本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇店舗の思いを伝える 

「お疲れ様です」
 翔太は、浅沼店に来ている。 浅沼店のコミュニティホール推進のためのミーティングに参加している。 浅沼店は400台弱とやや小ぶりであり、駅からもわりと近い。 駐車場は250台と少ないが、住宅地も近く、自転車で来られる人もそれなりにいる。

 星野店長は、この店舗に赴任してきて8年目になる。 店長の年齢が高いこともあり、主任やリーダーも比較的年齢が高い社員が多いのが特徴となっている。
 昔は店舗の稼働は良かったが、少し離れた幹線道路に大型店ができるにつれて、 だんだん稼働が下がっていき、今では地域5番店になっている。

「今日は、店舗の想いを伝えるというものを、 具体的にどうしていくのかについてのミーティングです。 コミュニティ基本研修の中では、十分条件の第①番目としてあがっていたかと思います。 なぜ、必要なのか覚えていますか? 春日主任はどうですか?」

「はい、人は相手のことを知らないと深い付き合いはしようとしないし、信用もしません。 だから、店舗は自分たちの想いを、積極的にお客様や地元の人に伝えていかないといけない、ということです」
「そうです。コミュニティホール作りは基本的に有言実行です。 店舗がこうなりたいと宣言してそれを実際にやって見せる。 人は言ったこととやっていることが同じだと感じると安心します」
 翔太はコミュニティホールの前提として、 お客様に対して、真摯しんしに向き合っていることを、お客様に納得してもらうために、 久米坂店ではクリンリネスと接客を徹底しており、この浅沼店でも取り組み始めていることを確認した。

 地元密着店と言いながら、店舗は汚いし、接客も悪いとなると誰からも相手にされない。 そうならないように、下準備をしている。
 とは言ってもJACグループ各店は、それなりのクリンリネスや接客はしているので、 お客様にはあまり気づかれない可能性は高い。
 そこで、変化を出すために、この店でも敢えて店の周り100m以内の清掃を定期的にやるように勧めた。

「それでは、この浅沼店ではコミュニティホールを目指すことをどのようにお客様に伝えますか?」
「単純に、『私たちは地域に密着したホールを目指します』とDMなどで、宣言したらどうなんでしょうか?」 と宝田主任が発言した。
「チラシに宣言を書いてもいいんじゃないでしょうか?」 春日主任も次回の新台入替チラシで宣言することを提案した。

「星野店長はどう思いますか?」
「おそらくそれでは効果がない、ホールは信用されないように思う」
「星野店長、それはなぜでしょう」
「もし、私がそんなDMやチラシを見たら、怪しい店舗と感じると思うからだよ」
「なるほど」
「そう言われるとそうかもしれません」と春日主任も同意した。

「確かに、これまで地域密着とかコミュニティなどを言ったことがないホールが、 突然そんなことを言い出すと、何かたくらんでいるのではないかと、痛くもない腹を探られる可能性は高いですよね」
 翔太がそういうと、みんなうなずいた。

「会社方針で、地域密着になりました。と言っても何か胡散臭うさんくさいですよね」
 春日主任がつぶやく。
「でも、実際に会社命令なんだから仕方がないじゃないの?」
 宝田主任は不服そうに言った。
 翔太は今後のこともあるので、宣言の仕方をもう少し検討させることにした。

「宝田主任の言い分は最もですが、もし、会社命令で仕方なく、 地域密着に取り組んでいるスタッフがいたとして、 そのスタッフに対して、お客様や地域の人は好感を持ってくれるでしょうか?」
「それは持たないでしょう」
 星野店長や春日主任を見るとそれに同意した。
「と、いうことは、自分たちが主体的にコミュニティホールや地域密着店を進めているということを、 お客様や地域の人に感じてもらう必要があるということですね」
 翔太がくと、3人とも頷いた。

「それでは気になる点を整理すると、 突然の地域密着やコミュニティホールの宣言はおかしい。 ホールスタッフたちが、そうなることを積極的に支持していないとおかしい、 ということになりますね」 また頷いた。
「それではみなさんは、どうしたら良いと思いますか?」
 翔太は、3人を改めて見た。

「地域密着店、コミュニティホールという方針は、必然性があり、 スタッフもそれに同意していることを、伝えればよいということでしょうか?」
 春日かすが主任が発言した。
「具体的にはどうします?」
 春日主任は女性だけあって、感性が良いのかもしれないと翔太は思った。 これ具体的イメージが出てくれば、コミュニティホール推進役として 浅沼店をけん引させることも可能なのではないかと考えた。
「具体策ですか?そうですね・・・」
 そう言って言葉に詰まった。 追い詰めるのはまずいと思った翔太は、他に振ることにした。

「星野店長は何か案がありますか?」
「このニュースレターは店長が書くんですね」
「えぇ、そうです。店長はこの店舗のTOPなので、 店舗を知るとは店長の考え方、方針を知るのと同じことです。 だから、原則として店長が書きます」
「私の個人的な思いを入れても構わないだろうか」
「内容にもよりますが、どういった内容でしょうか?」

「実は、親父おやじが定年退職後、ずっと家でテレビを見ている。 気軽に出かけていける場所が正直いってあまりない。
 70歳まで会社勤めをし、退職後、家にほとんどこもっている。 バブルのころに移転してきた新興住宅地なので、幼馴染もいないし、近所づきあいもあまりない。
 小泉社長から今度この浅沼店を第2営業部管轄にし、 コミュニティホール作りを目指すように言われたときに、 親父のような人が、気軽に来れるパチンコホールを作りたいと思った。
 親父の家の近くに、そんなパチンコ店があれば、 行くように勧められると思ったね。
 この間、『コミュニティ基本講座』を受けて、この気持ちは強くなった。
 こんな話だけど、どうだろう?」

「それは良いじゃないですか」
 そういうと星野店長はニッコリ笑った。
 翔太は、3人に会社の方針を受けて、店舗内でそれを検討した結果、 お客様と地域の役に立つという観点から、 主体的に地域密着化を推進することにした、 という流れをつくり伝えることを提案した。

「それでは具体的にどう行動を起こしますか?」
 星野店長が具体的な施策を話し始めた。
「まず、役職者全員で、コミュニティホールの有効性を話し合う場を設けるよ。 そして、同地域に役に立つかを議論する。 そして、コミュニティホールをやりたい理由を明らかにする」
「なるほど」
「次にその考えをスタッフ全員に知らせて、賛同してもらうことにする。 そんな経過をニュースレターにして送るのはどうだろう」

「分かりました。老婆心ながら注意点言っておきます。 動機は、あくまでも誰かの個人的な体験、それも誰もが経験する、 あるいは体験しそうなことを、地域密着化の動機にしてください。
 その方がお客様の共感を呼べると思います」
 翔太はこれならまずまずと思った。

 ニュースレターは美辞麗句よりも、店舗の想いが伝わらないといけない。 会社の方針を受けて店長とスタッフ全員が話し合って進めたということになれば、 店舗の真剣さが伝わり、共感を呼ぶお客様も出てくるだろうと感じた。

        ☜ 前回             次回 ☞

inserted by FC2 system