◇心配する星野店長
浅沼店の星野店長以外は全員会議室を後にした。
星野店長は翔太に声を掛けてきた。
「関根店長、あんなことを言って大丈夫なのか？」
「会員管理の件ですか？」
「主任はやる気を出して進んでいるようだが、森川副店長は反発がひどくなっているんじゃないか」
「これまで前任の太田店長の下で、自分の思うとおりにできた。
しかし、私が店長になったことで、彼がこれまでやってきたことはほとんど否定されたり、制約を受けたので、反発したくなったんですよ。
まあ、当然の反応ですよね」
「関根店長、彼をこのまま放っておくのか？」
「森川副店長が本当にコミュニティホールをするのが嫌だというなら、この店舗から移動してもらうしかないでしょう。
でも、今はただ私に対する反発だけの可能性もあります。
もうちょっと様子を見たいと考えています」
「それならいいけど、会員の推進は大丈夫なのか？」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。
以前私は大滝店で会員管理の担当をしていたので、問題はないと思っています。
人間万事塞翁が馬ですよ」
そう言って翔太はニッコリ笑った。
「ところで、浅沼店は順調ですか？」
「速度は遅いが、宝田主任と春日主任が頑張ってくれているので、進んでいる。久米坂店が先行してやってもらっているので、比較的楽に進んでいる」
「浅沼店は、星野店長がガッチリ掌握されているので、みんなの理解が進むと、速度は上がると思いますよ」
「それならいいけど。ただ、会員推進が少し気になっている。森川副店長が言ったように、会員化がなかなか進まない」
「わかりました。今回私が担当になったので、また情報をリンクします」
「よろしく頼む」
「それから今日言いました認知症の講座ですが、浅沼店もいずれ取り組むことになると思います。
市の地域包括支援センターか福祉課が窓口になると思いますが、早目につながりは付けておいた方が良いと思います。
この店では講座の交渉は私が行いますが、浅沼店ではどうしますか？」
「私がしよう」
「分かりました。それじゃ、今週の木曜日はどうですか？」
「大丈夫だ」
「それでは、木曜日の１３時頃に、浅沼店に行きます」
「了解した」
そう言って星野店長は立ち上がった。
翔太は星野店長を通用口まで見送った。
その後、翔太は会議室に残り、会員獲得の段取りとそれ以上に会員の有効活用を考えていた。
◇
会議終了後、尾田主任と吉村主任は、接客のためにすぐホールに行き、森川副店長と西谷主任は事務所に戻った。
「副店長、関根店長にあんなことを言って大丈夫なんですか？」
「心配しなくてもいいさ。無理な目標を無理と言っただけだから。
それとも西谷主任はできると言いたいの？」
「私も、店長の掲げた数値は無謀と思います」
「そうだろう。この際、はっきり言うことも大切さ」
そう言われて西谷主任はそうかもしれないと思った。
「これからは、どうするんですか？」
「店長が言っただろ、現場で協力して、と言うことだから、会員募集でもさせられるかもな。
それから俺は明日休みだから、よろしく頼むね」
そう言いながら、森川副店長は食事のために外出した。
◇◇◇ 会員カードの変更
翌朝、翔太はいつものファミリーレストランに居た。
今日から西谷主任が提案した店舗周りの掃除の範囲を広げることになっている。
そろそろスタッフが掃除に来る頃である。
窓の外を見るとアルバイトスタッフと西谷主任が通行人に挨拶をしながら、ゴミを拾いながら歩いてくるのが見えた。
翔太はレジで精算し、外へ出ると掃除をし終えて帰ってくる西谷主任とスタッフに出会った。
「おはようさん。お疲れ様。西谷主任も掃除？」
「おはようございます。今日が初日なので、実際の作業時間を図るために同行しています」
「望月さんも、ご苦労様」そういうとアルバイトスタッフはニッコリと笑顔を返してきた。
翔太はファミレスに車を置いているからとその場で別れた。
西谷主任がこまめにスタッフに気遣いしている様子を見て安心した。
事務所に入ると尾田主任が朝の準備をしている。
翔太は尾田主任を自分のデスクに呼んだ。
「尾田主任、会員カードを作り変えるのにどれだけ日数がかかるだろう？」
「同じデザインでも、最低３週間は必要ですね。枚数は？」
「３０００枚」
「３０００枚も作るんですか？」
「いい機会だから会員カードを全面的につくり直す。既存会員も対象にカードを作り変えてもらう」
「全員ですか？」
「そう、７月１日からカード切り替えキャンペーンを行う。
カードの名称は『JAC便利カード』と名前も一新する。
それから申し込み用紙も全面的に切り替える。
これもカードの出来上がりに間に合うように手配してくれ。
カードデザインの原案と新しい申し込み用紙は、今メールで送る」
そう言って、翔太は自分のパソコンから尾田主任にメールを送った。
「そういえば、尾田主任、会員募集の活動データはどうしている？」
「先だって、店長が言われていた回る時間帯と個人別のアプローチ数、獲得数ですね。
それなら私のパソコンですが、すぐに共有ファイルにあげておきます」
「それと、入会アプローチのシフト表」
翔太はまず入会アプローチの実態を詳しく調べることにした。
そのために入会案内を行う際は、声を掛けるようにリーダーに指示した。
そして、入会案内を終えたスタッフにはヒアリングを行い、活動内容や問題点を聞いていくことにした。
「ところで、吉村主任は今どこにいるのかな？」
「吉村主任は、挨拶運動の説明打合せをホールでしています。呼んできましょうか？」
「いや、俺が行くから」
そう言って、翔太はホールに向かった。