本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇アンケートの心構え

「皆さんに改めて言っておきますが、 施策の目的を考えて、その目的が達成されるように、スタッフを動かしてください。
 ニュースレターについては、さっき西谷主任に言った通りです。
 来週行う台のアンケートでもそれは同じだからね。」
 翔太は尾田主任を見た。

「尾田主任、大丈夫ですか」
「そうですね。大丈夫と思います」
「いいね。具体的には?」
「そうですね・・・。まず、アンケートを取るスタッフに、アンケートの目的を教えます。 そして、お客様に迷惑にならないように、アンケートを行うように言います・・・。
 これではダメでしょうか?」
 尾田主任は翔太に訊き返した。

「アンケートの目的は、お客様の要望を吸い上げること。 でもさ、その前に、これはコミュニケーションツールであるという認識が必要だよ。
 アンケートを通して、お客様と親しくなる。 そして、お客様のことを考えている店舗という印象を持ってもらう。これが一番大切なんだ。
 これが出来れば、お客様の要望の上位目的である、お客様にファンになってもらうことが、できる。そうだろう」
 尾田主任が頷く。
「そういうことを考えてアンケートを取るホールと、ただ単に、アンケートを取ればよいと思って、 アンケートを取るホールとを比べた場合、どのような違いが出るだろう? ちょっと想像して欲しいんだけど」
 そう言って翔太は全員の顔を見た。

 尾田主任はメモを見て話し始めた。
「そうですね。何となく、分かります。 お客様に迷惑をかけないように、台のアンケートを取るというのは、これまでやってきたことですね。
 アンケートの結果、お客様のリクエスト台を揃えるのがすべてで、それさえできれば良いという感じでした。 それでお客様の好感度が上がったかと言われると、あまりそんな感じはなかったと思います」
 吉村主任が頷き、西谷主任もそれにつられて頷いた。

「でも、店長が言われたように、好感をもってもらうためにアンケートを実施し、 アンケートをしながら、お客様の打ちたい台を本気で揃える意思があることを、お客様に伝えることが出来たら、 ホールに対するお客様の好感度はかなり違ったものになっていたかもしれません」
 話しながら尾田主任は気づいた点を、メモに付け足していた。

「西谷主任どうですか?」翔太は質問した。
「今の尾田主任の話で、よく分かりました。
 大滝店でうまく行っているからと、台のアンケートをこの久米坂店でもやり始めたんですが、あまりうまく行きませんでした。 実行したスタッフは、アンケートを取ることが目的となり、 お客様から迷惑そうされ、すまなさそうに回っていたので、それがいけなかったんですね」
 翔太は頷き、念のために大滝店の取り組み方法を説明した。

 同じようにコミュニティホールに取り組んで、同じ施策を打っているにもかかわらず、あるホールは成功し、 コミュニティ化していくのに、あるホールは失敗し、いつまで経ってもコミュニティ化できない。 その理由を一言で言ってしまえば実行のレベル差ということになる。

「尾田主任、今週の木、金と土、日に遊技台アンケートをとる予定ですよね。 スケジュールを報告してもらえませんか」
「はい、わかりました。
 まず、先週の終わりですが、今週遊技台のアンケートを行う告知ポスターを、風除室すべてに貼っています。
 アンケートの内容は、先日お見せしたようなものになっています」
 翔太は頷いた。

「アンケートは、日に4回取ります。午前中と午後、夕方、夜です。 なるべく、同じ人に声を掛けないように、平日の2日間は同じメンバーで、午前中と午後、夕方と夜を同じスタッフにします。 土日も同じような感じです。
 それと、カウンター横にもアンケート用紙を置き、書けるようにします。 これはカウンター担当者に一声、声掛けをしてもらいます。 同じように休憩室にもアンケート用紙を置いておき、誰でも書けるようにします。 これについては、私と吉村主任が案内します」

「了解です。それから後の段取りは?」
「アンケートの集計結果は、月曜日に手書きのポスターで貼りだす予定です。 すでに貼りだす予定のアンケート結果ポスターは、吉村主任からデータをもらって作ってあります。 後は、実際の結果を打ち込めば終わりです」
「いいね」
 そう言って吉村主任を見ると、ニコニコしていた。 吉村主任はうまく尾田主任をサポートしている。翔太は嬉しかった。
「そして導入決定のポスターは、1週間後に掲載する予定です。 それも吉村主任からデータをもらっています。 後は実際に中古台を購入できるかという問題と店長の決済ですね」

「なるほど」
「実際に台の導入になった場合は、チラシに載せるのはもちろんですが、 アンケートでその機種を選んだ方には、個別に導入案内DMを出したいと考えています。 ただ、アンケート用紙に名前か会員番号を書いてもらわないといけないので、 それがどこまでできるか、自信はありませんが、やってみたいと思います」

「いいねぇ。コミュニティは仲間づくり活動だから、直接コンタクトが取れて、台の話が出来れば、 その人は店舗の仲間、あるいはファンになってくれる可能性が高くなるね」
「先ほどの店長の話を聞いて、そう思いました」
 翔太は尾田主任の報告に満足していた。 そして、これも2か月後に予定しているリニューアル効果を高めるための演出として活用できると考えていた。

