コミュニティマネジメント研究所

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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◇◆ 第17話 計画のレベル ◆◇◆

 むかしむかしあるところパチンコ店を経営している会社がありました。
 計画を出させるのですが、稼働はだんだん悪くなっていくばかりです。
 社長は会議で集めたメンバーに尋ねました。
「なぜ、業績の低下を止められないのか?」
 店長会議で集まった店長は誰一人顔を上げようとしません。

 部長は苦しまぎれに答えました。
「パチンコ人口が減少していて、どうしようもありません。 パチンコ人口が増えてくれれば何とかなるでしょうが、現状では何ともできません」
 社長は部長をジロリと見ました。
「パチンコ人口が減って、同じように業績が下がる、増えればそれに伴って業績が回復するというのであれば、部長の役割とは何だ?いてもいなくても同じじゃないか。
 パチンコ人口が減って苦しい時でも業績を上げる、あるいは維持してこそ部長の価値があるとは思はないのか?」
 部長は社長にそう言われると反論できませんでした。 V字回復

 部長は困りました。
 昔は1年の稼働と利益の予想がだいたいつきました。 計画を立てるとほぼその通りに推移をしていた。 パチンコ人口も十分いて、順調に業績を伸ばしていくことが出来た。 そのお陰で店長から部長になった。
 ところが、部長になったあたりから、経営環境が厳しくなってきた。 それでも、出玉や新台入れ替えを行うと同時に、チラシの配布地域の見直しやイベントの強化することで、なんとか業績を維持してきた。

 しかしながら、ここ数年は毎年のように業績が下がり続けている。
 店長にイベントや新台入替を強化するように指導しているが、なかなか成果が出ない。 このままではジリ貧になってしまうので、社長が何とか改善しろという気持ちは分かる。
 しかし、各店長が提出してきた新台入替や出玉、屋台イベントや景品イベントを見ても、稼働が維持できるように思えない。 部長は、店長の店舗運営の計画立案のレベルが下がってきているように感じた。

 それでは思い切って店舗のリニューアルをする、という対策も頭をよぎるが、稼働が上がる保証はない。 実際競合店でもリニューアルをしてすぐに元にもどっている店舗も少なくない。 それでは他に会社の業績を回復するために何をすべきかと社長に訊かれても答えられない。 これ以上手の打ちようがないような気がするのである。 部長はいくら考えても業績を回復させるイメージが湧かなかった。

 このままではまた社長から何を言われるのか分からない。 部長待から店長に降格されるか、最悪の場合、辞めさせられるかもしれない。 50歳を過ぎてからの転職は難しいし、この業界で転職したとしても、同じ課題を突き付けられることは容易に想像がつく。 部長はどうして良いか分からず、しだいに憂鬱ゆううつになってきた。そんな日が続いた。

 ある休日、部長は気分転換のためにブラブラ歩いていると、近くのお寺のお堂の前に来ていた。 いつものようにお賽銭をあげて、またもと来た道を帰ろうとすると、声を掛けられた。

 振り向くと仏様が立っていた。
「何か困り事があるのではないでしょうか」
 部長はただビックリして、声が出なかった。
「私は、あなたを驚かすつもりで出て来たのではないよ。私はこのお堂に祭られている文殊菩薩(もんじゅぼさつ)です」
 そう言って文殊様はほほ笑んだ。

 部長はようやく口から言葉が出てきた。
「文殊菩薩様がなぜ?わざわざ顕現けんげんされたのでしょうか?」
「それはお前が昨年の秋、住職が風邪をこじらせたのを知って、代わりに寺の掃除を手伝ってくれたからですよ。 その時の礼を兼ねて出てきています。心配事があるなら、何でも言ってください。力になれるかもしれない」
 そう言ってまた微笑みました。
 部長は思いました。知恵第一の文殊菩薩様なら、どうすれば良いのか知っているかもしれない。 そこで、文殊菩薩様に会議でのやり取りの話を説明し、どのような指導を店長にしたらよいかを尋ねた。

 すると文殊様は部長の話の内容を確認した。
「昔、業績は計画通りに行っていた。それがだんだん計画通りに行かなくなってきた。 しかし、数年前までは、無理してやれば、何とかなった。 現在は、無理をしてやっても計画通りに行かなくなった。ということですね」
「そうです。現場の店長のレベルが下がったのは何故でしょか?」 すると文殊様は言われた。 計画
「店長の計画立案能力が落ちたのではありません。 業界の厳しさが増し、部長や店長に求められる計画レベルが上がったのです。 皆さんの能力がそれに追いついていないだけです。 その結果、業績の改善の計画が立てられないだけです」
「計画のレベルですか?」
「そうです。求められる計画レベルが上がったのです」
 部長はピンと来なかった。

 怪訝けげんそうな顔をしていると文殊様は話を続けた。
「計画のレベルは3つある。

〇第一段階(レベル1)は、今までの施策のスケジュールを決めるだけのもの。 これは単なる作業レベルで、経験があれば、誰でもできるレベル。
〇第二段階(レベル2)は、今までの施策をしているだけでは、業績達成が困難となるので、少し工夫がいるレベル。 これは今までの施策の回数を増やしたり、施策の強化をして計画を立てるもの。 これまでの経験にプラスして工夫と資金力で何とかなるレベル。
〇第三段階(レベル3)は、ホールの問題を解決しないと業績をあげることが出来ないので、計画の中にそのための施策を織り込む知恵がいるレベルのもの。 経験ではなく最重要課題を発見するスキルが無いとできないレベルのもの。

