本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇感謝カード定着に不安

「吉村主任、ちっといいかな?」
 翔太は吉村主任に声を掛けた。
「何でしょう?」
「感謝カードは、みんな書いているか?」
「研修直後は多かったんですが、・・・」
「状況を把握している?」
「把握はしていませんが、大きな問題はないと思いますが・・・」

 翔太は、感謝カードに対する意識は、何もしなければ早晩薄らいでくると感じている。 効率を上げるために吉村主任には、経験がある程度要求されるコミュニティ化推進活動を、担当してもらいたいと考えている。 しかし、このまま吉村主任を感謝カードの推進役にさせると業務量が多くなり、他の主任とのバランスが悪くなる。
 感謝カードは、十分条件の④番目の『感謝』の下準備になるが、 同時に十分条件の⑩番目である『現場スタッフ』の巻き込みにも関係がある。 翔太はこれをコミュニティホール推進の重要な布石と考えている。
 もともと現場スタッフの啓発には、影響力の大きい先任主任の尾田主任に担当してもらいたいと考えていたので、 この際、尾田主任に感謝カードの推進役を頼もうと翔太は考えた。

 翔太はモニターを見ていた尾田主任を呼んだ。
「何でしょうか?」
「この間の研修からやり始めた『感謝カード』の件だけど、君に推進して欲しいと思うんだが、どうだろう?」
「私がですか?」
「尾田主任が、スタッフに宛てた感謝カードを読んで、感謝の見つけ方がうまいと思った。 それと、全役職を含む全スタッフに徹底させるのは、店舗歴が長い尾田主任がふさわしいと思っている」
「わかりました、何をすればいいんですか?」

「『感謝カード』定着化の具体的な運営イメージと推進プランを作って欲しいんだ。」
「運営イメージと推進プランですか?」
「尾田主任も気づいてると思うけど、感謝カードの記入枚数が少なくなっている。 このまま放っておくと、消滅する。 そうなるとスタッフのマインド醸成が遅くなる。 コミュニティホールの推進が遅れてしまう。 だから、これを業務として組み込み、恒常的に運営するように考えて欲しい」
「大滝店では、業務として組み込んであるんですね」
 翔太は頷いた。
「大滝店については、ここにいる吉村主任に訊いてもらえばわかる」
「了解しました。概要が出来たら、またご相談します」
 尾田主任はそう言うと、吉村主任を誘ってミーティングテーブルに移動した。

 ◇◇◇進捗チェックの振り返り 5月第4週

 翔太は、今日の進捗会議を振り返っていた。
 尾田主任の遊技台アンケートは、4日間で432枚のアンケートがとれた。 多いとはいいがたいが、忙しい中でよく頑張ってくれている。 尾田主任は思っていた以上に使える。
 なぜなら、施策の実行にあたり、成功するために必要な要素を自ら考えて揃えるようにしている。 言われたことをただ実行するというタイプではない。目的を理解して行動している。
 具体的に言えば、まず、スタッフの選定を十分している。 選定基準は、お客様に対して接するのが得意なメンバーにしている。 そして、そのスタッフに対して、事前にロープレを行っている。 その内容も、きちんとプロセスに分けている。

 当日は、アンケートの割く時間が十分とれるようにシフト調整をしてあった。 そして、何よりもアンケートをとるべき人を指示している。 時間が限られているので、来店頻度が高いか、顔なじみのお客様か、会員カードを挿入しているお客様に絞り込んでいる。 つまり、当たり前だが、アンケートに基づいて遊技台を入れるので、導入後来店が期待できる可能性の高い人を選んでいる。
 加えて、アンケート当日は、尾田主任も休憩室のお客様やカウンターのお客様に話しかけて、率先して頑張っていたことが、良い結果に結びついている。 そして、予定通り、月曜日の昼過ぎには早々に結果ポスターを貼りだしている。

 翔太は、アンケート対応を観察していたが、アンケートをとるスタッフに対し、お客様は自分の好みの台を入れてくれるということで良好であった。 そして、ポスターの貼り出しの早さ。店舗のやる気をお客様が感じるものになっている。 翔太は尾田主任の仕事内容に満足をしていた。

