本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇接客スキルの進捗確認

 キックオフから1週間、翔太はコミュニティホール推進プランを確認していた。
「吉村主任、ちょっと接客スキルの進捗状況を聞かしてくれないか」
 翔太は、自分のデスクから吉村主任に声をかけた。
「店長、ミーティングテーブルに行きますか?」
 そう言うと吉村主任はミーティングテーブルに資料を机の中から取り出し移動した。 翔太は、遅番で昼から出勤してきた森川副店長にも同席を求めた。

 森川副店長がテーブルにつくと、翔太はさっそく吉村主任に説明を求めた。
「現在、この前受けた接客5原則を基に、スタッフ及び役職者のスキルチェックをしています」
 そう言って、各人のチェックリスト一覧表を出した。 接客チェックできていないのは、森川副店長とアルバイトで休んでいるメンバーの二人だけである。

 吉村主任はチェック表を基に話をつづけた。
 現状で接客5原則を完全クリアしているスタッフが6人いる。 それ以外を対象にスキルアップ指導を実行しようとしている。 とりあえず基準に満たないメンバーは現場指導を行い。 終礼終了後にさらに5分間指導なるものをリーダーが行う段取りをつけている。
 また、リーダー以上で5原則をマスターしたいないものについては、 吉村主任が現状を正確にフィードバックすることで、自主的に能力の向上を目指してもらうという内容であった。

「スタッフのスキルをこういう一覧表で確認できると、 役職者間でスタッフに対する現状認識が同じになるし、 どういう指導すべきか共通認識を持てるから、良いよね」
「一応、スタッフに対する評価つけるときに、本人に評価内容を知らせてます。 中には自分自身ではできていると思っていたスタッフもいたので、 なぜこういう評価になったのかを、本人とコンセンサスをとっています。
 私自身、昔、一方的に評価されて納得できないと感じたことがあったので、 それをなるべく無くしたいと思いました。
 もちろん、この評価に対して、個別ですが、他の役職者とすり合わせをしています」

「OK、ところで、できてないスタッフのスキルを上げる期限をいつに設定している?」
「店長のコミュニティホール作りのスケジュールから逆算して決めています。 遅くても来月末までには、お客様が不快に思わないレベルにあげられると思います」
 翔太は進捗報告を聞きながら、吉村主任を連れてきて良かったと思った。

「分かった。クリンリネスと会員募集がおそらく来週あたりから本格化するから、 吉村主任もなるべく急いでくれ。 それからサービスレベルの話も、スタッフに浸透させるように段取りをしてくれ」
「了解です」
「森川副店長は何かありますか?」
 翔太は尋ねた。
「いえ、特には」森川副店長は気まずそうに返事をした。
 接客の進捗ミーティングは短時間で終わった。

 ◇会員強化の進捗確認

「森川副店長は、まだ時間がありますか?」
 ついでに会員強化の進捗チェックもしようと翔太は思った。
 吉村主任と入れ替わりに尾田主任がミーティングテーブルに座った。
「お疲れ様。さっそくだけどお客様の会員化の進捗具合を聞かせて欲しい。大丈夫かな」
 引き継ぎ途中なので「自分が報告します」と尾田主任が切り出した。

「そうですね。強化ということでは、お客様への入会アプローチを増やしました。 これまで1回だったのですが、2回に増やしています。増やした当初は入会者が少し増えたのですが、今は大したことはありません」
「このホールは会員管理をして6年目になるので、 会員になっている人はすでになっているという感じですね」
と森川副店長がフォローを入れた。
 翔太はうなずくと、さらに質問を続けた。
「尾田主任、他に何かしていますか」
「そうですね。とりあえず様子をみて考えるつもりです」

「わかりました。ところで、会員の募集目標を何人にしていますか?」
「今は、目標数値を決めていません。入会者は通常月に10~30名というとことです」
「なぜ、目標を決めないのですか?」
 尾田主任は一瞬詰まった。そしてすぐにこれはマズイと思った。
 とりあえず強化してみてから、目標を決めようと思った、という言い訳を考えた。 それを言いかけた矢先に、森川副店長がフォローのつもりで状況説明をし始めた。

「関根店長、さっきほども言いましたが、久米坂店は会員募集をして6年以上なります。
 だから、昔からホールに来ている人は、会員になっている人はなっている。逆に会員にならない人はならない。 ある意味、色分けができています。
 したがって、無理に高い目標を立てて会員を取ろうとしても、なかなかその通りにはいかないですね。 目標を立てるのは大切ですが、無理に目標を立てて毎月未達成になると、スタッフが落ち込みます。 スタッフのモチベーションが下がるのは避けたいので、入会活動はしているが、入会の目標数値は決めて無い、 という状態がかなり前から続いていますね」

 森川副店長は、現実を知って指示を出してもらわないと困る、と言いたげな口ぶりであった。
 実際、森川副店長は、“お客様の会員化の強化”を聞いたときに、 言っていることは分かるけど、今更そんなことを言っても、改善はたかが知れていると思っていた。
 もちろん、お客様の会員化に反対ではないが、実際問題として急に入会者を増やすことは、 かなり難しいことは分かり切ったことだと思っていた。
 同時にコミュニティホールを作りの時に、コンサルの影響を受けて、関根店長は理論家かぶれになったのかもしれない。 或いは早く店長に昇進したことで、調子に乗って無理を言っているな、という思いが、森川副店長の頭によぎっていた。

・・・・・・◇・・・・・・
 一方翔太は、副店長の説明を聞きながら、この会話も北条真由美が聞いたら、 ニッコリ笑って切り返してくるだろうなと思っていた。
『お客様のほとんどが、入会する人は入会してしまっていて、入会しない人は絶対入会しないと、どうして言えるのかしら? いつどのような調査をされたときのお話でしょう?
 それとも今の会員カードの挿入率が60%以上あるのかしら?

 通常、店に来ているお客様は、25%は毎月入れ替わるし、年間では40%以上は入れ変わると言われています。 関根主任、まさか調査もせずにおっしゃっているようなことはありませんよねぇ。

 それに毎回目標が未達になる?
 それって目標設定の仕方が単に悪いんじゃないかしら?
 それとも入会活動管理が不適切ではなくて?
 それをごまかすために“ホールスタッフのため”とか、耳ざわり良い言葉に置き換えているのではないのかしら?

 いずれにしても、会員化は手段です。 会員化の目的を明確にして、必要なボリュームを確保しないといけないのなら、 それを如何にやり遂げるかを考えるのが、役職者の役割ではなくて?』 
 翔太は、北条真由美のツンとした言葉遣いを思い出して、一瞬ニヤッとしそうになったが、あわてて気を引き締め、真顔をつくった。
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