本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇ 挨拶運動

 ホールのメイン出入口の風除室前で、吉村主任は、寺島リーダーと挨拶を担当する一般スタッフに挨拶の要領を説明していた。
「ご苦労様」
 翔太が声を掛けると全員が振り向き、挨拶をした。
「皆さんご苦労様。挨拶はお店の信用をつくる活動であるのはもちろんですが、 気軽に挨拶をかわせるお客様が増えると、皆さんの仕事もやりやすくなります。 挨拶をかわすと関係ができるので、多少のことは好意的に解釈してくれます」
 翔太はみんなの顔を見ながら、これの活動は、今日やって明日結果がでてくるものでないと。 みんなの変わらない挨拶に対する取り組みを見て、お客様が徐々に心を開くという話をする必要があると思った。

「皆さんも、これまで挨拶をしたことがない近所の人からいきなり挨拶をされたら、びっくりしますよね。 自分以外に人がいたら、その人に対しての挨拶かもしれないと考えるかもしれません。 そうなると挨拶を返せなかったり、急いでいればそのままスルーするかもしれかせん。 そうではないですか?」
 2,3人のスタッフが頷いた。

「でも、その人が会うたびに挨拶をしてくれると、みなさんの頭の中に『この人は挨拶をする人』という認識が出来上がりますよね。 その人がおかしな身なりをしていれば別ですけど、きちっとした身なりで、感じが良ければ挨拶を返そうと思いますよね。
『この人は毎回挨拶をする』という安心感があれば、こちらから先に挨拶をしたりするようになることもあるでしょう。 ここまでくるとあなたにとってその人は、ただの近所の人から少し親近感のランクが上がると思います」
 そう言いながら、スタッフの顔を一人ひとり見て、翔太は理解度を確認していく。

「この安心感が作られるまでに時間がかかります。
 この時大切なのが、挨拶の漏れを無くすことです。 先ほどの近所の例で言えば、挨拶をしたけれど、翌日は挨拶をされなかったとしたらどう思いますか? 挨拶をしようと思いますか?しいて挨拶をする必要はないと思いますよね。 つまり、必ず毎回挨拶をしないと、安心感はできないと言うことです。 だから、全員が頑張って挨拶をしないと、個人に対する安心感はできたとしても、ホールの安心感はでてきません。 よろしいですか?この挨拶運動は、チームプレーと思ってください。いいですね」
 スタッフ全員が頷いた。

 そして、アムステルダム大学の心理学者の実験で、笑顔の挨拶に対して笑顔で挨拶を返す人は約65%という話をした。 逆に笑顔を返さない人は35%にもなる。だから、自分が笑顔の挨拶をして、笑顔を返さない人は自分に敵対しているのではなく、 それも普通なので落ち込む必要がないという話をした。

「ごめんね。時間をとっちゃったね。吉村主任、最高の笑顔の作り方の話はした?」
「有名ラーメン店の社長の『お客様を見たら、自分が好きな彼女のお父さんやお母さんが来たと思え』という話ですよね。これからです」
「了解、後はよろしくお願いします」
 そういうと翔太は念のためにホールの見回りをした。 見回りをしながら、明日は自分が挨拶をしないといけないので、割り箸を加えて笑顔の練習でもしておくかなどと考えていた。

 事務所に戻った翔太は、ジャック大滝店に電話をした。 電話に出てきた主任に遊技機勉強会の様子を聞き、田所店長が出勤したら連絡をもらえるように手配した。 次に、山崎部長に電話をし、作業効率化のために遊技機情報の交換を定期的にできる仕組みを作りたいので検討してほしいと伝えた。 その後、尾田主任に大滝店の遊技機勉強会の状況を伝え、同時に設備アンケートに絡むので、 11時に見積りを持ってくるリニューアル業者との打合せに同席するように言った。

