コミュニティマネジメント研究所

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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◇◆ 第19話 ゴルフ場の約束 ◆◇◆

 むかしむかしあるところにパチンコ店を経営している会社がありました。 ある日の店長会議で、社長は会員様向けのサービスを強化して、会員様との『関係づくり』をさらに強化するように、店長に指示をしました。
 具体的には会員様に対して、少し特別なサービスということで、『おしぼり』を渡すという簡単なものでした。

 半月後、ゴルフ場に気の合う店長が集まっていました。 半年に1回やっている恒例のゴルフです。 まだD店長がこないので、A店長、B店長、C店長は雑談をしていました。 ゴルフ場

「この間社長から出された会員様向けのサービスの強化は進んでいる?実は取り掛かりが遅れてね。 みんなの意見を参考にして進めたいと思ってるんだ」
 A店長はそう言って、B店長、C店長に進捗状況を訊きました。
「うちはすぐに役職者に言ってさせているが、なかなか忙しくできていない。 手つかずという状な状態かな。C店長はどう?」とB店長は答えました。
 C店長は嫌な顔をして、その話かと言わんばかりに応えました。
「あれは愚策だよ、止めた方がいいね。俺も会議の翌日に役職者に伝えてすぐにやらせたが、会員以外のお客様からクレームが出てね。 今はストップさせている」
「どういうこと?」
 店長AとBが身を乗り出した。
「スタッフが会員に渡している『おしぼり』を見て、非会員のお客様がなぜ俺はもらえないんだとクレームがついてね。 それがさ、そのお客様も結構な常連なんだ。 結局主任からお客様が不快になるのでやめましょうということになって止めている」

「じゃ、社長になって言って説明するの?まさか、あの施策は間違ってますと面と向かって言えないだろう」
 A店長は店長Cの思いを代弁した。
「そうなんだ。でもやると評判が落ちるので、それをあえて社長に告げるべきか迷っている。 会社のことを第一に考えるなら、言った方が良いと思うんだけど、社長の指示に従えないのかと叱責されるのも嫌だしね。困ってるんだ」
「なるほど。だったら『やった』ということにして、やり過ごせばいいんじゃないの」
 B店長は軽く発言した。
「でも、おしぼりの数があまりでないと、不信に思われる」
「だからさ、適当にお客様全員に配ればいいんだよ」
 B店長は得意げに言った。
「なるほど、そうすればごまかせるかもしれないよね」
 店長Aも納得した。
「アドバイス感謝するよ」
 店長Cは喜んだ。

「それで社長ヘは真実を伝えないの?」
 B店長が改めてC店長に訊いた。
「それは止めておくよ。虎の尾を踏むことになったら困るしね」
「C店長、でも本当に会社のことを思うなら、社長にあえて言わなければならないじゃないかな」とA店長が言った。
 みんなもっともだと思ったが、自分から言い出すというものはいなかった。
 そこでA店長が提案した。
「この中で一番先に社長に指名されたものが、言うことにしよう。それをみんなが同意するというのはどうだろう?」
 みんなそれが良いと言うことになった。
 遅れてきた店長Dにもその話をすると、同じようなことで悩んでいたことが分かった。 そして、全員で社長の施策をやったふりをすることが一番会社のためになるという結論に達した。
 一番喜んだのは店長Aだった。 『取り組みが遅れてマズイ』と思っていたことが、『遅れて良かった』という意識に変わったのだ。
 A店長にとって、その日のゴルフはいつも以上に爽快だった。

 ◇

 半月後、月例の店長会議があり、社長は各店長に報告を求めた。
 まず最初に指名されたのは、E店長だった。
「それでは、社長のご指名がありましたので、私から報告をさせてもらいます」
 E店長は、今回の取り組みが会員に対して評判が良かったこと、今まで話せてなかった会員とも会話ができ、スタッフも楽しんで取り組んでいたという前置きをし、 取り組みの結果と言うことで、会員の月の来店回数が上がったことと、新規会員の獲得が少し増えたと報告した。
 社長は満足そうに頷いて聞いている。
 E店長の報告を聞いてA店長はあせった。 その時、C店長が手を上げて質問の許可を社長に求めた。
「なんでしょう」
「E店長に伺いたいのですが、会員向けのサービスをすると、非会員の方からクレームが出ませんでしたか?」
「C店長のご懸念は良くわかります。 基本的に会員向けサービスは、お客様の対象が一部なので、対応を受けている人は嬉しいのですが、そうでない人は差別されているような感情をいいだく恐れがあります。 だから、あまり目立たないように会員サービスを実行させました」
 A店長はなるほどと思った。

 今度はD店長が質問をした。
「いかに目立たないように会員向けサービスを実行しても、隣で打っている人には気づかれるのではないですか?」
「D店長の指摘の通りです。さすがに隣の人には分かります。
 そこで対策として、何をしているか不信に思っている人に対しては、あえて今回の会員のサービスについてお伝えし、もしよければこの機会に入会されないか訊いています。
 そうすることで、特定の人がサービスされる理由が分かり、お客様はサービスを受けるかどうか自分に選択権があると自覚しますので、クレームはほぼ起こりません。
 逆にうちでは興味を示されて、入会者が増えたという結果になりました」
 社長はそうだろうとなんども頷いた。A店長もなるほどとメモした。

「それでは次、A店長発表してくれ」
 A店長は社長の顔を見た瞬間、ゴルフ場の約束がフラッシュバックした。
 そのとたんA店長の顔が歪んだ。
「社長、誠に申し訳けないのですが、先ほどからお腹が痛くて我慢ができません。 ちょっとトイレに行ってもいいでしょうか?・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


(ワンポイント)
実行レベルの低い人間は、何事もダメな施策に見え、実行レベルの高い人間は、何事も有効な施策にしてしまう。

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