本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇6月店長会議後の雑談

 翔太は、店長会議で5月の結果報告を終えて、山崎部長と事務所で雑談をしていた。
「高坂部長と川田店長は、基本的に新台と出玉で対抗するみたいですね」
「結構イベントもやるつもりだ。ライターに屋台、その他にもいろいろ考えている」
「競合のデルジャン本町店は、7月の後半にグランドリニューアル?オープンですか?」
「大幅に改装をするそうだから、外観もかなり変わるみたいだ。 ほとんど新店に近いんじゃないかな」
「デルジャンも本気ですね」
「どこも同じさ、稼働の良い店を持っておかないと、会社の士気に影響するし、パチンコユーザーの印象も悪くなる」
「本町店は、デルジャンが閉まっているので、稼働は増えているんでしょう?」

「今日の報告では、分かりにくいが、月末に閉めたんで、そのころから客入りは明らかに多くなっている。デルジャンのお客様が来ているね」
「コミュニティホールから見れば、今が定着化のチャンスなんですけどね」
「そうなんだけど、高坂部長と川田店長は、グランドオープンに向けて、厳しい営業をして資金確保をしているようだ」
「それじゃ店舗に居つかないですよね。もったいないですね」

 高坂部長と川田店長の行動は昔なら定番の行動。ほとんどのホールがやっていた。 お客様を痛めても、出玉合戦をすればまた呼び戻せる。稼働も付かすことができる。 でも今はそういう時代ではない。少なくとも自分たちの規模では。
 だから逆に競合店が閉店して、お客様が流入している時期は、定着化戦略を強化しなければならない。 でも定着化に自信を持つことができないなら、競合店オープン後の出玉の影響が心配で、このための資金をプールすることが、最優先となるのだろう。 昔の自分がそうであったように。翔太はそう思った。

「ところで、新店の住民問題は良い方向に向かっているんですか?」
「少し手間取っている。住民側の代表者との日程が合わなくて、故意に引き延ばしをしているような気がするよ」
「たいへんですね」
 翔太としては、久米坂店に赴任したばかりなので、すぐに移動とはならないだろうと思っている。 だから新店の進捗はあまり気にならなかった。

「そういえば、関根店長、コミュニティ化の布石は順調に進んでいる?」
「部長がこの間来られたときと、あまり変わりはありません。 ただ、尾田主任と西谷主任の動きが予想より良いので、進み方は悪くありません。 それに吉村主任はよくやってくれています」
「森川副店長はどうなんだ?協力的になったか?」
「あまり協力的とは言えませんね。 コミュニティホール化の施策の妥当性を検証してもらうために、会員管理担当者をしてもらっているんですが、どうも動きが遅いですね。 仕事の仕方自体がどうも気になります」
「森川副店長が、あくまでもコミュニティホールに理解を示さないということであれば、 古巣の本町店へ移動してもらう手もあるから、それは翔太が判断してくれ」
「わかりました。でも、今の社長の方向性からいけば、コミュニティホールに興味がないとなると、店長の道はなくなりますよね」
「まあ、それはなんとも言えないなぁ。 高坂部長が巻き返して本町店を地域1番店にすれば、従来型の店舗も引き続きやるかもしれない。 だから俺はなんとも言えない」
 そう言って山崎部長は笑った。

 ◇◇◇6月第1週の店舗会議

 翔太は特別なことがない限り、店舗会議は全店会議の翌日に行うことにしている。 午後から浅沼店のメンバーを加えて始まった。
 いつものように会社からの伝達事項の報告。 そして、グループ店の状況報告。 先月の業績報告。 稼働は連休があったものの、それほど伸びはなかった。森川副店長がいうように、出玉以外に興味の無い人は、離反している可能性が高い。 でもこれは想定内なので、翔太は気にしていない。
 翔太は今月の利益計画と稼働計画を発表し、8月のリニューアルに向けての方針を伝えた。

「先月、少しふれましたが、8月の21日から改装のリニューアルを行います。 21日から24日の4日間、店を休みにします。 対外的にインパクトがありますので、それにコミュニティ化の施策を絡めていきます。