◇◇◇

「明日葉リーダー、お疲れ様」
 寺島明日葉がスタッフ休憩室にいると横井リーダーが入ってきた。
「今週は、店長結構ホールにいるよね」
「会員募集の状況を見るためでしょう」
 明日葉は答えた。
「副店長は会員担当者を外されたみたいだけど、大丈夫なのかなぁ?」
「何がです?」
「副店長と店長、あまり気が合ってないようだけど」
「そんなことないと思いますけど」
「そうかな?店長が無理な会員募集を副店長に無理強いして反発されたと聞いてるけど」
「横井リーダーも1年で1000枚DMを送るのは不可能と思ってるんですか?」
「ほんのちょっとね」
 横井リーダーは苦笑いをした。
「それより、横井リーダーは店長から指示された、会員募集時のスタッフの観察はできているんですか? 来週の月曜に店長がリーダーを集めての打合せをしますよ?」
「聞いてるよ」
「ならいいですけど」そういうと休憩時間が終わった明日葉は出ていった。

◇◇◇ 認知症講座と信用

 翔太は車を浅沼店に置いて、星野店長の車に乗り換えた。
「調べましたが、この市も地域包括支援センターが、認知症サポーターキャラバンの推進をしています。 ここでこの地域の活動状況を聞き、場合によってはサポーター研修会に主任かリーダーでも参加させると良いと思います」
「サポーター研修会?」
「地域によって違いはありますが、市町村持ち回りで研修会をしています。それに参加するのもいいかもしれません」
「参加ねぇ」
 星野店長は人が足りていない中で、わざわざそんなことをする必要があるのか?どうせホールで認知症の勉強会をするのだから、二度手間ではないかと思った。

「大滝店では、最初そうしました。 認知症サポーターについて知らなかったので、知識を得るためと、講師を派遣してもらうために、 認知症に対して、真面目に取り組んでいるという印象を与えるためにです」
「真面目に取り組む?」
「大滝店では、地域との共生ということで、地域交流の目的もあって、店内だけでなく、 地域の人にも呼びかけて、ホールで認知症講座を開催しようと思ってましたから」
「そうなんだ」
「普通に考えて、パチンコ店がいきなり公開講座したいと言ったら、役所の人はどういう反応をすると思いますか?」
「意味が分からないだろうね」
「そうです。何で?と思いますよ。 何か新手の集客手段を考えた、と勘ぐられるかもしれません。 だから、そうではないことを、積極的に示す必要があります」
「それが講習会参加ね」

 星野店長は納得した。確かに関根店長が言うように、行政に行っていきなり、認知症講座をやりたいと言えば、うさん臭く見られる可能性は高い。 いくら良いことをすると言っても、誰もが無条件に信じてくれるわけではない。 世間がパチンコ店に持っているイメージは良いものではない。 イメージが悪い奴が、良いことをしますと言ってきても、俺でも信用しない。 ということは、関根店長がいうようにイメージを変える活動という布石がいるというのは当然か。
 星野店長は、小泉社長がパチンコ業界のイメージを変えたい、と昔から言っていたことが少し理解できたような気がした。

「大滝店では、事前に認知症の社内勉強会を開いたりしていました」
「なるほどね」
「今は、大滝店や大安寺店の実績がありますから、信用してもらいやすいと思います。 実際、先だって久米坂店周辺を管轄している支援センターに、相談に行きましたが、大滝店の話をして、 今回、久米坂店でも取り組むことになりましたと言ったら、ぜんぜん好意的になって、話が出来ました」
「分かった」
「この市の支援センターにどんな人がいるか分かりませんが、疑っているようでしたら、 先ほど言った市町村主催の研修に、誰か役職者を参加させるということすれば、協力的になってくれると思いますよ」
 話しているうちに市役所の駐車場についた。
 支援センターの人は二人を好意的に迎えてくれたが、こちらもそれに応えるということで、 星野店長は春日主任を研修に参加させることにした。

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