本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇遊技機情報の提供

 トイレ休憩を入れて、会議を再開した。 尾田主任は『感謝カード』の取り組みを説明した後、遊技台アンケートのまとめと、それに基づく分析結果報告を行った。
「ご苦労様。この間打合せた通り、希望台の上位10機種の中の5機種は、7月の第1週に入れます。 今回のアンケートは、非常に工夫してやっています。お客様の印象は良いはずです。 そこで、尾田主任にお願いがあります。 仕上げとして、お客様が、台を入れてくれたことに、感謝できるような告知の仕方を、考えてみてください」
 翔太がそう言うと、尾田主任が何か言いたそうだったので、発言を促した。

「実はそれについて、アンケートとりながら考えたんですが、 新台も同じですが、中古台の知識がスタッフによってバラツキが大きく、 今回のように希望の中古台を入れたとして、それを他のお客様にも活用してもらうためには、 ひと工夫がいるんじゃ無いかと思ったんですが・・・」
「どういうことですか?」

「このリストにあるように、アンケートで好みと書いたお客様は、その台を良く知っているので、説明の必要はないと思います。 でもそれだけでは、中古台を利用するお客様の数はあまり期待できません。
 そこでホールでもっと、お客様に台の利用を働き掛けることが出来たら、機種のファンが増えて、 お客様の定着率があるのではないかと考えたんですが、おかしいでしょうか?」
「なるほど、それで?」

「コミュニティの研修の時の十分条件の⑧番目の商品知識を提供する仕組み、 パチンコ業界で言えば、遊技機知識を積極的に提供する仕組みを、この際作ってはどうかと思っています。 そのためにアルバイトスタッフに遊技機の勉強をしてもらって、お客様にアドバイスできるようになればと考えています」

 尾田主任の説明を遮るように、森川副店長が発言をした。
「ちょっと待って。 遊技機の勉強って、今でもメーカーの冊子や、パチンコ・パチスロ雑誌を買ってスタッフの休憩室に置いているじゃないか。 それに台にはすべてリーフレットをつけている。 お客様に対する情報提供は十分している。あれも結構手間をかけている。 これ以上何をするんだ」

 森川副店長は、これまで前任の太田店長がやってきたことを否定されたと思って、尾田主任に対して不快感を表した。
「スロットの天井や潜伏確変など、大当たりに関することはあるけど、今まででも十分対応できている。そうじゃないのか?」
「・・・・・・・」
「それにお客様は、遊技台について詳しい知識をスタッフに期待していない。 そうだろう。今までどれだけのお客様が、新台や中古台について詳しく知りたいと言ってきた? ほとんどないよね」
「森川副店長、ちょっと待ってください。尾田主任の話をもう少し聞きましょう」 翔太は、副店長を止めて、尾田主任に発言を促した。

「尾田主任、新たに言い出した理由は何?」
「そうですね。副店長が言われたように雑誌は買って休憩室にあります。 しかし残念ながら、読んでいるとは限りません」
「それは、読まない奴が悪い」
 森川副店長が大きな声でつぶやいた。
「森川副店長、最後まで話を聞きましょう」
 翔太は、森川副店長を制し、再び尾田主任に発言を促した。

「私もこれまで勉強するかしないかは、スタッフ個人の自由と思っていた面もあります。 でも、お客様から見ればスタッフの品質にバラツキがあるということになります」
「なるほど」翔太は頷いた。

「それに先ほど、森川副店長が言われた『お客様は期待していない』というのは、私は少し違う認識を持っています。
『ホールが期待をさせていない』のではないでしょうか。
 私はお店に行って、この店舗の店員は商品知識があると思うと尋ねますが、無いと判断すると一切質問しません。 これと同じと思っています」
「つまり、尾田主任は、『お客様から見切られている』と思っているということですか?」翔太は尋ねた。

「ええ、そうです。来店される高齢者のお客様が、パチンコ雑誌を研究して、 豊富な知識を持って遊びに来ているとは思えないからです。 それでも遊技台のことを尋ねない。 それは昔からの慣習かもしれませんけど・・・。」
「同じ事実に接していても、尾田主任はそれを問題と感じているということですね」
 森川副店長は横を向いている。

