本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇ニュースレターの意義

 翌日、西谷主任は寺島リーダーと横井リーダーにニュースレターを見せ、 コミュニティホール布石として、まず、地域密着店になることを説明した。
 そして、AEDの講習会をこの店舗で開くこと。 その前にリーダーは全員、市民救命士になるために、消防署の普通救命講習を受けてもらうことを話した。
「このニュースレターに書いてある田所っていう社員は、大滝店の田所店長ですよね」
「ん、たまたまマラソンに参加して居合わせたらしい」
「地方新聞にも名前入りで載りましたよね」
「いつ、何が起こるかわからない、ということかな。 だから、横井君も市民救命士の修了証はもっといた方がいいよ」
「まあ、使う機会はまずないでしょうけどね」
 そう言って苦笑いをした。

「ところで、ニュースレターを送って本当に意味があるんですか?」
店の方針を伝えて安心してもらい、共感してもらえるお客様の定着化を促進する、というところかな」
「そんなことでパチンコ店に来るんですか?新台と出玉でしょう」
「本当にそう思っている?」
「ん~、まあ、太田店長のときにそれをやっていましたけど、何というか、いま一つのような感じでしたからね」
 横井リーダーも条件反射的に新台と出玉と言ったが、改めて考えると、何となく違うと感じた。
「そういえば、そうですよね」明日葉も相槌を打った。

「お客様に安心して来てもらうために、まず、店を知ってもらう。 二人とも全く知らないスナックに行かないだろう」
「当然です。私、オンナなんですから」
「そういう意味じゃなくて、値段が書いてない高級そうな店には、 どんな店かわからないと行きにくいだろう、ということさ」
「それは、そうですけど」二人とも頷いた。
「でも、そこの店長がどんな人か知っていたら、不安はないだろう?
「真面目に良心的な経営をしているとかが分かれば、安心して行けます」
 横井リーダーが答えた。
「だから、お店を少しでも知ってもらうために、ニュースレターで店長の考え方を伝えるんだ。分かった?」
「分かりました」

「それにいきなりAED講習会を始めたら、お客様は急にどうしたのか不信に思うだろう?」
「そうですね。何でそんなことを今さらやるのか、疑われますよね」
「痛くもない腹を探られるというやつですね」
「そういうこと」
「なるほど、分かりました」

「二人とも、このニュースレターをしっかり読んでおくように。 それから、休憩室にも貼るので、みんなにも読むように伝えてね。」
「伝えるだけでいいんですか?」
 明日葉はニッコリしながら聞き返した。
「・・・・・・どういうこと?」
「関根店長のことだから、こそっとチェックに来ると思いますよ」
「やるかな」
「やると思いますよ」
 そう言って明日葉は前かがみになり声を落とした。

「実は、この間の大雨の日、何となく嫌な予感がしたんで、信号までゴミ掃除に行ったんです。そしたら・・・」
 明日葉は2人を見た。
「関根店長が、雨の中。・・・立ってたんです」
 明日葉は大きな声をあげた。
「傘もささずに!!!」
「えっ?」
「傘もささずには冗談ですけど。本当にいらしてて、『ご苦労様』って声をかけられました」
 二人とも初めて聞く話しなので驚いた。

「話を聞いたら、わざわざというよりも信号角のファミレスで朝食をとっていた、らしいですが、 あれはもしかしたら、決めたことを守らないんじゃないかって、チェックに来たような気がします」
「明日葉、俺に何も言わなかったじゃないか」
 横井リーダーが明日葉に文句を言った。
「そうでしたっけ。 でも、横井リーダー、貸し一つですよ。 もし、横井リーダーの話を真に受けて、掃除をしていなかったら、店長に怒られてたかも、しれないですよ」
 明日葉は得意げに言った。

「ところでどうします?読んだ人はチェックするリストなどを、作っておきましょうか」
「そうしてくれると助かるよ」
「それじゃ、やっときます」
「それと、朝礼でニュースレターのことを伝えることと、朝礼のときに、 ニュースレターのことでお客様に話かけられたら内容をメモしておくこと、 それからインカムで内容を共有することにしてください。以上です」
 明日葉と横井リーダーは、さっそく準備にかかった。

 ◇◇◇破り捨てられたニュースレター

 ニュースレターを送って3日目。
「店長、こんなものが落ちていました」
 そう言って西谷主任が、破り捨てられたニュースレターを持ってきた。
「どこにあったの?」
「お客様休憩ルームの中に置いてありました」
 裏を見ると、“玉を出せ”と書いてあった。

「競合店の嫌がらせでしょうか?」
「そうではないだろう。負けた腹いせに、たまたま持っていたニュースレターに怒りをぶつけたんだろう。 気にしないことだ」
 翔太はそう言った。

「店長、昨日リーダーが話していたんですが、『ニュースレターは送るな』とかいう人が、 何人かいたようですよ」と森川副店長が報告をした。
「それは、私も聞きました。3人いたそうですね」
「大丈夫なんですか?」
「森川副店長、その3人がどういうお客様か会員管理で、次の進捗会議までに調べてください。 お任せして大丈夫ですか?」
 翔太は新しい方針を打ち出せば、当然ありうると思っていたので、気にはしなかった。

 誰もが賛成する店舗方針があると思うのは幻想で、それに対して反発する人間は必ず出てくる。 問題となるのは、その反発した人間が、自分たちがメインと定めたお客様であるかどうかである。 その人達が賛同していれば問題はないし、 逆に自分たちの方向性と違うパチプロや出玉重視の人が反発したとしても、当然のことで問題ではない。

 レジャーホテルの宿泊料金を見て、出張で深夜に店舗設備の修理に来ている作業員が、 余計なサービスをするな、高すぎると文句を言うことはない。 もし、文句を言ってきたとしても、取り合わないだろう。それと同じである。 同じ業界でも、どのような人をメインのお客様(メインターゲット客)とするかによって、 運営方法や業態が違ってくる。

 店舗が新しい方向に変わるのであれば、 既存のお客様の中で、去っていくお客様は必ず出てくる。 逆に、その方向に賛同して新たなお客様が増えてくる。 ただ本当にそうなのかは、検証する必要があると思っていたので、 森川副店長にどういうお客様なのか調査を依頼した。
 翔太は、大滝店で同じようなことを経験していたので、あまり気にならなかった。

 その様子を見て、森川副店長は気に食わなかった。 なんとなくお客様をないがしろにしている。 それが森川副店長の抱いた印象だった。

「わかりました。一応調べます。
 ですが、パチンコをする人には、ニュースレターとかいって店の方針を送っても、ピント来ないんじゃないですか。
 地域のパチンコ人口が減少しているので、お客様を不快にするようなことは、 やめておいた方がいいんじゃないか、と思いますけど」
 そう言って森川副店長は事務所を出ていった。

        ☜ 前回             次回 ☞

inserted by FC2 system