◇◇◇定例進捗ミーティング(5月3週目)
翔太は1週間が本当に早いと思った。 金曜日に役職者向けのAED向けの突然死の勉強会をやり、台の選定、データの分析に業者打合せ。 あっという間に時間が無くなる。森川副店長がいるので、申請書類の仕事は結構助けられている。 所轄への提出もやってくれるのは大変ありがたい。 事務所に戻ってきた翔太に、森川副店長が声を掛けた。
「どちらに行かれてたんですか?」
「ちょっと市の地域包括支援センターにね」
「地域包括支援センター?」
「『認知症サポーター』ってきたことある?」
「あります。確か大滝店や大安寺店では、全員サポーターになっているって聞きましたけど」
「そう、サポーターの研修をこの店でもやって、スタッフ全員サポーターになってもらいたいと思ってます」
「全員ですか?」
「講座を受講すればなれるから、難しいことではないですよ」
「そうですか」
「これから認知症の問題は、接客業に切り離せないものとなっていくでしょう。
だから早めに対応して置くことが大切と思っています。それに」
「それに何ですか?」
「この問題は地域の問題ともなっていると思ってますので、この店舗を利用して講習会を開き、地域の人と連携して対応していきます。
地域密着施策の一つですよ」
「そうですか。そうなると良いですね」
森川副店長はあまりピンと来なかった。
「森川副店長、時間になったので、進捗ミーティングを始めましょうか」
翔太は森川副店長を誘って事務所のミーティングテーブルに移動した。
それを見て、主任達も資料を持ってテーブルに着席した。
◇ニュースレターの浸透
「それでは西谷主任、報告をお願いします」
西谷主任は、クリンリネスの簡単な報告をし、続いてニュースレターの進捗について報告をした。
報告内容は、全員にニュースレターを読んでもらったこと、
そしてその内容をスタッフが把握しているか確認したことを報告した。
「西谷主任は、スタッフの理解度を確認したのですか?いいですね」
翔太は西谷主任に声を掛けた。
「はい、一応は」
西谷主任は、明日葉に言われて確認しておいて良かったと思った。
「西谷主任、目的的に仕事をしていますね。スタッフの反応はどうでしたか?」
「キックオフをしているので、その一環という認識は持っています。
やろうとしていることに賛同しているスタッフが多かったですが、4分の1ぐらいのスタッフは、冷ややかな反応に見えました」
「それで、西谷主任はどうするの?」
「どうする?といいますと?」
「そのスタッフたちを放っておくの?」
「いえ、そんなことはありません。
反応の悪いスタッフは分かっていますので、ニュースレターに対して、前向きに取り組むように説得するつもりです」
西谷主任は明確に言い切った。
「いいですね。役職者がみな同じ気持ちになって、スタッフに働きかけることで、スタッフは店の方針を信じます。
そういう意味では、役職者全員が折に触れて、店舗の方針やニュースレターについての意義を、スタッフに繰り返し話してください」
「ところで、お客様のニュースレターに対する反応はどうでした?」
西谷主任から、今日までの集計ということで、何らかの会話が38件。
その中で悪い反応は5件で、良い反応は8件ということであった。
「森川副店長に、その中の3人を調べてもらっています」
翔太は森川副店長を見た。
森川副店長は3人に加え、西谷主任から聞いて、さらに2人、計5人のデータを調べた内容を報告した。
5人のうち4人はいつも勝っている客で、出玉をしている日には必ず来るお客様であった。
残り1人は、来てもあまりカードを挿入しないので正確なことは分からないが、
カウンターへは頻繁に行くので、おそらく勝っている可能性が高いとお客様ということであった。
「いずれも、そんなことより、『もっと出玉をしろ』と言っていたようなので、おそらく勝にこだわるお客様でしょう。
放っておいて大丈夫でしょう」
翔太は躊躇なく言い切った。
そして、悪い反応については、本当に問題なのか、会員管理システムで把握できるので、事前に手が打てるという話をした。
一方、良い反応は共有し合うように言った。
そして、西谷主任に良い反応についての報告を詳しくさせた。
その後、良くも悪くもないという25件の話について、どのような受け答えをすれば、
良い反応に導くことができるかを、西谷主任にリーダーと一緒に考えるように指示した。
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翔太は指示をしながら、また北条真由美がいたら散々言われるだろうなと思った。
『関根主任、あなたは自分が何をしているのか分かっていらっしゃるのかしら?
ニュースレターは何のために出しているかご存知ですよね』
『お客様にお店のことを良く知ってもらい、お店のファンにするためです』
『そう、お客様に共感を持ってもらい、店舗のファンになってもらう為ですよね。
それでしたら、スタッフに対して、ニュースレターに好感を持ってもらうトークを事前に準備し、
お客様を店舗のファンになるように導くのが、関根主任の仕事ではないのかしら。
それなのに、ニュースレターの善し悪しの評価を、ただ収集するようなことしかスタッフにさせていないのは、
とてもコミュニティホール作りを全力で取り組んでいるようには見えないんですけれど。
それともわざと成果を出すのに、時間を掛けようとしているのかしら?』
翔太は今後のこともあるので、この際、みんなにニュースレターの浸透について念押しをしておこうと思った。
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