本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇チェックが推進力(6月3週目の進捗確認)

 翔太はいつもの事務所のミーティングテーブルに主任以上を集めた。 今回オブザーバーとして、浅沼店の宝田主任が来ている。

「それでまず進捗報告からいきます。西谷主任、何かありますか?」
「クリンリネスは、保たれていますし、ニュースレターに対するクレームなどもはっせいしていません。 掃除の範囲を40mしたことによるスタッフの負担もたいしたことはありません」
「他に報告することはありませんか?」
「そう言えば、掃除ということで、お客様の中に町内会の副会長がいらっしゃって、スタッフが掃除について、『ご苦労様』って声を掛けられました。 ちょうど私がその話を聞いたので、そのお客様にご挨拶に行くと、近々町内会で公園の掃除のボランティアをするので、参加しないかと誘われました」
「『ご苦労様』と声を掛けられたの知っていたけど、西谷主任はその後の対応をしてくれたんだ。良いね。そういう行動が大切なんだ」
「今朝のことなのでまだ報告はしていませんが、日報には書いておきました」
「それで?」

「うちのホールは地域密着店という趣旨からすると参加した方が良いと思ったので、まずは個人的に参加してみようと思ったのですが、いかがでしょうか?」
「それは良い判断と思うよ。地域との関係を深める貴重な一歩になります。是非、参加してください」
「おそらく、2時間ぐらいホールを抜けることになりますが、大丈夫でしょうか?」
「シフト上で問題がなければOKです。また報告をしてください」
「ありがとう、ございます。以上です」

 掃除という切り口で、地域とのつながりが出来るのは悪くない。 地域密着という言葉が、ただのスローガンでないことを、地元の人達に分かってもらうチャンスになる。 そうして交流の中で、ホールの活動をPRしてくれれば、これから行うコミュニティ立ち上げに寄与してくれる。 西谷主任が自ら判断してくれたことが、翔太は嬉しかった。

「西谷主任。一つお願いがあるんだけど」
 翔太は西谷主任を見ながら声をかけた。
「なんでしょうか」
「コミュニティホールの十分条件の③番目の努力を伝える仕組みを、西谷主任に担当してもらいたいんだ」
「はい。・・・???」
 西谷主任は急なことで、何をすればいいのか戸惑っている。
「西谷主任は、クリンリネスを熱心に指導し、スタッフも頑張っている。 だから西谷主任が一番適任と思っているんだ。 実は、その様子をお客様にそれとなく伝えて欲しい。 もちろん、他の役職者やスタッフの頑張りもだ。 具体的には、私のニュースレターと連動するから、その都度何を伝えるべきか打合せていこう」
「わかりました」西谷主任は神妙に頷いた。

「そのためにまず、みんながどんな努力をしているのか観察し、努力を記録していってほしい。 写真や動画もとっておくといざというときに、役に立つからそれもお願いしておきます。 とりあえず社内でお客様に報告できそうな活動をピックアップしてください。 それが出来たら、打合せを個別にしましょう。いつまでにできそうですか?」
 西谷主任は、壁に掛けてあるカレンダーを見ながら答えた。
「明後日の午前中にはできると思います」
「了解です。明後日の午後一番に打合せをしょう」
 翔太はスマホに予定を打ち込んだ。  

「それでは、吉村主任、お願いします」
 翔太はまた本来の進捗チェックに戻った。
 吉村主任は、接客のスキルアップに対する取り組みが一段落したこと。 それに伴い、役職者の接客に関する品質管理を徹底するために、能力一覧表と同じ形式で、 役職者それぞれがスタッフのスキルをチェックし、定期的にすり合わせる予定であると報告した。
「吉村主任も頑張ってますねぇ」
 そう言って翔太はニコッと笑った。
「では、すり合わせ結果については、また報告をお願いします」

 続いて吉村主任は、挨拶運動の状況について報告した。 20分の挨拶の後にホールを回る方が声もかけやすく、コミュニケーションがとりやすいので、引き続きこのスタイルでいくこと。 効果としては、お客様とのよりはかなり近くなり、短期で知り合いになれる。 便利カード(会員カード)作成のおススメをすると高い確率で話を聞いてもらえる。 問題点としては、フォロー範囲が狭い過ぎること。 そのため、次の段階として、挨拶の時間を30分間に少し時間を延ばしてしてみるなど、 順次改善していく予定であることを報告した。

