本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇スタッフ研修の意図

 今日はお天気も良く、新台入替の初日でもあり、朝からお客様の入りも何となく多い。 リーダーの寺島明日葉は朝からバタバタしていた。12時になってやっと休憩がとれた。 事務所のドアを開けると尾田主任と岡田リーダーが雑談をしていた。

「お疲れ様です」
「お疲れ様。今日は忙しいね」
 明日葉の声に尾田主任が反応し、声を掛けた。
「やっぱり、新台入替の前日に店休を取っているからでしょうか?」
「それもあるだろうね。お客様も店休の後は出玉という期待があるかもしれないね」

「店長はスタッフ研修が大切だと言われてましたけど、本当に休みをとるんですね」
 明日葉は日頃思っている疑問をぶつけてみた。
「以前、関根店長がいてた大滝店のある地区は、新台入替の時は店休をとる地区だったから、その習慣を持ち込んだというところですか?」
 岡田リーダーが訊いてきた。
「でも、山崎部長や社長がOKを出してるんですよね」
 明日葉は、高坂部長の第一営業部ではまず考えられないので、不思議に思っていた。
「太っ腹というか、コミュニティホール作りには必要ということでしょうか?」
 岡田リーダーが尾田主任に問いかけると、尾田主任はニヤッと笑った。

「関根店長は、このホールのスタッフ力に期待してるのさ」
「どういうことでしょう?」
 明日葉は身を乗り出した。
「この前、関根店長と一緒にメーカーに言ったときに聞いたんだけど、
 関根店長はここのスタッフの質を上げて、どの競合店より、感じの良いスタッフにしたいと言われてたよ」
「そうなんですか」
「もし、そうなったらこの店休の意味は奥が深くなる」
「どういうことですか」
 岡田リーダーも身を乗り出した。

「例えば、うちがパン屋で、すごい美味しいパンを作ったとしよう。
 でも、うちのパンしか食べたことのない人は、美味しいとは思うが、 他のパン屋のパンを食べたことがないので、どれだけ美味しいかわからない。
 ところが、うちのパン屋が店休となると、他のパン屋にパンを買いに行くよね。 その時、初めてうちのパン屋の美味しさは代えがたいとわかる」
「親がいなくなって、初めて親の有難さを知るようなもんですか?」
「そんな大げさなものではないけど、良さは相対比較しないとわからないから、 その比較する機会を作るという意味合いもあると思うよ」
「へーっ、そうなんですか」岡田リーダーは相槌を打った。

「でも、それってリスクもありますよね」
 明日葉は尾田主任を見た。
 尾田主任はニヤッと笑った。
「もちろんさ。うちのスタッフレベルが悪ければ、逆に競合店の良さをお客様に教えるようなものになるからね」
「そうですよね」
「だから、俺たちはホールの品質を本気で上げないダメだということさ。 それは、現場を指揮監督する君たちリーダーの役割が大きくなってきているということだよね」
「と、言うことですね」明日葉は少し藪蛇になったのかなと思った。

「尾田主任、この研修でお客様の定着化が進むということでしょうか?」
「それもある。さらに言えば、他のパン屋のお客様に、 うちのパン屋を奨めてくれる可能性が出てくる。ということらしい。
 それにいまコミュニティホール作りとして、いろんなことを計画しているから、 他のホールとの差別化もできる。 さらにお客様がお客様にお奨めしやすくなる。
 つまり、口コミを狙っているということさ」
「だから、スタッフ研修を店長自らやっているわけですか」
 岡田リーダーが納得したように頷いた。

 ◇◇◇店長の研修好きですよ

「私、店長の研修好きですよ。
 前半のチームビルディングは、ゲーム形式なので面白いし、アルバイトスタッフとの距離が近くなりますから。
 それにアルバイト同士でも、会話って思ったほどなかったから、あまり仲間を意識しなかったけど、 ゲームをやるとお互い仲間意識ができるようなったと思います」
 明日葉は研修後に感じていることを話した。
「私もそう思いますね。そのお陰でリーダーとして出す指示をスムーズに実行してくれているように感じます。 以前に比べてスタッフとの距離が近くなったようです」
「私も」明日葉も同意した。
「たぶん、お互いを配慮して動くことができるようになってきているんだろう。 人間関係がギクシャクしている店舗では、会員募集すらままならない状態になる」

 尾田主任は、以前いた店舗の話をした。 その店舗は会員募集に力を入れていた。 でも、会員募集を熱心にやるスタッフがいるとそれに時間がとられるので、他のスタッフがその人の仕事をしなければならなくなる。
 だから、そんなスタッフを非難したり、そのスタッフの担当コースのフォローを遅らせたりした。 それを見つけて注意しても、不満顔ですぐに改めようとしなかったという話をした。

「そんな話を聞くと、昨日から始まった『感謝カード』をどんどん交換するようにして、 お互いに対して感謝の気持ちを持たないとダメですよね」と明日葉が言った。
 岡田リーダーも頷いた。
「そころで、明日葉リーダーは『感謝カード』はすぐ書けるの?」
「当然ですよ。岡田リーダー。私ぐらい感謝の心をもった人はいない、とこっそり思っています」と言って明日葉は笑った。

「そう言えば、マインド醸成はどうだった?寺島リーダー」
 尾田主任は明日葉に尋ねた。
「マインド醸成はちょっと苦手ですね。 私、こう見えても涙もろいので、コンタクトがずれそうで困るんですね」
 そう言って明日葉はニコッとした。
「昨日の研修で使った文章は、結構泣きそうなスタッフがいたよなぁ」
 岡田リーダーも思い出して苦笑いをした。
「尾田主任も、目が潤んでいたように思いましたけど」
 明日葉は尾田主任を覗き込んだ。

「そうだった?でもあの手の文章は、考えさせられるよなぁ。その後のディスカッションも結構面白かった。 お客様に感情移入する訓練になるね」
 尾田主任は話をはぐらかした。
「そうですね。感情移入力が高まるとお客様に対する関心が高まるので、コミュニティホール作りにはもってこいですね。 それに同じ物語をみんなで共有するのは悪くないですね」
 明日葉も同意した。
「俺もそう思っている。この研修の物語は、スタッフに接客指導をするときに役に立つと思っている。 共通の体験というか知識があると、それを援用して考えさせたり注意をすれば、言いたいことを伝えやすいからね」
 尾田主任もスタッフ研修を気に入っているという話をし、3人で盛り上がった。

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