◆◇◆ 第55話 一流のお客様 ◆◇◆
むかしむかしあるところに若者がいました。
若者の家は、裕福ではなく大学の学費を稼ぐためにパチンコ店でアルバイトをしていました。
実は、若者はパチンコ店で働くのがあまり好きではありませんでした。
しかし、時給が良いので続けていたのでした。
就職活動の時にパチンコ店でのアルバイトのことを訊かれるのはあまり好きではありませんでした。
なぜなら、あまり良い思い出が無いからです。
お客様は愛想が無いし、負けるとすぐにクレームをつけたがる。
昼間からパチンコに来ている若い人にも、遊び人のような気がして嫌でした。
若者はいつも思いました。
『もう少しの辛抱だ。同じ娯楽産業ならTDLのような夢のある所か、一流の人がくるホテルのようなところで働きたい』
若者は自分のイメージする一流のところへ就職のアプローチをしていきました。
◇
しかしながら、若者が憧れていた一流と呼ばれる会社からの採用通知はなかなかもらえませんでした。 若者は思いました。大学が悪かったのであろうか? でも、同じ大学の人間で、若者が希望していた会社から内定がもらったという話は耳にしています。 若者はもしかしたら、自分がパチンコ店でアルバイトしていたことがネックになったのかと思いました。 しかし、その疑いもパチンコ店でアルバイトをしていた人間が、若者が希望していた企業に内定をもらったという話を聞き、 バイト先が悪いというのは、思い過ごしということが分かりました。
◇
若者は自分が企業から内定をもらえない原因を知りたいと思い就職課へ相談に行くと、就職課のスタッフはOB訪問をして話をしてみては、とアドバイスをもらいました。
若者はさっそく名簿からOBに連絡し、会う約束を取り付けました。
◇
「本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました」
「もっと、気楽にして、OBだから気楽に相談してくれ」
OBはそう言うとアイスコーヒーを2つ注文し、若者に座るように促しました。
「ところで何をしりたい?」
「実は、私は先輩の会社のような一流の企業で、一流のお客様を相手に接客サービスをしたいと思って就職活動をしているのですが、上手く行きません。
何かアドバイスをもらえたらと思って、参りました」
「なるほど、君が一流企業で接客サービスをしたい理由は何?」
「それは、素晴らしいお客様がいらっしゃるからです。一流のお客様に一流の接客サービスを提供するのが夢なんです」
「なるほどね。君は何故?一流のお客様に一流の接客サービスを提供したいと思ったの?」
「それは、一流じゃないお客様に一流の接客やサービスをしても無駄だと思ったからです」
「なるほどね。でもなぜそんなことを思ったの?」
「それは、・・・。今、アルバイトしているところで体験したからです」
「君は、どこでアルバイトをしているの?」
「パチンコ店です」
若者はそう言うと、パチンコ店に来るお客様が挨拶もしないし、マナーも悪いし、接客サービスをしても当たり前と思っていること、ありがとうの一言もないことなどをいっきにしゃべった。
「なるほどね。君の思っていることは良く分かった」
そう言ってOBは優しく微笑んだ。
「だから、一流のお客様が来られる企業で、どうしても働きたいのです。先輩、一流の企業で採用されるためのアドバイスを是非お願いします」
若者はOBに頭を下げた。
OBはしばらく黙っていたが、ゆっくりとしゃべり始めた。
「僕は、人事の人間じゃないので採用のことについて断定的なことは言えない。言えるのは、一流と言われる企業の考え方についてだ。
まず、一流のお客様が来るので、一流の接客サービスを提供しているのではない。
一流の接客サービスをすることで、どのようなお客様でも一流のお客様というか人へと変えていくことを心掛けているということだ。
接客サービスで社会を良くすることを一つの使命と考えている。
社会を良くするとは、誇りを持ち一流であろうとする人、そういうお客様を増やすことだ。
そのために日々接客サービスを磨いている」
「・・・・・・」
「だから一流と言われるホテルやリゾート地では、どのようなお客様に対しても一流の接客サービスを提供している。結果として一流のお客様が来るようになる」
その瞬間、若者はこれまで採用されなかった理由が腑に落ちました。
◇
(考察のポイント)
1.若者が一流企業に採用されなかった理由を文章から推察してください。
2.若者の接客サービスは一流と思いますか?その理由は?
3.みなさんは、接客サービスで、お客様をより良いお客様にした体験はありますか?
★・・・他の寓話も見る
掲載日: