした」
「だからだよ。神様がお与えになった人間の知恵はもっとある。それをお前たちが良く知っているはずではないかな。
その限界を突破させる機会を人間に与えるのが、お前たちの役目のはずだ。
本気で知恵を出すことによって、業界が発展していく。それを支援するのがお前たちの仕事ではないか」
「大天使様、よくわかりました」
「最後に言っておくが、施策の量も大切だが、質はもっと大切ですよ。
とりあえずやる。嫌々やる。適当にやるなどの不徹底は、施策を実施したことにならない。
施策には質があり、レベルがあります。皆さんの知識と見識を上げないと、それは見えてきません。
自分の無知や無能を『神の不公平』とすり替えないようにしてください。神は理であり、公平です」
「大天使様の教え、肝に銘じます」
4人の天使は、声を揃えて答えました。
大天使は中央神殿への帰り道、心配になり、なんども振り返りました。
『彼らは、本当に理解できたのだろうか?』
また彼らがいい加減なことをやり始めると、今度は私が神様から説教されることになる。
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