◆◇◆ 第13話 プロのこだわり ◆◇◆
むかしむかしあるところにパチンコ店がありました。
社長に言われて、コミュニティホールをしようと店長は頑張っていたのですが、一向に成果が見えません。
春から始め、夏を過ぎ、冬になりました。
店長は面倒臭くなり、止めようと思いました。
しかしながら、止める口実を見つけることができません。
店長はこれまでと同じく、新台入替と出玉営業だけをしっかりすることが、プロのこだわりだと思っていました。
なぜ余計な仕事をしないといけないのか納得できません。
社長にコミュニティホールの取り組みを諦めてもらいたい。
その思いは日に日に強くなってきました。
そして、ついに社長の方針が変わらないのなら、この会社を辞めて、別のホールに勤めることを考え始めました。
◇◇◇
思いつめた店長は、以前セミナーで知り合った別の会社の店長に会って相談しました。
「私は、今の会社の方針に納得できない。コミュニティ化に取り組んでも成果は上がるわけがない。
お客様は勝負に来てるんだ。
新台入替と出玉営業でこれをサポートすることが、プロとしての店長のあるべき姿と思う。あなたはそう思わないか?」
別会社の店長は答えました。
「君の言うことは正しい。俺もそう思う。もしよければ、うちの会社に転職しないか?もうすぐ店長が一人クビになる。ポストが一つ空く」
店長は目を輝かせました。
「それは本当かい」
「本当だとも、俺が社長に紹介して、そのポストに付けるように段取りができる。給与も今の1.5倍は出せると思うよ」
「ありがとう。やっぱり相談してみるものだな」
店長は喜びました。
「ところでポスト獲得の条件が一つだけあるんだ。転職までの2か月の間に、今の店舗で稼働を2割ほど上げておいてくれ。
会社を辞めるつもりなら、社長の言うことを聞いて、手間がかかるコミュニティに取り組む必要がないから可能だろう。
その実績を持って俺はうちの社長を説得する」と別会社の店長は言いました。
それを聞いた店長は答えました。
「無茶を言わないでくれ、パチンコ人口が減っているんだ、『新台入替と出玉営業』だけで、稼働が改善できるわけがないじゃないか。
できるなら、俺は社長のコミュニティの指示をはねつけたよ。ジリ貧がとまらないから、イヤイヤ従っているだけに過ぎない」
別会社の店長は憐れむように言いました。
「それじゃ、転職は諦めた方がいい。
今度、クビになる店長は、『新台入替と出玉営業』で稼働を上げて見せると言って成果が上がらず、
それを地域のパチンコ人口減少のせいにして社長を怒らせた奴だから」
「・・・・・・・」
そのとき喫茶店のドアが開き、風が中まで入り込んできました。
『冬の風って、やっぱり冷たいな』
店長は冷めたコーヒーをいつまでも見つめていました。
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