 そのためにお客様には、改装を1か月前の7月の第4週目に告知します。 それに合わせて、断続的な企画を打っていき、リニューアルを盛り上げていきます。
 リニューアルのコンセプトは『感謝とお客様と一緒に進める地域コミュニティ店づくり』です。 お客様との共同作業によって、お客様や地域の人に本当にあって良かったと言われる店を目指します。

 それから、9月には認知症講座をこの店で開きたいと思っています。 そのために先月、市の地域包括支援センターに行ってきました。 大滝店と大安寺店では、全員『認知症サポーター』となっています。この久米坂店でもそれを目指します。
 今後はこれを念頭に置いて、活動してもらいます」
 続いて森川副店長が、6月の台入替の予定、屋台イベントやポイント交換日、総付け景品の日取りなどの報告をした。


◇周辺清掃の拡大

「それでは月初ですので、施策を中心に検討していきたいと思います。
 まず、クリンリネスですが、西谷主任から外周りの清掃について提案がありました」
 そう言って翔太は、西谷主任を見た。
「はい。えー、現在掃除をしている範囲をもう少し広げたらと思っています。 その理由は、掃除をしているとお客様から声を掛けられるからです。スタッフもうれしそうです」
 スタッフの行動にお客様が反応している。 これはコミュニティホールを進めていくうえで、スタッフのやる気を引き出す大切な要素となる。
 翔太は、クリンリネス活動は軌道に乗ると感じた。

「続けてください」
「これは寺島リーダーからも言われたんですが、うちのホールが目指す地域密着をPRするにはちょうど良いと思いまして。 掃除範囲をあと100mほど広げても今のスタッフ数なら大丈夫と思ったんですけど」

 西谷主任の話に最初に反応したのが、森川副店長だった。
「スタッフ数が余っているんだったら、アルバイトさんの出勤日数を減らしたら人件費が浮くので、その方がホールにためと思うよ」
「他の人はどうですか」翔太は他のメンバーに振った。
「私は、西谷主任に賛成です。 5月にニュースレターで地域密着の話を出し、お客様や地域の人に、その姿勢をPRすべき時なので、清掃範囲を拡大するのに賛成です」
 吉村主任の発言に尾田主任も頷いている。
 翔太は、主任の中に反対者がいないので話を進めることにした。

「はい、森川副店長の話ももっともですが、吉村主任が言ったように、 今はお客様や地元の人に『ジャック久米坂店』の取り組み姿勢を見てもらう時期なので、 西谷主任が言うように掃除範囲を拡大してもらいましょう」
「ありがとうございます」
 西谷主任が嬉しそう笑った。
「ただし、いきなり100mの延長はやめてください。
 まず、6月に40m、7月にさらに30m、8月に30mと3段階にしてください。 人は変化が継続しないと、しばらくすると当り前に感じ、努力を見てくれません。少しずつ拡大した方が、頑張っていると映ります」
「了解です」

 翔太は西谷主任が『掃除』とは何かについて、休憩時間などを利用してアルバイトスタッフに盛んに話していたこと。 そのために本を買って勉強していたことを話した。 そうして、スタッフが掃除を一生懸命にやるようになったのは、西谷主任のお陰であると、みんなの前で賞賛し、感謝をした。

 西谷主任がこのように掃除範囲の拡大の話をすることが出来るのは、スタッフが掃除についてその意義を理解し、主体的にやっているからである。 もし、西谷主任が店長から言われたことを伝えるだけであれば、このような発想は出てこない。 もし、パフォーマンスでやったとしても、スタッフの反発は出てくるので、清掃活動が長く続くことはない。 だから、こんな提案はしてこない。

 翔太は、『掃除』という当たり前のことを深く研究できる人間は、コンセプチャルスキルを磨けるタイプに人間である。 以前、北条真由美から、この能力は経営者に必要とされる能力と言われ、 翔太の思考に深さが無いのは、このコンセプチャルスキルが足りないからだと指摘されたことがあった。
 翔太は西谷主任のクリンリネスに対する真摯な取り組み姿勢を見て、 西谷主任もいずれこのジャックを支える幹部となってくるに違いないと思った。

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