 ただ、翔太は、このアンケートに基づいて、購入する中古台の選定方法については、実際尾田主任がどのように検証するのか興味があった。 とりあえず、明日の午後から2時間ほど時間を取っている。そこで確認をすることにした。

 翔太は最近よく思うのが、店長になるとできない主任が良くわかる。
 できない主任に今回のようなアンケート調査をさせると、何にも考えず、ただスタッフを頑張れと鼓舞し、店長命令だからと無理やりアンケートを取らせる。 もちろんアンケートの目的も知らないスタッフは、お客様に迷惑をかけているという意識から申し訳なさそうにアンケートとる。 それもアンケートを取り易そうなお客様から。 もし、取れなければ取り方の改善を指示することもなく、精神論で押し切ろうとする。
 北条真由美の言葉を借りれば、監督者という立場での「施策を実行する」という意味が分かってないのだ。

 そんなアンケートが役に立つかと言えば、あまり役に立たない。 それでいて自分は頑張っていると思っている。 一方、お客様は何をやっても効果はないと思い込んでいく。 挙句の果てにスタッフが嫌がっているし、そう言うことは止めましょうと、スタッフの味方というような顔で、代替案も無く後ろ向きの話をする。

 そう考えると翔太は、小泉社長の人材育成の効果が出てきていると思った。 自分一人でコミュニティホール化を進めているように思っているが、 母体の会社がしっかりしていることで、いかに助けられているか、感謝の気持ちが自然と出てくるのを感じている。


 次の吉村主任の報告内容は、新人アルバイトスタッフ用の接客マニュアルが完成したこと。 感謝カードをスタッフが書き始めたこと。そして感謝カードの担当を尾田主任に引き継ぎを終えたこと。 消防署へ行って、AED講座の段取りが7月の第3週に決まったこと。 そして、リーダーで救命講習を受けていない横井と寺島は、先週末に消防署で行われた普通救命講習を受講し終えたこと。 最後にトラブル調査報告と全スタッフの『能力一覧表』の報告があった。

 吉村主任は、トラブル調査結果をABC分析し、上位5種類のトラブルを解決すれば、 役職者呼び出しの85%を防ぐことができることを報告し、5種類のトラブルをアルバイトスタッフで解決するための簡単なアルバイト教育テキストを作ってきた。

 テキスト内容は、トラブルの原因と同時に解決の方法、それからお客様への対応手順と注意事項など、お客様目線を意識したものになっていた。 トラブル解決を通じて、スタッフがお客様から信頼を得られる工夫が感じ取れた。良く出来ている。
 そして、このテキストを使って、主任とリーダーがチーム作り、5種類のトラブルを解消するために手分けして教育を行う計画を立ててきた。

 『能力一覧表』については、大滝店のものをそのまま使い、自己評価の部分は、先週、スタッフ全員に自己申告アンケートを記入してもらい現在集計している。 上司評価は、手分けしてつけており完成次第、提出するということであった。 吉村主任も良くやってくれている。この調子でいけば、予定通り6月の店舗会議で、コミュニティホール化に向けて、さらなる取り組みの話ができると翔太は思った。

 西谷主任の担当しているクリンリネスも、しっかりできている。 それだけでなく、店舗周りの掃除の範囲を少し広げたいと言ってきている。 ニュースレターの活用も、リーダーと相談して、手分けして親しいお客様からニュースレターについての感想を聞いている。 数はそれほどでもないが、スタッフがニュースレターの内容を話しているということで、 お客様からすると店が一丸となって取り組んでいるというイメージを持ってもらえる。これも問題はない。

 森川副店長は、会員の目標は設定したが、会員の入会人数は相変わらず1日2~3人でしかない。 このままでは月末の目標はとても達成できない。 活動データを訊いたら、記録していないというので、スタッフが回った時間帯やアプローチした人数、 所要時間などの記録をつけておくように言っておいた。

 DM不要をDM要にするための改善策についても、報告が全然上がってこない。 会員育成のための資料作りは、全然手を付けていない。 吉村主任に聞くと、森川副店長から大滝店の資料について訊かれていないので、何もしていないということだった。

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