 さらに普通救命の講習会のポスターが完成して、一般向けに参加募集をすること。 タウンメールの配布手配や駅でのポスター掲示の段取りをしているという報告をした。
「吉村主任、駅のポスターはチェックがうるさいから、段取りは早めにしておいた方が良いと思うよ。 昔、貼り出し審査に1か月ぐらいかかったことがあったからね」
「了解しました。最後に、総付け商品のお菓子ですが、とりあえずすべて配り終えました。 スタッフの笑顔はできていたと思います。 それに初めての感謝メッセージでもあり、数人の常連のお客様からはプラスの反応をいただきました。 以上で報告を終わります」
 翔太は笑顔で頷いた。翔太は接客のスキルアップが、挨拶に活かされ、総付け商品に活かされたと感じた。 そして、そのことがお客様からの好反応を引き出している。 少しではあるが、コミュニティホール化が進んでいる。

「それでは尾田主任、お願いします」
 尾田主任は、まず『感謝カード』の取り組み状況を説明した。 次に遊技機勉強会の資料を作ったこと、そしてこんどの店休日に1時間ほど第1回の遊技機勉強会を始める予定にしていることを報告。 また、吉村主任が普通救命の講習ポスターの貼り出しに合わせて、 これまでの取り組みの理解とスタッフの名前を覚えてもらうために、 すでに普通救命を受講しているスタッフの顔写真とお客様メッセージを貼り出す予定にしていると説明した。

「さすが、尾田主任は先手を打った段取りをしているね」翔太は賞賛した。
 翔太は、受講しているスタッフの写真貼り出しは、 コミュニティホールの十分条件②(名前えお覚えてもらう)と十分条件③(努力をしってもらう)が絡むので、 原案を西谷主任にも見せて、努力の観点からも満足するものにして欲しいと要望した。

 毎週進捗チェックをするのは、時間も取られるし、面倒くさい。 しかし、これがあるからみんなが頑張れることを翔太は知っている。 年内にコミュニティホール化をしてしまうためには、この推進の仕組みを崩すわけにはいかない。 小さくPDCAを回してこそ、急な坂を上ることができる。

 最後に翔太は、会員入会の取り組み状況の報告をして終わった。 横にいた森川副店長はほとんど発言をすることなく、席を温めていた。

 

◇◇ スタッフ研修(第2回目、6月)

 翔太は月の後半の入替の前日に店休日をあえてとり、スタッフ研修をしている。 小泉社長や山崎部長からもそこまでする必要なないのではないかと言われたが、 翔太は短期間で成果を出したいので、店休日を設けることを押し通した。
 そして、スタッフに対しては、店休日の存在を、コミュニティに会社が本気で取り組んでいる証と位置付けている。

 翔太も最初はどうすべきか悩んだ。 単純に平日1日休むと100万円以上の機会損失を出したことになる。 でもこれは、他の日の利益をわずか4万円上乗せすれば、十分解消できる。
 目先のこと囚われて、将来の布石を打たないことが、もっと大切な機会損失をもたらすことは、 コンサルタントの北条真由美からくどいほど聞かされている。 だから今回は、社長の姪である北条真由美の言葉を引用し、小泉社長には納得してもらった。

 何と言ってもコミュニティ化を進めていく要は、スタッフの質にかかっている。

 ザ・リッツ・カールトンのようなホテルに、ビジネスホテルの10倍近くの大金を払って泊まるのは、 設備が10倍も素晴らしいからではない。 そこのスタッフの対応が格段に素晴らしいからに他ならない。

 そう考えると、このジャック久米坂店に遊びに来て、また来たいと思ってもらうのは、 スタッフの魅力をかなりアップしておかないといけない。

 それではスタッフの魅力とは何かと言えば、お客様に対して一生懸命に向き合う心の姿勢だと翔太は考えている。 これを育てたい。
 そのためには内部の人間関係や体制をしっかりする必要がある。 これがごたごたしていては、そんな心が育つはずはない。

 そこでまず、スタッフ同士の仲を良くして、 次にお客様に対する感謝の気持ちを醸成して、お客様に対する使命感を養う必要があると考えている。
 そして、それを人間の基本的な欲求である自己能力の向上欲求に結びつけて、 接客サービスを行い、高い達成感を味合わせたいと思っている。

 つまり、お客様に対して感謝の気持ちと使命感から高いレベルのサービスを意識させ、 それを本人たちの能力をアップさせることで達成し、仕事に対するやりがいをつくり出していこうと翔太は考えていた。

 その根底には前の大滝店で体験したお客様との信頼関係がベースとなっている。 信じてお客様に尽くすことがいかに大切か、翔太は一人のおばあちゃんから学んだことを活かしたかった。

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