本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 会員化の実態調査

「なるほど、森川副店長の話は分かりました」
 そう言って、尾田主任を見た。
「ところで尾田主任、このホールの会員カードの平均挿入率は、どれくらいでした?」
「そうですね。多少変動はありますが、平均10%ぐらいと思います。 昔は15%ぐらいあったそうですが、今は下がっています」
「わかりました。会員募集の時に、スタッフは何人のお客様に声を掛けていますか?」
「それはちょっと把握していません」

「それでは、どういう声の掛け方をしていますか?」
「そうですね。先ほど副店長が言われたように、ほとんどの人には、 入会案内をしてしまっていますので、会員募集で回るときは、 なるべく見かけない人をスタッフが選んで声を掛けています」
「なるほど、会員募集にはこれまで1日一回と言ってましたが、 1日に会員募集を行うスタッフはひとりということですね」
「そうですね。たまに会員募集を二人でさせることもありますが、 お客様からの要望やクレームあって、同じお客様に一日に2度アプローチしないように、 だいたい一人でさせることにしています」

「了解しました。それでは、尾田主任にお願いがあります。
 今週の平日の1日、金曜日がいいでしょう。それと土曜日か日曜日の1日を使って、 入会案内の実態調査をしてください。 その日は、会員募集をしなくて結構です。
 会員募集メンバーとリーダーを実態調査に使ってください。 森川副店長と尾田主任も加わって、お客様全員からアンケートをとってください」
 翔太はそう言って、二人にアンケートの内容と取り方を指示した。 そしてアンケートを取ったあと、来週の月曜日の夕方に打合せをするので、時間をとるように指示した。

「二人とも、まだ大丈夫ですか」
「ハイ」
「目標についてですが、コミュニティホールにおいて、会員の強化をする目的は何か知っていますよね」
 尾田主任が答えた。
「そうですね。ニュースレターを送るため、お客様のデータを蓄積するため、 ホールでサークルを作ったときの連絡を円滑に行うため、などと記憶をしています」
「OKです。その中でもすぐにでもやりたいのが、ニュースレターの送付なので、そのための会員強化です」
 尾田主任はうなずいた。

「現在、DMを送っている数はいくつですか?」
「通常は、半年以内に来店した人を対象に約600枚です。 周年記念などは、少し範囲を広げて、2000枚ほど送っています。」
「半年以内の来店者を対象に1年以内に600枚を1000枚まで引き上げたいと考えています。 これを基に新規会員の獲得目標を立ててください。 そして、来店者数をどのようにして増やすのかを考えてください。 とりあえず、来週の月曜日夕方に報告してください」
「分かりました」

「ところで『会員管理実践講座』の受講はいつでしたか?」
「来週の水曜日です」
「そうですか、入会の実態調査を行った後で、講座を受けた方が、 問題意識が高くなって内容の理解が深まると思います。 森川副店長も受講できますよね」
「ハイ、その予定です」
「それでは、月曜日夕方ということで、お願いします」
そういうと翔太は自分のデスクに戻っていった。

 ◇◇◇進捗会議(4月第3週)

 また月曜日が来た。1週間は本当に早い。 翔太は星野店長との打合せを終えると、会議室から森川副店長へ携帯で電話をした。
「今日は、お互いの進捗確認をするので、3主任とも会議室に上がって来るように言ってください」
 会議室に森川副店長と3主任が来ると、すぐに会議始めた。
「みなさん揃ったので、会議を始めます。 今日の会議は、いつものように浅沼店の星野店長と春日主任がオブザーバーとして参加します」

 最初に吉村主任が担当をしている接客についての進捗を確認した。 森川副店長もホールに出てくれたので、チェックができていない人は無くなった。
 実は、森川副店長はなかなかホールに出ようとしなかった。 それを危惧した吉村主任が、役職者全員のホール滞在時間を表にして事務所に貼り出すことにした。 吉村主任には店長命令ということでやってくれと許可を出した。
 森川副店長もあからさまに第2営業部の方針に逆らうわけにもいかず、ホールに出るようになった。

 店長や副店長が一定時間ホールに出ることで、 ホールのスタッフも現場重視の方針に嘘がないことを理解し、接客5原則についての意識が高まった。

 当初役職者でも接客5原則ができないものもいたが、 スタッフの手本という位置づけを明確にしたことで、 お互いに注意し合い、ほとんどの役職者が接客5原則をマスターした。
「吉村主任、ご苦労様でした。これでベースができてきました。 コミュニティホールの必要条件の『接客の安心』は、後一息で完成だね」

