本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇クリンリネスの進め方

 翔太は、西谷主任になるべくゆっくりとしゃべりかけた。
「まず頭に入れておいて欲しいのは、 コミュニティホールを作りの必要条件や十分条件を満たしているかどうかは、 ホールがやった、努力したということ関係ないということです。 その基準はお客様から見てという、お客様目線で判断する必要があるということです。

 次に、仕事は自分で消化して、部下に渡さないと改善は進まないということです。 そうしないと速度が遅くなります」
 西谷主任が固まっている。翔太は理解して欲しいと願いながら話を進めた。

「今回の場合の西谷主任の役割は、まず、“クリンリネスの強化とは何か”を考えることです。 強化するとは、強化されていなものがあるのが前提ということが分かりますね」
「はい」
「西谷主任は現場の指揮官ですから、強化していないものを強化するように指示を出さないといけません。 強化すべきものを判断するのは、誰の役割でしょうか?アルバイトスタッフですか?」
「いいえ、私が判断すべきものと思います」

「そうですね。
 そうすると西谷主任がお客様目線で、自分でホールにおけるクリンリネスの問題個所をまず探し出すことです。
 次に分類です。対処方法を考えやすいように、問題個所を分類します。
 例えば、通常している掃除のやり方、つまり“質”を変えることで対処できるもの、 通常の掃除の範囲を広げる、つまり“量”を変えることで対処すべきもの、 最後に通常業務では対応できず、業者に頼むなどの“特別なもの”というように分けることです。

 最初の2つは、掃除スタッフとホールスタッフの仕事の負荷を見ながら、 調整していき、改善を図っていくものとなります。 何についてどのレベルまですべきか。あるいは何についてはどの範囲まですべきか、 明確に指示を出すことになります。
 そういう報告を聞けば、私はクリンリネスが強化されるだろうと判断できます。
実際にクリンリネスは強化されると思います」
「私もそう思います」

「そして、3つ目の特別なものについては、予算もかかるので、 私のところに店長判断を求めにくるものということになります」
 西谷主任は必死でメモを取っていた。森川副店長は相変わらず不服そうな顔をしている。
「西谷主任、よろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。何となくわかりました。 そしたら、とりあえず、強化箇所を見つけて分類ができたら、一度店長にお持ちします」

「よろしくお願いします。ついでに、検討の時に付け加えておいてほしいのですが、 ホール正面入り口から右手の角の信号までの100mの間に結構ゴミが落ちているのが気になります。 それと駐車場東側の用水路に落ちているゴミも付け加えておいてください」
「分かりました」
「以上です。森川副店長も西谷主任のフォローをお願いします」 そういうと二人とも席に戻った。

「星野店長、進捗チェックはこんな感じです」
 翔太は、会話を黙って聞いていた星野店長に声をかけた。
「関根店長の仕事の進め方は、誰から教わったの?」
「教わったというか、この間言ってました社長の姪の北条真由美さんに、鍛えられたんですよ。 もっとも彼女は遠慮というものがなかったので、間違っていたらボロクソに言われましたけど・・・。
 最初は腹が立ち、彼女の指導の仕方を非難していました。
 でも結局は、結局自分の問題形成能力や論理的思考力の弱さ、 それに知識の貧弱さが招いたことだと思い直し、いろいろ勉強しました。
 それがなかったら、今頃、西谷主任と同じことをしていたと思います」

「今のレビューを見て、どう感じられました?」
「もっともなことを言ってると思ったが、西谷主任たちに求めるレベルが、高いのではないかと正直思った」 と星野店長は忌憚きたんのない感想を漏らした。

「そうかもしれません。でもこれからホールでは機械や設備の差別化は難しくなってきています。 最後パチンコ業界は、『人』による差別化の時代になると思っています。
 人材開発で先行しているホール企業は必ずいます。 早晩、そういう企業とガチで競争になります。 そう考えるとその水準を視野に入れた人の育成を、考えるべきと思っています。

 今回同席してもらったのも、今の西谷主任のような感じでコミュニティホールを進めていくと行き詰る、 あるいは時間がかかることを実感していただきたかったからです。
 それと進捗レビューになるとこのような形態になるので、事前になれていただきたかったというのもあります」 翔太は少なくとも役職者の能力をアップしない限りは、ホールのV字回復はありえないと考えている。
「関根店長の考え方はよくわかった」
 そう言って、星野店長は帰っていった。

 ◇現場リーダーの役割

 朝の開店前作業の段取りの打合せをして、西谷主任は事務所を出て、ホールへと向かった。
「明日葉リーダー。最近、西谷主任は掃除にうるさいね」
 西谷主任のいなくなったのを確認して、先輩リーダーの横井は、寺島明日葉に声を掛けてきた。
「店長がクリンリネスに力を入れているからじゃないですか」
 明日葉は連絡帳を見ながら、答えた。

「店舗の周辺の道路まで掃除しろとか、人手が余っているわけでもないから、 アルバイトの仕事の調整が微妙にキツイよなぁ」
「でも、ゴミが落ちているのは確かだし、キレイにこしたことはないし、いいんじゃないですか」
 明日葉は相変わらず連絡帳をチャックしながら、そっけなく答えた。

「用水路はどう思う?結構手間がかかるよ」
「じゃ、止めます?」
 朝の忙しい時に、のんびりしている横井リーダーに明日葉はイライラしてきた。
 そんなに暇ならあなたが掃除に行ったら、と心の中で思った。
「そうは言わないけど・・・。アルバイトの子も嫌がってるんじゃない?」
「そうですか?もし、そうなら掃除の意味をアルバイトスタッフに説いて、
 やる気にさせるのが、横井リーダーの役割じゃないんですか?

「そうかもしれないけど・・・」

 明日葉は、横井リーダーの愚痴を聞いて、 この人はリーダーの役割を何だと思っているのだろうと不思議に思った。
 少なくとも店長や主任が推進しようとしていることを理解して、 それを実行しやすいように一般スタッフを動かすのが自分たちの仕事であり、 そのために必要ならば、指図するだけではく、 その意図も咀嚼そしゃくしてみんなに伝えることも役割の中に入っている、と明日葉は思っている。
 それに、一流と言われるような企業や店舗は、周辺の清掃など当たり前にしている。
 そんなことも知らないの?と思った。
 明日葉は勉強のために録画している経済番組や企業番組を見ていて、 会社や店舗の周りをかなり遠くまで掃除をしている企業が結構あることを知っている。
 明日葉の感覚では、地域密着をいうなら当たり前なのだ。
「私、やることがありますから」
 明日葉は横井リーダーの愚痴にあまり関わり合いになりたくないので、そそくさと事務所を出た。

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