コミュニティマネジメント研究所

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パチンコ寓話

パチンコ・イノベーションを促進させる短編寓話集

◆◇◆ 第40話 ”無”を活かす ◆◇◆

 むかしむかしあるところにパチンコ店を経営している会社がありました。
 社長は2代目で、急死した親父の後を継いだのでした。 しかし、パチンコ業界の経営環境は悪く、業績は下がっていく一方です。
 社長は何とかしたいと思い、出玉をしたり、新台を大量に買ったりしましたが、効果がなかなかあがりません。 屋台を呼んだり、業者が持ってきた景品イベントをしたりしましたが、やはり同じです。
 これ以上何をすれば良くなるのか分からず、途方にくれていました。

 「こんなことを続けていたら、親父が残した財産を使い果たしてしまう」 そう思った社長は、毎晩仏壇の前で、亡くなった親父に祈りました。
「どうか、お父さん、どのような策を打てば良いのか教えて下さい」
 社長は毎晩祈りました。
 あの世で天女と遊んでいた先代の社長は、毎晩息子がお祈りをしてくるのでうるさくてたまりません。
 先代の社長はお釈迦様に相談に行きました。
 「お釈迦様、お忙しいところ申し訳けありません。毎晩息子が祈ってくるので、天界で心安らかに過ごせません。どうしたら良いでしょうか?」
寓話
 お釈迦様は優しく言いました。
 「息子さんの願い通り、どのような策をしたらよいか、あなたがアドバイスをしたらいいではありませんか」
 先代社長はその言葉を聞いて言いました。
「実は、息子がやっている施策は、私が教えたやり方なのです。 それで私は会社を大きくしました。 当時は業界自体が右肩上がりで良かったので、出玉や新台入替だけで十分でした。 これでお客様がたくさん遊びに来てくれました。 もちろん、私のやり方が完全とは思わなかったので、息子の為にお金だけはたくさん残しておきました。 でも、それ以上のことを聞かれても、私もどうしたら良いのか正直わかりません」
 話を聞いていたお釈迦様は先代の社長に言いました。
「幸い今、知恵第一と言われている文殊菩薩もんじゅぼさつが遊びに来ている。彼に相談してみなさい」
そう言って、お釈迦様は文殊菩薩がいる所を教えました。

   ◇   ◇   ◇ 

 先代は教えられた場所を探して、歩いていくと文殊菩薩が草原の中央で瞑想をしていました。 先代が菩薩に近づくと菩薩はゆっくりと目を開け微笑みました。 そして先代の社長に声を掛けました。
「どうしたのかね?」
 先代の社長はお釈迦様の紹介であることを伝え、教えを乞いました。
 文殊菩薩は言いました。
「”無を活かしなさい”そうすれば光明が見えてくるでしょう。以上です」
そういうとまた瞑想に入りました。
先代の社長はポカンとしました。 ”無を活かす?”先代の社長は文殊菩薩が何を言っているのか分かりません。 困ってしまいました。 菩薩は瞑想に入ってしまっています。 再び尋ねることがためらわれました。 仕方なく、”無を活かす”という言葉を繰り返しながら、天界の住まいへと帰ることにしました。
「無を活かす?無を活かす?」 頭の中ではその言葉がぐるぐると回っています。 早くしないと、息子に残した財産が使い果たされてしまう。

   ◇   ◇   ◇ 

 考え疲れた先代社長は気晴らしのために馴染の天女のところへ遊びに行きました。
 天女はしばらくこないので心配していたと歓迎してくれました。 そして、先代社長の悩みを聞いた天女は、ちょうど普賢菩薩ふげんぼさつが遊びにきているので、文殊菩薩の言葉を意味を聞いてみたらどうかとアドバイスをしました。 普賢菩薩は文殊菩薩とともにお釈迦様の脇にいるペアーの菩薩様です。 天女によると気さくな方で、とっつきにくい文殊菩薩とは違い、丁寧に教えてくるだろうと励ましてくれました。

