本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

小泉社長からの呼び出し

 関根翔太は、社長から呼び出しを受けて、本社に来ていた。 事務所に入ると、本社スタッフの田中玲奈たなか れなが翔太に気づいて、声をかけて来た。
 「関根店長、社長と山崎部長が社長室でお待ちです」
 そう言って、社長室まで案内してくれた。

 翔太は、大学を卒業するとすぐに日本アミューズメント・クリエイト株式会社(JAC)に入社した。 JACの新卒採用第一期である。
 大学の頃から有名上場企業への就職より、成長性がある企業に入り、自分の力を試してみたいと考えていた。 そのためには何といっても経営者の情熱や考え方が自分と合うかどうかが重要だと思っていた。
 翔太は、たまたま行った合同企業説明会で、JACの社長(当時常務)が熱心に、 会社の考え方や将来のビジョンを語っていたのに共感を覚え、入社を決めた。
 翔太はスタッフ、リーダー、主任と順調に昇進、昇格をしていった。 しかし、仕事はダンダンマンネリ化し、気づくと同じ作業を繰り返す毎日を送っていた。
 主任になって半年後、ジャック大滝店へ移動となり、当時店長をしていた山崎部長の下で、店舗の立て直しをすることになった。
 実際、店舗立て直しといっても、やることは新台入替と出玉という、 これまでの施策の延長であり、これはというような改善策があるわけでもなかった。 そして、出玉系のイベントが規制となってからは、さらに競合店との格差を縮め追い抜くことは難しくなっていった。
 社長から予算を回してもらい、新台を多く入れても、出玉を強化しても一時期だけであり、もとに戻せば、お客様はすぐにいなくなる。
 もっとも競合店も同じ施策を打っているので、本当の差別化にはならないことは分かっている。 翔太もいろいろと考えてはみたが、良いアイデアも思いつかず、今を精一杯頑張ることが、立て直しと思い始めるようになっていた。

 そんな折、社長からコミュニティホールへの取り組みの指示が出され、仕事に対する考え方や取り組みの仕方が大きく変わった。
 翔太は、いかに自分がぬるま湯に使っていたか思い知らされた。
 その元凶は、『北条真由美』。
 コミュニティホールの指導に来た彼女に、さんざんしごかれた。
 最初は、生意気と思い、腹が立ったが、彼女は小泉社長の姪でもあるので、表立って批判はできない。ストレスを溜める日々が続いていた。
 そんな折、たまたま会った大学の同級生、山城裕也の言葉で、翔太はストレスの真の原因が、自分自身にあることに気づかされる。
 彼女のものの見方や考え方は、素直になった翔太に、大きな気づきを与えた。

 現在、彼女の指導のお陰で、ジャック大滝店はコミュニティホールとして、地域に定着してきている。
 コミュニティ化プロジェクトを成功させたことで、翔太は大滝店の店長に昇格した。 その当時、店長をしていた山崎店長も昇格して、部長になっている。 時の経つのは早いもので、あれから2年を過ぎようとしている。

 玲奈は、社長室をノックし、関根店長が来たことを告げて、翔太を部屋に通した。 その様子を見ながら、最近、本社のスタッフの立ち振る舞いも、かなり良くなってきたように思った。
 部屋に入ると社長デスクの前にある応接セットで、小泉社長と山崎部長が雑談をしていた。

 

空手形になった新店店長のポスト

 小泉社長は、翔太を招き、座るように促した。 翔太は薦められるまま、山崎部長の横のソファーに腰を下ろした。
「急に呼び出してすまない。
 実は来期から大幅に体制を変えていこうと思っている。
 第2営業部を拡大し、久米坂店と浅沼店を、第2営業部に加えることにした」
 関根翔太は、自分が所属しているコミュニティホール部門が拡大するのは、大歓迎であった。

「そうなると新店を合わせて、第2営業部は、5店舗になりますね」
 翔太は嬉しかった。
 コミュニティホールにやりがいを感じていたし、コミュニティホールのノウハウについては、 これまでコミュニティ化を推進してきた自分が一番持っているという自負もあった。 そして何より、グループ最大になる新店を任せてもらえるという話を、 半年前から小泉社長から内々にもらっており、それを楽しみにしていた。

「ところで新店はいつですか。
 私としては、大滝店を田所副店長に任せて、いつでも新店に移動できる準備はできています。
 いよいよハードとソフトを含め、本格的なコミュニティホールに取り組めるのですね」
 翔太の話を聞いて小泉社長の顔が少し曇った。

「関根店長、話というのはそのことなんだけど、実は新店の予定が大幅に遅れそうなんだ」
 第2営業部部長で、新店開発の担当もしている山崎部長が話に入ってきた。
「どういうことなんですか?」
 翔太は一瞬戸惑った。
「実はね、買収した土地の周りの住民が、突然、パチンコ店出店の反対を表明して、反対運動を起こしてるんだ」
 山崎部長は困惑した表情で話を切り出した。
「なぜ、今頃そんなことになるんですか。法律的には問題はないんでしょう」
「もちろん問題はないさ。しかし、パチンコホールのコミュニティ化に取り組み、 地域になくてはならない存在になろうとしている俺たちが、 地域の反対を強硬に押し切ってパチンコ店を着工し、オープンさせるわけにはいかないだろう」
「そうれはそうですけど」
「無理にやれば、うちが本格的に推進しようとしている地域密着のコミュニティホールはとてもできない、そうは思わないか」
 そう言われると翔太も返す言葉もなかった。

 せっかく新店で一からコミュニティホールのモデル店を作り、JAC発展のいしずえを自分自身が確立し、 社内におけるコミュニティホール作りの第一人者になるつもりでいた。 しかも今回はグループ最大規模の店舗になるので、会社への利益貢献度も大きくなる。 そうなると当然古株の店長も、俺に一目を置くことになる。そう期待していただけに、翔太は反対運動に腹が立ってきた。

「それでは、店舗の移動は無しで、しばらくこのままということですね」と翔太は残念そうに言った。
 すると小泉社長がそれを否定した。
「そのこと何だけど、移動は予定通りしてもらうことになる」
「どういうことでしょうか?」
 翔太は小泉社長の話が見えなかった。

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