「ありがとうございます。
 後は、新しいアルバイトスタッフが、早期に接客5原則をマスターできるような仕組みを作れば完成です。 今のアルバイトの新規採用研修の中に組み込んで、 その後の実践での定期フォローを制度化したいと考えています」
「なるほど」
「以前いた大滝店のやり方を真似れば大丈夫です。 幸い役職者全員が接客5原則をマスターしているので、指導担当者も困りません」
「分かりした、後はよろしくお願いします」
 予定通り吉村主任の進捗チェックはすぐに終わった。


「それでは西谷主任お願いします」
 翔太は、西谷主任から報告は事前に受けていたので、大まかな状況はつかんでいた。
「ハイ」
 そう言って、西谷主任はクリンリネスの現状調査結果をプリントで配った。 お客様から見て、これは歓待の気持ちがないと思えるものを、自分なりにチェックしてきた。
 店外と店内に分け、店外は外装と駐車場や駐輪場の周りと看板やのぼりなどに分けてある。 店内はホールの内装状態、ホールや休憩室、トイレ、風除室などと、掲示物や備品に分かれていた。
 西谷主任は現状を説明し、他の役職者との認識にずれがないか確認をとった。 事前に役職者にヒアリングもしていたので、大きなずれはなかった。

 クリンリネスが不十分な部分ということで、 細かいところでは、装飾電球で切れているものが1つあるから始まり、 ポスターのゆがみ、窓の汚れ、駐車場のゴミ、古くなったのぼりが問題となった。
 大きなものとしては、玄関正面の外壁や看板の劣化が問題となった。 それと駐輪場のポートの錆や駐車場の白線が薄くなってきているなど取り上げられていた。
 翔太は、外壁などの大きなものについては、事前に小泉社長の承諾をもらっていたので、 見積もりをとり、半年以内に工事を行うことをみんなに伝えた。

「ところで、この前言っていた “ホール正面入り口から右手の角の信号までの100mの間の道路端のゴミ”の問題と、 “駐車場東側の用水路のゴミ”の問題はどうなりましたか?」
「それについては、シフトと作業量を見ながら調整中です」
「わかりました。それでは、道路端のゴミは午前8時頃に掃除をするようにしてください。 用水路のゴミは、駐車場のゴミ拾いと一緒に、午前10時前頃に掃除をするように調整してください」
 西谷主任は黙ってメモを取った。

「西谷主任、なぜ、時間を指定するか分かりますか?」
「・・・・」
「その時間は、人が見ている可能性が高いからです。 信号では通勤する人、用水路では朝ホールで待っているお客様と農作業をする人です。
 地域の人に、あの店舗はこれまでと何か違うという印象を与えるためには、変化を見てもらう必要があるよね。
 そのためには、今までしていない所の掃除をするのが一番わかりやすい。
 それと、真面目に掃除をしているスタッフを見た人の何人かは、 『ご苦労様』とか、『えらいわね』など、ねぎらいの声や誉め言葉を掛けてくる可能性が高い。 そうなるとスタッフもはげみになる」
「そうなんですか?」
「やればわかる。案外世間は見ているものなんだ」
 西谷主任は了解した。

「今は、おそらくホール前から交差点までにゴミが落ちているのは、 パチンコ店があるからだと世間では思っていると思うよ。 それが掃除をすることで少しだけど、世間の見方を変えることができる」
「でも関根店長、パチンコに来る人の多くは自動車ですよ。 その人たちがわざわざうちの前の道路まで来て、車からゴミを捨てることはほとんどないと思いますよ。 多くは通りかかったうちとは関係ない別の人でしょう」
 森川副店長は反発をした。

「副店長の反論は妥当だと思います。私も同じ意見です。 けど、それはホールから見た論理。世間の見方は違うということ。
 自分の正しさをいくら主張しても、相手の視座からロジックをくみ上げないと、全然理解されないですよ」
「私はそうは思いませんけど」
 森川副店長は承服しかねるという顔を隠そうともしなかった。

「森川副店長、それじゃ、『遠隔』をしていないって、お客様はハイそうですか、と言って信じてもらえますか? 信じないですよね。それは過去から持っているパチンコ店に対するイメージがそうさせることは分かりますよね」
「それはそうですけど」
「今、新店が地域住民の反対で、予定より大幅に遅れていますよね。 それも同じです。世間の人はパチンコ店ができると地域が悪くなると思っている。 でも今はそんなことはほとんどないですよね。
 でもこういう一般的な人の思いを踏まえたうえで、私たちは活動をしないと、世間の信用は得られないということです」
 翔太はそういうとみんなの顔を見まわし、話を続けた。

コミュニティホールは、お客様と地域の人との信用を築いて、 初めて成り立つことは社長がおっしゃられている通りです。
 大滝店でコミュニティホールを作り上げるときに、いろいろ経験しました。 それを踏まえて、種を蒔くつもりです。 西谷主任、よろしいですね」
「ハイ、わかりました」

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