 経営環境が厳しくなるにつれて、レベルの高さを上げていくことができないと、業績は環境に流されて下降していくことになる」
 部長は、計画を立てる能力にレベルがあるとは思っていなかったので、目からウロコが落ちるように感じた。
 そして、店長のレベルが落ちたということではなく、ホールの経営環境がより厳しくなったことが原因であったことに初めて気づいた。

「ということは、私の店長時代は、パチンコ人口も結構あり、いろんなことができた。 確かに基本的には、出玉と新台入替、それからイベントをやることで、十分でした。 計画を立てて目標通りに行かせるのは、店長として高い能力が身に付いたと思っていました
 部長は過去を振り返ってみると、この頃は、以前から実施してきた施策をやれば、目標を達成することができた。 つまり、ルーチンワーク的に店舗を運営すればよかった。 文殊様が言われるようにスケジュール管理的な計画で良かった
「その時代は、レベル1の計画能力で十分だった。 だから多くのパチンコ店が、それなりに営業ができたのだよ」
 文殊様はやさしく微笑んだ。

「私が部長になってからは、パチンコ人口も減り、規制の強化もあり、今まで通りの計画では未達成になるので、 出玉の量を多くしたり、出玉の回数を増やしたり、新台入替を工夫し、すぐに売却をしたりしながらやってきました。
 それは、文殊様がおっしゃったレベル2の計画能力だったのですね」
「その通りですよ。そこまでは、あなたは頑張って対応していきた。 また、あなたにレベル2の能力があったから、店長達の指導もできたし、店長達の計画能力を上げてきた。 これに適応でききなかったホールは、淘汰されていった。 特に資金力がないホールは、店長の計画能力があっても、実行できないので、淘汰は早かったと思います。 そんな中であなたは、会社を引っ張ってきたので、十分賞賛に値すると思いますよ」
 そう言って文殊様はほほ笑んだ。

「ありがとうございます。
 でもこれからは、このレベル2の計画能力では、業績は徐々に下がっていくことになるということですね」 そう言って部長が文殊様を見上げた。
 文殊様は頷いた。
「現在のパチンコ人口が減少し、規制が強化される中でも、稼働を上げようと思えば、『レベル3』の計画立案能力を身に付ける必要があるということですね。 それが無いと社長の期待に応えられないということでしょうか」
 部長は文殊様に再度確認した。

あなたの会社が、業界でも指折りの資金力があれば、レベル2の計画能力でも業績は残せる。 だから、規模があると有利なんです。しかし、あなたの会社はそうではない。 とすればあなたや店長の計画能力を『レベル3』に引き上げる必要があるということになりますね
「『レベル3』ですか。規模が大きくなるとそれほど能力がなくてもやっていけるから、うらやましいですね」 そう言って部長はそれを見上げた。
「あなたの規模の会社では、これからは本当に知恵が必要となってくるということです」
 文殊様は、部長に避けようのない事実を告げた。

「私は、そのレベル3の能力を身に付けられるでしょうか?」
レベル3の計画を立てることが出来る人に師事する。 レベル3の考え方を教えてくれる研修を受ける。 独学でも研究していけば可能ですよ
「でも、能力を上げるのは時間がかかりますよね」
「それはある程度かかります」
「でも、私は時間がありません。来週末には最終計画を社長に提出しなければなりません。 今ごろ社長に相談しても、能力がないと判断され、最悪の場合辞めさせられるかもしれません。 文殊様、なんとかあなたのお力で、今、『レベル3』にならないでしょうか?」

「残念ながら、それはできない。 私の知恵は、奇跡を起こすためのものではなく、真理を見極めるものだからね。 種を蒔いて、一気に実がなることはない。 芽が出て、葉が茂り、花が咲き、初めて実がなる」
「そんなことは、私でもわかります。 それなら、もう文殊様を当てにしたりいたしません。 問題を教えてもらっても、解決をしてくれないなら一緒です。 でも、一応はお礼を言っておきます」
 部長はそう言って文殊様に頭を下げて、お寺を出て行った。

 部長は歩きながら思った。
『そうだ。少し行った先に、教会がある。 あそこの神様は人としてこの世にあったとき、奇跡を起こしたことで有名だ。 あそこの神様なら何とかしてくれるかもしれない』
 部長は、その足で教会に向かって行った。

 それを眺めていた文殊菩薩は、四苦八苦の一つ、『求不得苦(ぐふとくく)』(求める物が得られないこと)を衆生の心に生んでしまったと反省した。
 その時、「もしかしたら、計画の要求されるレベルを知らずに、ただ部下を一方的に責める人間の方が、幸せなのかもしれないね」と声が聞こえた。
 ~ 知らぬが仏??? ~
 振り向くと普賢菩薩(ふけんぼさつ)が立っていた。
「文殊さん。釈迦如来様がお呼びだよ」
 文殊菩薩は、普賢菩薩とともに消えていった。

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