◆◇◆ 第47話 地元の目 ◆◇◆
むかしむかしあるところにパチンコ店がありました。
前の店長が定年で退職したので、その後任として新しい店長がやってきました。
店長は今回昇格して初めて店長職です。
赴任する前に社長から一つの課題が出されました。
「今度君が店長としていく店舗は、出玉と新台入替をして何とか稼動を維持していたが、今後はそうはいかない。
地域密着店として、地域から信用される店舗を作って欲しい」
新しい店長は思いました。
確かに出玉や新台入替では地域密着の店は作れない。
でも地域に何か役に立つことをすることで、信用は簡単につくることができる考えました。
そして思いついたのが”地域の掃除”でした。
店長は着任すると店舗の周囲を見て歩きました。
店舗から200メートルあたりに交差点がありますが、その交差点は意外にタバコの吸い殻を捨てる人が多く、そこをキレイにすれば、喜ばれるのではないかと思いました。
主任に趣旨を説明して、毎日、朝と夕方の2回、店舗からその交差点まで清掃をするように言いました。
初日、店長は主任と一緒に道路や歩道のゴミを拾いながら交差点まで行き、
信号待ちでしてられているタバコの吸い殻をすべて拾いキレイにしました。
店長は明日からは主任がアルバイトスタッフに付き添って、同じように掃除し、清掃の要領を教えるように言いました。
◇
清掃をはじめて１週間ほど経ちました。
店長が店舗の周囲を歩いていると、近くのお店の人の会話が聞こえてきました。
「最近、あそこのパチンコ店の従業員が、ゴミを拾いながら向こうの交差点まで行って、交差点をキレイにしているのを見たわ」
「私も見たわ。罪滅ぼしのつもりかしら？」
「そうじゃない。パチンコする人のマナーが悪く、タバコの吸い殻を捨てたり、ゴミを散らかしているのを、町内会から言われたんじゃないかしら」
「どちらにしても、キレになるのは悪くないけど・・・」
店長は思いました。
『パチンコに来る人は車で来る人が多く、マナーも悪くない。
歩道のゴミは近隣のお店のお客さんのゴミじゃないか』
でも言っても仕方がないので、知らん顔をして通り過ぎることにしました。
◇
清掃をはじめて３か月ほど経ちました。
店長が店舗の周囲を歩いていると、近くのお店の人の会話が聞こえてきました。
「あそこのパチンコ店、まだ掃除をしているのよ」
「そうなのよ」
「お店が暇なのかしら」
「そうかもしれないわ。やることがないから、外の掃除をさせているんじゃないの」
「忙しくなったら止めるんじゃないの・・・」
店長は思いました。
『そんな店舗あるわけないだろう』
でも言っても仕方がないので、知らん顔をして通り過ぎることにしました。
◇
清掃をはじめて６か月ほど経ちました。
店長が店舗の周囲を歩いていると、近くのお店の人の会話が聞こえてきました。
「あそこのパチンコ店、まだ掃除をしているのよ」
「そうなのよ」
「何か新しい集客手法？」
「そうかもしれないわ。清掃している人の背中に店舗の名前が書いてあるから、サンドイッチマンの代わりかもしれないわよ。・・・」
「最近、パチンコをする人が減っているから大変ね」
店長は思いました。
『たまたま寒いから、店の防寒用ダウンジャケットを着ていただけだろう』
でも言っても仕方がないので、知らん顔をして通り過ぎることにしました。
◇
清掃をはじめて１年ほど経ちました。
店長が店舗の周囲を歩いていると、近くのお店の人の会話が聞こえてきました。
「あそこのパチンコ店、まだ掃除をしているのよ」
「そうなのよ」
「地域に貢献している振りをして、何か企んでいるんじゃないの？」
「私もそう思うは、主人にも”うわべに騙されて”パチンコに行かないようにって、今朝言ったところなの・・・」
店長は思いました。
『１年経ってもこれか・・・』
◇
清掃をはじめて３年ほど経ちました。
店長が店舗の周囲を歩いていると、近くのお店の人の会話が聞こえてきました。
「あそこのパチンコ店ってすごいわね。今日も掃除をしていたわ。道路や歩道にゴミが落ちていないって気持ちいいわね」
「毎日、地域の掃除をするなんて、なかなかできることではないわよね」
「ホント、そうね。私は最初っからアソコのパチンコ店は他とは違うと思っていたのよ」
「あら、私もよ。信用できるかどうか私、見たらすぐに分かるから」
「それは私も同じだわ。ところで今日は・・・・」
店長は思いました。
社長から言われた課題がやっと果たせそうだ。
★・・・他の寓話も見る
掲載日：