◆◇◆ 第23話 仕事に誇りを持ちたい ◆◇◆
むかしむかしあるところに若者がおりました。
彼は誇りを持てる仕事をしたいといつも思っていました。
それをいつも神様に祈っていました。
若者はやがて大学を卒業し、銀行に勤めることになりました。
しかし、しばらくすると嫌になりました。
日本の経済を支え、地域を活性化する仕事と思っていたのですが、お金のある企業には借りてもらうために頭を下げ、
お金の無い中小企業には、株式会社であるにも関わらず社長を無理やり連帯保証人にし、お金を返せなくなると土地や住む家まで取り上げるえげつない商売だと思うよになりました。
『こんな商売では、誇りを持って働けない』
若者はそう思い転職をしました。
転職先は名前の通ったメーカーです。
ここなら誇りを持てる仕事ができると思いました。
しかし、しばらくするとまた嫌になり始めました。
何処よりも一番素晴らしいいものを売っていると思っていたのですが、実際は他社の製品でも性能も良くて安いものがたくさんある。
それなのに営業成績を上げるために無理のでもお客様に売りつけなければならない。
とりあえず名前が通っているので買ってもらっているが、お客様のためになっていない。
『これでは誇りを持って仕事ができない』
若者はそう思いまた転職をしました。
次に不動産会社に就職し、賃貸物件を紹介する仕事につきました。
しかしここでも誇りがだんだん持てなくなってきました。
本当に良い物件を持っている人の良いオーナーもいるのですが、反対に欲の皮がつぱったオーナーもいます。
事故物件を平気で隠して賃貸を依頼してくるオーナー。
高齢者の一人暮らしは何かあると嫌だからと一方的に高齢者を拒否するオーナー。
こんな人たちとお客様の間に挟まれて、若者はダンダン気持ちが落ち込んでいきました。
『これでは誇りが持てない』
若者は仕事を辞めました。
若者は考えました。正社員にいきなりなるよりも、アルバイトをしながら誇りを持てる仕事を探そうと思いつきました。
とりあえずお金を稼ぐために居酒屋でアルバイトすることにしました。
しかし、しばらくすると酔っぱらって愚痴を言うサラリーマン、酔っぱらって騒ぐ若者を見て、こんなダメな人間を作るような商売はだめだと思い辞めてしまいました。
何度転職しても、どうしても悪い部分が目についてしまいます。
若者は思いました。
『本当に誇りを持てる仕事なんかは一部だけだ。医者と弁護士とか限られている。
人生に失敗した。神様に祈っていたのに結局何の役にも立たなかった』
若者は転職を繰り返すうちに、食うに困るようになり、背に腹は代えられず、とりあえず効率の良いアルバイトを探すことにしました。
そして就職したのがパチンコ店でした。
『ギャンブルの来るような人はロクな人でない。割り切って仕事をすれば良いだけだ』
若者は今回、誇りを持てない仕事と割り切って就職したので、心は悲しかったが、少し楽でした。
そしてこの日、神様に散々文句を言って、祈るのを止めてしまいました。
これを陰から見ていた悪魔はほほ笑みました。
『もうすぐあいつは、こっち側の人間になる。長年の苦労が報われる』
悪魔はとりあえず悪魔ギルドに報告に出かけました。
◇
その晩、若者がとうとしていると、突然神様が現れました。
若者は人影にびっくりして目が覚めました。
「若者よ。なぜ誇りを持つ仕事をしたいという願望をあきらめたのだ」
よく見ると神様のようです。若者はこの際言いたいことを言ってやろうと思いました。
「神様の導きがなかったから、諦めることにしました」
「何を言っている。わしは絶えずお前を導いていたぞ」
若者はせせら笑いました。
「うそは止めてください。最初に医者や弁護士を目指せと示唆を与えてもらっていたら、私はこのようにならなかったと思います」
それを聞いて神様は声をあげて笑い出しました。
「お前は、世間から評価の高い仕事を選べば誇りが持てると思っているのか?」
「もちろんです」
神様は首を横に振りました。
「それは違うな。誇りが持てるかどうかは、お前の『仕事に対する考え方や捉え方』がすべてじゃ」
「おっしゃっている意味が分かりません」
若者は神様を睨み返しました。
「分からぬなら教えてやろう。お前の考え方に問題がるのじゃ。
お前の今の仕事に対する捉え方は、仕事の悪いところばかりを見ている。
具体的に行ってやろう。お前の捉え方で見れば、医者とは人の病気を喰いモノにして生きている人間で、弁護士は人のトラブルを利用して儲ける商売ということになる。
そんな職業についてお前は本当に誇りが持てるのかな?」
そう言われると若者は反論ができませんでした。
「誇りを持てるかどうかは、どういう思いで仕事をするかで決まる。
医者で言えば、医者は儲かるからという思いでしているのか、人の命を助けたという思いでしているのかで、誇りを持てるかどうかが決まる。
わかるじゃろう。仕事の誇りは、働く人の思い、つまり取り組み姿勢できまる」
「・・・・・・」
「それは今いる職場でも同じじゃ。
お金を稼ぐだけが目的で働いているのでは、誇りは持てん。
とりあえずおとなしく台を打ってくれることが第一になる。
そして、面倒な玉の上げ下げが無いようにストレートで負けてくれることが一番ということになる。