 そして、忘れないうちにと、尾田主任に追加のアンケート依頼をした。
「尾田主任、もう一つアンケート、いいかな。 6月の1週目に設備の不満や要望に関するアンケートを取りたい。 要領は同じで。シフトだけ押さえておいてくれないか」
「わかりました。6月の第1週目ですね」
 翔太は頷いた。

「8月の改装に、お客様の声をなるべく取り入れたい。
 西谷主任がクリンリネス調査でチェックはしているが、それ以外に何かあるかもしれない。
 でも、アンケートの最大の目的は、地域密着店として、お客様と一緒に店づくりをしていくという姿勢を示すことなので、 それを頭の隅に置いてアンケート全体を考えて欲しい」
「了解しました。とりあえずシフトを調整します」
 尾田主任は答えた。
 翔太が時計を見るとすでに夜の7時半になっていた。



 ◇◇◇ 初めてのスタッフ研修

 店休日。お昼の13時。2階の会議室にスタッフ全員を集めた。
 小泉社長が人材育成に力を入れるという方針のもと、大きめの会議になっていたので、 こうして研修ができることをありがたいと思った。
 大滝店でもスタッフ研修をしていたので、大切さはよく分かっている。

 結局、スタッフが育つことがコミュニティホールを成功に導き、 他社との差別化を図ることができ、お客様や地元の人の評価が高まる。
「それではこれより、久米坂店のスタッフ研修の第一回目を始めます。
 研修を担当する店長の関根です。そして、アシスタントの尾田主任と吉村主任です」
 翔太は早速研修を開始した。

 研修目的は、まず、スタッフを仲良くさせ、目標に向かって協力できるチームを作ること。 二つ目はスタッフのお客様に対して心遣いができるマインドを醸成すること。 三つ目がコミュニティホールについての知識見識を深めること。以上の3つである。

 一番最初なので、全員が握手する「握手でチェーン」を行い、その後、二人一組になって「他己紹介」をしてもらった。 一緒に働いていると言っても、何でも話しているわけでもなく、改めて家族や趣味の話をすると盛り上がった。

 続いて、マインドの醸成では、感動したり、感心したりする文章を配り、 グループに分かれて、なぜそう思うのかをディスカッションをした。
 一種の疑似体験であり、同じ体験を重ねると意思疎通がしやすくなると同時に、 ディスカッションでいろいろな見方に触れ洞察力が養われる。 これが相手に対する思いやりに通じる。
 この後、少し休憩をはさんで、パチンコ店がコミュニティホールに取り組む意義を、復習を兼ねて説明した。

 最後に、翔太は『感謝カード』について説明をした。
「静かに、してください。
 これから今配った『感謝カード』について説明します。
 あなたが感謝をしたいと思ったときに使うカードです。
 まず、手始めに同じ働いている仲間であるみなさんに対して使ってください。 お互いに感謝カードを渡し合ってください」

 アルバイトスタッフの千葉忠司が手を挙げた。
「すみません。休憩室に貼ってある『感謝カード入れ』を利用するんですか?」
「そうです。そのために作っています。感謝を感じた人の所へ、メッセージを書き入れてください」

 すると今度がフリーターをしていた江原琴音が質問をした。
「あのー。感謝することが無ければ、どうするんでしょうか?書かなくてもいいんでしょうか?」
「ハイ。良い質問ですね。
 この取り組みは感謝を探すことが宿題のようなものです。
 同じ風景を見ても、キレイなところを見る人もあれば、汚いところを見る人もいます。 公園を歩いた人に感想を聞くと、キレイな花が咲いてきれいな公園だった、という人もいれば、 犬のうんちが一杯で汚い公園だったという人もいます。
 同じ公園です。しかし、花を探して歩いている人と、うんちを踏まないようにと、 うんちを探して歩いている人は、同じ公園でまったく別の体験をしているということになります。
 琴音さんはどちらを見たいですか?」
「花です」
 翔太はニッコリ笑って、全員を見た。

 この『感謝カード』は花を探す努力をしてください、ということです。
 具体的に言うと、皆さんはこのホールで働いています。 働いていますが、何もかも自分一人で完結しているというものはありません。
 スタッフ休憩室を快適に利用できるのは、休憩室をきれいにしてくれる人がいるからです。 お客様の対応に時間が十分かけることができるのは、他のスタッフが、あなたの仕事分をカバーしてくれるからです。
 そう考えると、感謝の種はどこにでも落ちています。それを見つけてください」
 翔太はみんなを見た。全員が頷いた。

「それから、みなさんも気づいているように、複写式になっています。 一枚は相手に渡して、もう一枚は自分で持っておきます。 そして、いま主任が配っているノートがありますが、そのノートの表紙に名前を書いて、 中にカードを貼り付けてください」
 そう言って、大滝店で使っていた感謝ノートを開いて見せた。


「それでは今、書いてもらいます。他己紹介をした相手を覚えていますね。 その人に対して感謝のメッセージを書いて下さい。今から3分間でお願いします」
 この後、感謝メッセージを交換して、スタッフ研修を終えた。

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