本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇会員管理の強化の頓挫とんざ

 最後に森川副店長の報告というか、レビューが残った。 3人の主任は、それまでの進捗も大きな問題なく、逆にやる気を見せてくれていた。
 一方、森川副店長の進捗は、大幅に遅れている。 これまで指示したことが出来ている感じはしない。
 会員管理システムはコミュニティホール化するときの有効な武器になるので、これ以上の遅れは、勘弁してもらいたいと翔太は思った。
 森川副店長にしてみれば、店長になれると思っていたのに当てがはずれたことで、前向きになりにくいという気持ちは分かる。 しかもその店長に、森川副店長より社歴が浅い人間がなったのだから、なおさらやる気は出ないと思う。
 しかしながら、翔太としては、好きでこの久米坂店に来たのではないので、自分に反発してもらっても困るというのが、正直な気持ちである。
「それでは再開しましょうか」
 翔太は森川副店長に指示している会員強化の進捗を訊いた。

「前月の獲得会員数は72人でした。先月まで30人ぐらいでしたので、スタッフは頑張ったと思います」
「今月の目標は?」
「今月の目標は70人にしたいと思っています」
「なぜ?先月お客様になりそうな人は入ってもらったので、今月は厳しくなると思っています。 その中で達成をイメージすれば、70人ぐらいが妥当で、スタッフも納得して頑張れると思っています」

 翔太は話を聞いて頭が痛くなった。これは使えない。 森川副店長ってこんなに使えない人間だったけ? 小泉社長や山崎部長がダメなら言ってくれ、と言われた言葉が頭の中を過った。
 この際、いっそこの森川副店長を外してしまうか。 彼を元の本町店の副店長に戻してもらえば、自分が考えるパチンコ店舗の運営ができる。 本人も生き生きと仕事ができるのではないかという考えが脳裏をかすめた。

「森川副店長、私が4月に1年後には、1000枚のDMを送るようにしたい。 そのなるように会員強化を取り組んでもらうように指示をしたことは覚えていますか?」
「・・・・・・・」
 翔太は、尾田主任の顔を見た。
「覚えています」
 尾田主任は短く答えた。それを見て森川副店長が仕方なく答えた。
「確かにそういうお話でしたが、現状を考えると、それは無理ですね。 スタッフも外回りの清掃や接客スキルの取り組みをやって頑張っています。 その中で会員募集も頑張って、毎日回ってこの人数です。
 それにDM有りの人が最近少なくなって、だいたい40%ぐらいです。 70人でも約30人ぐらいです。 70人をとり続けることは難しいと思いますが、百歩譲ってそれが1年間できたとしましょう。 それでもDMを送れる会員は30人×12か月で360人です。 離反もあるので、それを考えると250人から300人のDM会員が増えればいいところです。
 現在、約600人に送っていますが、その中で離反する人も当然いますから、450人ぐらいになるでしょう。 新規と既存を二つ合わせて700人から750人が精一杯と言うところですね。 とても関根店長が言う1000枚は無理と思いますけど」
 森川副店長はそう言って、翔太をにらんだ。
「そこを何とか工夫するのが、森川副店長の役割と思いませんか」
「申し訳けありませんが、無理なものをできるとは言えません」
 森川副店長は強く言い放った。

 翔太はムカッと来た。 同時に北条真由美がここに居たら、おそらくこんな風になるのだろうなと想像した。

・・・・・・◇・・・・・・

『森川副店長、あなたはそこまで言い切るということは、新規会員の獲得のために、相当な努力をしてこられたのかしら?
 まさかリーダーに定時になったら、アルバイトを会員募集に回らせる指示を出しただけ、なんてことは無いとは思いますけれど?
 私の認識不足なら謝罪しますが、それ以外に何をしたっていうのかしら?』
『・・・・・・』
『例えば、アルバイトの入会募集のバラツキに対して、バラツキが出る原因を明らかにして、何か対策を打たれたのかしら?
 そんなこともせずにスタッフを放置しておいて、ある日突然、人が育って急に会員獲得をしだすとでも思っていらっしゃるのかしら?
 それとも、バラつきは仕方がない、何ともできないと、まさか思い込まれているのかしら?』
『・・・・・・』
『入会案内をする時間帯も同じ時間に固定するのはなぜ?
 入会特典を工夫したたり、会員特典を工夫したりなさったの?
 何も工夫せず、とれたかどうかの結果だけをチェックして、ただスタッフに頑張れと言うのは、アルバイトでも出来るとは思うのだけれど・・・。
 いい加減に真面に経営管理者の仕事をしていただけないのかしら?』
と、北条真由美は地獄の笑みを浮かべながら、森川副店長を徹底的に追求するだろうなと思った。

・・・・・・◇・・・・・・

 でも、俺がここまで追い込んでしまうと、森川副店長の能力を全面否定してしまうことになる。 森川副店長のメンツを完全に潰してしまうことになる。 それに、今後会うたびに嫌な雰囲気になるのも避けたい。

 それに現場対応力が弱いのは、森川副店長が一方的に悪いというものではない。 昔はそれほど現場対応力が要求されなかったからだ。
 昔のいろんな企画やイベントは、するのが目的化しており、効果を測定して改善していくような習慣は無かった。 出玉や新台入替で、ホールは十分稼働も維持できたし、利益を上げられた。 だから能力が育っていないのは、会社というか上司が要求してこなかったのが原因とも言える。

 でも、それでは厳しくなる業界で役に立たない人間というレッテルを貼られてしまう。 今、変わらないと、これからの店長の芽は無くなるよ。翔太はそう言ってあげたかった。

「会員化はコミュニティホールにとってたいへん重要です。 再考して、経営管理者として会員強化に取り組んでもらえませんか?」
「無理な目標を出されている以上、出来かねます」
 森川副店長は受けようとしない。
 翔太は仕方がないと思った。

「分かりました。それでは会員の強化は私が主導で行います。
 会員の育成についても、私が主導でやります。森川副店長には実際の現場活動で協力をしてもらいます。
 よろしいですね。森川副店長」
 翔太は森川副店長の顔を見た。
「・・・、わかりました」
 森川副店長は不貞腐れたような返事をした。
「それでは、会員の目標等は至急作り、来週の月曜日までに報告します。 それではこれで終わります」
 翔太は店舗会議の終了を宣言した。

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