要するに、人が不幸になろうと俺には関係ないと考えて、自分を第一として仕事に取り組むかぎり、仕事に誇りは持てない。
しかし、パチンコ屋でアルバイトをするにあたり、来店した人に楽しい気分を味わってもらいたい、リフレッシュしてもらいたい、
たとえ負けても少しでもここに来て良かったと思ってもらいたいと考えて、一所懸命に取り組んでいればどうだろう。
人を幸せにすることに全力で取り組む仕事に誇りが持てないはずはない」
若者はこの神様はパチンコを知らないのだと思いました。
一所懸命に接客をしても怒って帰る人がいるのがパチンコ屋の宿命だ。
お客様を怒らして、誇りも何もあったものではない、と心の中で思いました。
若者はこの無知な神様に言ってやろうと思いました。
「そうは言いますが、現実に負けて腹を立てて帰る人もいます」
「だから?なんだというのだね?」
若者は頭の悪い神様だと思いました。
「私がたとえ一所懸命に仕事をしても、不幸になって帰る人もいると言っているのです」
「お前はわしの言っていることが理解できんようじゃ」
そう言って神様は憐れむように若者を見た。
「パチンコで負けるのは誰のせいじゃ?」
「ホールのせいです」
「では聞くが、ホールでどの台を選んでも必ず負けるのか?」
「そうではありません。勝てる台もあります」
「それでは負ける台を選んだのは誰じゃ」
「それは、・・・お客様です」
「では、お客様が自らハズレ台を引いて負けたことになる。そうじゃないかな」
「・・・・・・」
「ではパチンコに負けた責任は誰のせいじゃ」
「お客様です・・・」
「もう一つ聞くが、パチンコに負けた人は、すべて腹を立てるのか」
「それは人によります」
「そうじゃな。パチンコに負けたのはお客様の責任。腹を立てるものお客様が自ら選択したことじゃ。そうじゃろう。
お前が頑張って仕事をしたこととは全く関係がないじゃろう。それをお前は自分の仕事と無理に結びつけようとしておる。」
「・・・・・・・」
「お前ができることは、お客様に対して一生懸命に少しでも幸せになってもらうために、接客し、気を遣うことだけだ。
その心が純粋であり、人を幸せにしたいと思う心に満ちて、一点の曇りが無ければ、お前の仕事は誇りを持てる仕事として完成している。
それに対して、お客様がどのように反応するかは、お客様次第であり、お前の仕事のできとは関係がない。
残念ながら徳の無い人間は、どんなに人から好意を受けても、不満しか思わない。
たまにいるじゃろ、そんな人間が。それをコントロールすることはわし(神)でも無理じゃ。それだけの自由をわし(神)は人間に与えておる。
どう反応するかは、人の個性じゃ。だからそれを気にする必要はない」
「気にしなくていいのですか?」
「気にしなくていい。お前が誇りをもてる仕事を持つために気にすることは、
仕事の対するおまえ自身の『お客様を少しでも幸せにしたい』という姿勢だけであると覚えておきなさい」
若者はなるほどと思いました。
「さすが神様ですね。あなた(神様)が絶えず導いていたといお言葉の意味が分かりました。
私はこれまでの職場でも、お客様を幸せにするために誠心誠意仕事をすれば、誇りを持てたんですね」
「そういうことじゃ。やっとわかってくれたか。
どこで働こうが完璧な職場があるわけではない。
その中で最大限お客様を幸せにすることを考えることに意味がある。
お客様の幸せは、世界最高の機能の商品を買うことでも、世界一美味しい食べ物食べることでもない。
お客様が幸せになるかどうかは、自分のことを幸せにしようと接してくれる人がいるかどうかで決まる。
自分の幸せを応援してくれる人と接して入れば、いずれ自分にとって最高の商品、最高の食べ物が手に入るからじゃ」
若者は心から人と接する意味が理解できました。
「ありがとうございます。とりあえず今の職場で誇りを持てる仕事ができるように頑張ってみます」
若者は頭をさげた。
「最後に言っておくが、人間は弱いもので、今までのお前のように、不満を持った人に注意を向ける。
そうではなくて、お前の仕事やサービスで喜んでくれた人に注意を向けるのじゃ。
そして、元気をもらえば自信となる。自分の貢献したことをしっかりと心に刻むことだ。
そして自分自身をハッピーにすることが、良い循環を生み出す。それはお前の人生に豊かさをもたらすじゃろう」
そう言って神様は消えていきました。
◇
気がつくと、若者はベットで寝ていました。
窓から朝の光が眩しく差し込んでいます。
目が覚めて当りを見渡すと、いつもの部屋なのになぜか今日は輝いて見えました。
その時、明け方まで悪魔ギルドで飲んで帰ってきた悪魔はびっくりしました。
『なんだこの光は、一緒に飲んでいた悪魔が油断するなと言ったのは、このことだったのか。せっかく長年育てた神への不信がこうもあっさりと覆されるとは・・・』
悪魔はうなだれてその場を去っていきました。
(ポイント)
1.どのような仕事も見る視点を変えると良くも悪くもなる。
2.自分の仕事に対して誇りを持てるかは、お客様に対する心の姿勢できまる。
3.誇りを持てる仕事は今からでもできる。
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