◆◇◆ 第35話 誉めたい社長 ◆◇◆
むかしむかしあるところにパチンコ店を経営している会社がありました。
社長は、人を育てる座右の銘として、旧日本帝国海軍の山本五十六大将の言葉が気に入ってました。
「やってみせ 言って聞かせてさせてみて 誉(ほ)めてやらねば人は動かじ」
その中で特に誉めるということに関しては、注意を払っていました。
人は誉めれば育つ、それはいつしか社長の信念になっていました。
業績が目標を達成したら必ず誉めます。
会員募集も目標を達成したら必ず誉めます。
景品でも仕入れて全部売り切れば、店長や役職者を誉めます。
誉められてうれしくないはずがありません。
みんな頑張ってくれました。
この様子を見ていた悪魔はほくそ笑みました。
『よし、この会社にとりついて、みんなを不幸にしていこう!』
そして、とりついた悪魔はジッと時期を待ちました。
その甲斐があって、やっと会社をダメにするチャンスが巡ってきたのです。
業界自体が縮小していき、業績が低迷したきたのです。
ほとんどの店舗で、目標をクリアできなくなってきました。
目標を達成していないので、社長は店長をなかなか誉めることができません。
稼働は目標未達成。粗利も目標未達成。
会員募集にしても、目標の人数を入会させることができません。
景品も売り切ることが少なくなってきました。
社長はもっと頑張れとは言えますが、結果を出していないので、社員を誉めることが出来できません。
しばらくすると店長はダンダンと自信を無くし、社員やアルバイトスタッフもやる気を失ってきました。
社長は悩みました。
みんなのやる気を出すために店長や社員を誉めてあげたいけど、目標を達成していないので誉められない、どうしたらよいのだろうか。
何か良い方法が無いかと社長室で悩んでいると、耳元で小さな声が聞こえました。
「社長、悩むことはありません。
現在の目標が高すぎるのです。
それを下げましょう」
社長は我に返りました。
『今の囁(ささや)きは何だったのだろう。
今設定している目標は、今後勝ち残るために必要な数値目標だ、おいそれと下げられない』
そう考えていると、また声が聞こえてきました。
「数値目標を下げて、部下がそれを達成して自信を取り戻したら、また上げたらいいんですよ」
なるほど社長は思いました。
社長は、次の店長会議で目標数値を少し落とすことにしました。
各店長はやる気を出し、一時期は目標を達成したのですが、新型コロナによる経営環境の悪化は早く、すぐに目標を達成することが出来なくなってきました。
困っている社長にまた悪魔が囁きました。
「このままでは、また店長がやる気をなくしてしまいますよ。
せっかく各店長がやる気を出してきたところなのにもったいない。
社長、人を誉めるという信念はどうしたんですか?
この状況は新型コロナウイルスが原因ですよ。
店長に責任はないのに、酷ですよ。
ここは思い切って、目標を少し下げましょう」
社長はそれもそうだと思い、また目標数値を下げることにしました。
このようなやり取りが続きましたが、そのお蔭で店長は目標達成をするようになり、またやる気が出てきました。
しかし、相次ぐ目標数値に繰り下げで、会社は疲弊し、限界に達してきました。
このままでは会社は倒産です。
社長は、目標数値を引き上げました。
それを見た店長たちは言いました。
「僕たちにはとてもその目標は達成できません。
そんな高い目標をどうやれば達成できるのですか?
社長、無茶を言わないでください。
そんな高い目標を達成できる能力が僕たちにあれば、もっと前からやっています」
「・・・・・・・」
社長は自分の期待が裏切られたという思いでいっぱいでした。
その様子を見ていた悪魔は、嬉しそうに社長に近づき言いました。
『社長、彼らは目標を下げることで、自分の能力開発をせず、甘やかされてきたんですよ。
この危機を乗り越えるための考える力は、ほとんど失われています。
この会社はここら辺が潮時ですよ。
諦めて倒産してください』
(ポイント)
目標達成は大切であるが、努力や工夫を不要とする目標達成には、部下の成長もないし、部下の達成感もない。
人を怠惰にさせるだけである。
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