 先代の社長は天女に連れられて、普賢菩薩がいるところに行きました。 そして、これまでの経緯を説明して菩薩にアドバイスを求めました。 話を聞いた普賢菩薩は答えました。
「話はだいたい分かった。 ところで、文殊が言った”無”とはなんだと思っている?」
「”無”と”有”の反対概念で、何も無いということだと思うのです。 有れば活用できますが、無いものは活用しようがないように思うのですが・・・」
と、先代の社長は答えました。
「あなたは物質にとらわれているね。 文殊が言う無とは、物質の有無しではなく、状態を言っているんだよ」
「状態ですか?」
「そう、無とは無い状態。 あなたは息子に大変な資産を残したんだろう?」
「そうです」
「それは有る状態だね。息子さんはその有る状態を活かしていると思うかい?」
 先代の社長は息子がどんどんお金を使っているにも関わらず、パチンコ店はどんどん傾いています。 先代社長は正直に答えました。
「息子は、有る状態を活かしているとは思えません」
「そうだろう。要するに活きたお金の使い方をしてないんだね」
「そのとおりです」
「活きたお金を使うためには何がいると思うかな?」
「それは・・・お金を有効に使う知恵でしょうか・・・?」
「そうだね。君の息子は知恵が足りないということになる」
「はい、そうなります」
「では知恵をつけるにはどうすれば良いのかな?」
「知恵ですか・・・」
「お金かな?」
「いえ、違います。そうであれば息子はとっくに知恵をつけているはずです」
「そうだよね」そう言って普賢菩薩は黙りました。
「・・・・・・わかりません」
先代の社長は正直に答えました。
「ヒントは、文殊がくれているよ」
「”無”を活かすですか?」
「そうだね」
「お金が無い状態を活かす、お金を使わない状態を有効活用するということですか?」
「その通り。文殊が言いたかったことはね。 息子さんはお金があることで、知恵が出せない状態になっているということなんだ」
「どういうことでしょうか?」
「息子さんはお金があるから、出玉や新台に目が行ってしまう。 お金を出せば何とかなると思い、お客様の気持ちを考える力が弱くなっている。 だから、本当にお客様を喜ばせることが出来なくなっている。 お金が息子さんの思考力を弱めているんだ」
「・・・・・・」
「だから文殊は、お金を使わない状態で、お客様の満足を追求するアイデアを真剣に考えることをあなたに提案したんだ。 お金が無い状態で、お客様の満足を満たしていくためには、知恵を使う以外にはないだろう。 強制的に知恵を出す状態とは、お金が無い状態なんだ。 その時に必死の商売が繁盛するためのアイデアを絞り出す。 これが次第に本物の知恵になっていく」

「でも、お金無しでお客様の満足度を上げることができるのでしょうか?」
「いくらでもあるじゃないか」
「いくらでも・・・・?」
「例えば、挨拶の仕方、笑顔の出し方、徹底した清掃、お客様への気遣い、いくらでもある。 それらはお金が無くてもできることじゃないかな。 本当にお客様を少しでも満足させたいと思えば、お客様の反応を見ながらでも改善できるだろう」
「・・・・・・」
「そういうお金を掛けなくてできることを、どれだけやれるかに挑戦する。 それが文殊のいう”無”を活かすという意味なんだ。 実は、そういうお金を掛けなくてできる改善がすべてやりきると、お金を活かすベースができる」
「ベースですか?」
「そう、ベースだね。 例えば、スタッフが笑顔や挨拶もろくにできない、店内のクリンリネスができていない状態で、出玉や新台入替をしてお客様が定着すると思うかい?」
「思いません。出玉が無くなれば他の店にいくと思います」
「逆に笑顔や挨拶、クリンリネスに徹底的に取り組んでいるホールが、出玉や新台したらどうなるだろう」
「喜んでファンになってくれる確率が高いと思います」
「そうだろう。”無”を活かせないものは、”有”も活かせない。 逆に”無”を活かせるものは”有”も活かすことができる。 さらに”無”を活かせる人間は、知恵がついているから”有”を今まで以上に活かすアイデアを思いつく。 例えば、新台入替でも告知や案内に工夫を凝らすことができるようになる。 当然お客様はそんなホールの運営を見て期待を高める。 だから人が集まる。 会社や店舗はさらに良くなるんだ」
「なるほど、”無”を活かすことで、いろいろな改善の歯車が回り始めるわけですね」
 考えて見れば若い頃、お金が無くて苦労して集客のためのアイデアを出していたことを思い出した。 いつしかお金が儲かるようになって、お金に頼るようになり、初心を忘れていたことに気づいた。 先代社長は文殊の言葉が真に腑に落ちたように感じた。

   ◇   ◇   ◇

 先代の社長はお釈迦様から特別な許可をもらい、この世に実体化しました。 そして意気揚々として、息子の期待に応えるため、息子が寝ているベットの足元に立ち、そして息子に呼び掛けました。
「息子や、目を覚ましなさい」
その言葉で息子は目を開けました。
目を覚ました息子は、自分以外誰もいないはずの寝室に男の人影があることにびっくりしました。
息子はすぐに枕元にあったスマホを取り出しセコムに電話をしました。
「もしもし、セコムですか、すぐ、すぐ来てください。不審な男が家の中に入ってきています。助けて下さい・・・」

 

(ポイント)

 店長に「予算が無いから何もできない」という考え方をさせるのか、「予算が無い中でできることは何でもしよう」という考え方をさせるか、 この違いが予算をつけた時に大きな違いとなって表れる。

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