「昔のようにパチンコを賭博場という位置づけならば、不要かもしれませんが、 店長が言うように本当にコミュニティホールを目指すなら、 これまでと同じ対応では、お客様から見て、ホールが本気でお客様のために遊びをサポートし、 コミュニティ化していく体制を整えていることにはならないと感じました」
 翔太は大きく頷き発言を促した。

「いくら掃除や挨拶を徹底しても、遊技台についての知識が乏しいというのでは、 パチンコを手段としてコミュニティを提供しているとは言えないのではないでしょうか。
 実は、西谷主任や吉村主任の話を聞いていて、掃除や挨拶を徹底すればするほど、逆に、
『笑顔もいいけど、こんなことも知らないのか』
と反発する人も出てくるんじゃないかと思ったんです」

翔太は話を聞きながら、昔、北条真由美に言われたことを思い出していた。
・・・・・・◇・・・・・・
『関根主任、笑顔が出来ても、お客様が出来て当たり前ということが出来なければ、 スタッフは評価されないことをご存知ないのかしら』 『・・・・・・』
「心理学者もホテルで“笑顔と基本業務の関係”を調べて同じことを言っています。 笑顔が無くて基本業務を素早くできる従業員は、笑顔はあるけど基本業務に戸惑っている従業員より評価が高かったと。
 それとも関根主任は、ここに来る人はホテルのチェックインの際にニコニコ笑って、 業務もろくにできない女性従業員に好感を持つ奇特なお客さんばかりが集まっているとでも言いたいのかしら?
 そうでなければ、自分勝手な判断で、スタッフの業務スキルの強化を遅らせることは、止めていただきたいのですけど』
・・・・・・◇・・・・・・

 尾田主任が言うように、物事は相対的に判断される。 掃除や挨拶もロクにできないスタッフにお客様はあまり期待しないから、 遊技台の説明があろうが無かろうかどうでもよいとお客様は思っている。 しかし、今後スタッフのレベルを上げ、コミュニティ施策を打ち、いろんなことをしていくと、お客様の期待感は高まる。

 コミュニティホールなので、当然コミュニケーションを重視する。 お客様も会話が当然あると感じてくるようになる。 自然な会話のネタとなると、遊技台についての話となるだろう。 特に、若者とのコミュニケーションのネタとしては、これが一番だと思っている。

 それがまともにできないとなると、尾田主任が言うように、 本業をおろそかにしているような印象を与えてしまうだろう。
 尾田主任が、これから打つ手の結果をイメージして、お客様の心理を予測しているなら、 新しい取り組みを任せても、こなしていける人材に育ってきていると翔太は思った。

 尾田主任の話は続いている。
「それに、最近のスタッフは、パチンコを打ったことがないメンバーもいて、 パチンコに対する教育を整備しないとマズイということもあります」
「なるほど、一部のスキルを強化すると、お客様のスタッフに対する期待感が自然と高まり、強 化してない部分が見劣りするということだね」

 翔太は、パチンコスタッフに対して、お客様は今のところ遊技機知識をそれほど求めていない。 他の店舗であまり聞かない。 でも、お客様に的確に遊技のアドバイスができれば、大いに差別化になると思っている。

 テレビショッピングで、思わず買ってしまうのは、説明が上手いからだ。 普段は購入しようとすら思わないものでも、上手い説明をされるとつい買いたいと思ってしまう。 テレビショッピングでもピンキリがあり、レベル差がある。 同じように遊技機の説明の上手さが、効果を上げるための課題となるなと、翔太は考えている。

 それを部下から提案してくれるとありがたい。 自ら提案すると、先ほどの森川副店長のような考えを持っていても、表立って反対はしない。 ただ隠れて抵抗勢力となるので、それを懸念していた。 下から提案があると、各自の考え方が分かるし、それを客観的に判断するような形で、正しさを強調することができる。 翔太は、自分の応援者ができたように思え、嬉しかった。

「それから、リーフレットの件ですが、実際はあまり活用されていないように感じます。 確かに、リーフレットを置くという行為は、店が情報を提供しているというパフォーマンスにはなります。 しかし、それをお客様が利用するかどうか、それでファンになるかは別問題と思っています」
「なるほど、それが2つめの理由ということですね」
 そう言って翔太は尾田主任に確認した。

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