コミュニティマネジメント研究所

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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◇◆ 第12話 計画と予測 ◆◇◆

 むかしむかしあるところにパチンコ店を経営している会社がありました。 若者は大学を卒業するとその会社に入社し、30歳前でしたが店長になりました。 店長になって初めて自分で年度計画を立てることになりました。 ところが、計画を立てるのですが、社長からなかなかOKがでません。 若者は困ってしまいました。

「本部長、なぜこの計画ではダメなんでしょうか?」
「社長がOKを出さない、もっと考えて計画を立てろとのことだ」
「去年と同じやり方で立てています。なぜダメなんですか?」

 会社は業績不振のため去年買収され、経営者が新しくなった。本部長はそのままだが、多くの店長が辞めていくか降格になった。 若者はそのとき副店長になったばかりであったが、店長に抜擢されたのであった。
 社長はホテルやレストラン、スポーツ施設、タクシー会社などいくつもの事業をしており、たいへん忙しく、パチンコ事業部は本部長に一任されていた。

「本部長、なんとか言ってください」
「私としては、悪くないと思うんだが、社長が見るとこの計画書は、まったくダメらしい」
「そんな他人ごとのように言わないでくださいよ」
「でも、ダメなのはお前の計画書だけじゃなくて、他の店長もアウトになっている」
「どうしてなんですか?」
「数字が前年対比で下がっているからかもしれない」
「そんなぁ・・・。無理に高い数字を書いても意味ないじゃないですか。 私はこれまでの傾向をみて、稼働数にしても、玉粗利にしても間違いない数値を予測して書いています。 社長に気に入られるために無理な数字を出しても、未達、未達で、それこそ計画にならないですから。 そうだと思いませんか」
「私もそうだと思っている。だから社長にもパチンコ業界の置かれている状況、パチンコの規制問題などの説明をしているが、どうも納得いただけない」
「そうは言われましても、私も過去の分析を行い、季節的な要因や競合店の動向も考慮しています。 遊技機も期待できないですし、地域のパチンコ人口の減少具合もちゃんと計算しました。 これ以上何を考慮して予測をしろと言うんですか?」

 本部長はしばらく考え込んでいたが、 「もしかしたら、経費の詰めが甘いことを指摘されているのかもしれない」 と言い出した。
「本部長、機械代にしても人件費にしても昨年に比べ、かなり削っています。これ以上削ると運営に支障がでてきますよ。 一番最初に作り直した時に、本部長の指示で、運営できる最低限に落としています」
 若者は、これ以上何をして良いか分からなかった。
「本部長、もう一度社長と交渉してください。お願いします。私ももう一度考えますけど、このままでは計画無しで来期を迎えることになりますよ」
「・・・・・・分かった。他の店長の作り直しも難しそうだし、店長の言うように計画無しでスタートになる。もう一度社長を説得してみるよ」
 本部長は力なく笑った。
 若者は店舗に戻ったが、年間計画を作り直すために、後の処理は副店長に任せて、早目に家に帰ってもう一度考えることにした。

 ◇◇◇

 家に帰ると久しぶりに商社に勤めている兄が家に帰っていた。
「兄さん、久しぶりだね。こっちに出張?」
「ちょっと本店に用があってさ。ところで店長になったんだって?」
「とりあえずね。でも散々だよ」
「いいじゃないか。早く結婚したらどうだ。給与も上がるんだろう?」
「少しはね。でも会社の業績が下がってきているからさ」
「そう言えばパチンコ業界はだいぶ縮小してきているよな。お前も頑張らないと会社がヤバくなるんじゃないのか?」
「もうヤバくなっているよ。昨年買収されちゃったしさ」
「そうだったな。今の経営者はどうなの?」
「良く分からないよ。忙しくて本部長任せだからさ」
「へーそんなんだ」
「悪くはないけど、最終決済が社長からなかなか降りなくて困っているんだ」
「なるほどね」

「今も年間計画の作成で苦しんでいるよ。昨年まで年間計画はすんなり承認されていたのに、今の社長になったとたんにアウトだよ。 もう3回もやり直しをしている。それでもだめなんだぜ」 計画
「年間計画か、どんな計画だ、ちょっと見せて見ろよ」
 若者はカバンに入れていたエクセルで作った年間計画を兄に見せた。
「ほらこれさ、売上や利益の数値は過去3年の計画を調べて、予測してだしたものなんだ。結構自信があるんだけど。すくなくとも俺の前任の店長より、考えて作っているよ」
「前年に比べて下がっているな、この計画」
「それは仕方がないさ、パチンコ業界は厳しいんだ。この数値はかなり正確に予測にしているよ。どう見ても妥当な計画だと思うんだけど」
 そう言って若者は応接間のソファーで横になり、背伸びをした。

 年間計画を見ていた兄が若者に声を掛けた。
「この計画右片下がりだね。ちょっと訊いていいか。この計画の中にお前の意思は入っているのか?」
「意思?」
「状況予測をしているのは分かったけど、おまえがこの店舗をこういう風にしていきたいという『想い』と、そこから導き出される業績数値だよ」
「どういうこと?」
「お前が言ったとが本当だとすれば、これは計画ではなくて、ただの予測さ。 そうだろう。これまと同じことをしていれば、これくらいはいくでしょうという『ただの数値の羅列』さ。こんなものは計画とは言わないぜ。 すくなくとも俺の会社でこんな計画を立てていたら、すぐに降格になるさ。 やる気の無い人間ってレッテルをはられるぜ」
 若者はびっくりした。
計画とは、それを立てる人間の『こうしたい』という意思の表れだぜ。 だからまずこうしたいという意図をもって目標を定め、予測をして、ギャップがあれば、それを克服する方法を考えて、最終的な数値を目標として決めていく。 その思考シミュレーションが商売では一番大事なのさ。 だからこの計画を見て、直感的にダメだという今の社長は正しいと思うぜ。
 いくら予測が正確でも、占いでもあるまいし、それが当たったからといってなんになる?ただ流されているだけだぜ。 そんなの誰が店長をしようが同じゃないか」

 若者は兄貴の言うことも一理あると思った。
「しかし、兄貴、これがこの業界の計画の立て方なんだ。昔からずっとこのやり方をしてきたんだ。だから正しいんだ。今さら変えるわけにはいなかないよ」
「なぜ?」
「そんなことをしたら、俺が目立つじゃないか。出る釘は打たれるに決まっている。俺は兄貴の口車に乗って危うい目に遭いたくないんだ」
 そういうと若者は兄貴が持っていた年間計画を取り上げてカバンにしまった。そして疲れたからと言って、風呂に入り早めに寝床に入った。そして思った。
「今日の兄貴に話は聞かなかったことにしよう」
 若者は深い眠りに落ちていった。

 ◇◇◇

 翌日店舗に行くと本部長から電話がかかってきた。
「年間計画の件だけど、時間がないからと粘りに粘って、社長からとうとうOKをもらった。だから、年間計画は作り直さなくて大丈夫だ」
 さすが本部長だ。これでこの一年は安心だ。若者はホッとして、急に気分が軽くなった。

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