◇スタッフ研修の内容
「それでは第2回目のスタッフ研修を始めます。それは5人ずつのグループになってもらえますか」 そう言って翔太はスタッフに5人のグループを5組作った。 そして、役職者を各グループに一人ずつ加えた。
「本日は、『ホン?とウソ?』というコミュニケーション・ゲームをしてもらいます。
今から自分についての文章を4つ作ってください。
その中で1つだけ嘘の文章にしてください。
そして、順番に4つの文章を発表し、他の方は発表されたどの文章が嘘かを当てるゲームです。
それでは、今から10分間で文章を4つ作成してください」
ホールスタッフ同士、会話をしていると言っても、十分に情報交換ができている分けではない。
親しさのレベルは、スタッフに別のスタッフの個人的なことを聞けばすぐに分かる。
親しければ、親と同居しているとか、何が好きとかは知っている。
そうでなければ、個人的な情報は出てこない。
逆に個人情報の共有量が多ければ、親しさが増してくる。
こういうゲームを通してスタッフの情報共有量を増やし、まず、仲間意識を醸成させることが、ホールのコミュニティを作り上げるベースとなる。
ゲームで和んだ後は、文章を読ませる。
今回は、『おばあさんのテーブル』とう題のショートストーリー。
『主人の母親が年をとり、目が不自由になり、ご飯をこぼすので、
腹を立てた嫁がおばあさん専用のミニテーブルを食堂の隅につくり、そこでご飯をひとり食べさせるというお話。
嫁はテーブルが汚れなくなって喜んでいるが、ある日まだ幼い自分の娘がままごと遊びをしている中で、
小さなテーブルを作って部屋の端においているのを目撃する。
嫁が娘に何をしているのかと聞くと、自分が大きくなったときに使う、お母さん専用のテーブルを作っていると聞かされ、
自分が主人の母親にしたことの意味に気づき、愕然とする』
という内容だ。
相手の立場に立つようにと、口で何回もいうよりも、優れた文章は多くの気づきを与えてくれる。 こういう文章を共有して、ディスカッションをし、思考を深めていくことで、同じ感情パターンが持ちやすくなる。 同じ感情パターンを持つということは、一つの出来事に対して問題意識を共有することができ、助け合うことができる。
この後は、前回の復習を兼ねて時間を決めて『感謝カード』を書いてもらい、その後で、スタッフが書いた『感謝カード』の中で優秀なものを紹介した。 そして注意事項として、「助かります、ありがとう』のような抽象度の高いものは、相手は何を感謝されているのかわからないので、書かないように伝えた。
そして研修の最後に、コミュニティホールの意義と自分たちの使命の確認をし、そのために何ができるのかをディスカッションさせた。
今回は、来月予定している普通救命講座について。
今のところ、翔太が教えるのが主でディスカッションの時間は少ないが、徐々にその割合を多くしていく予定にしている。
実際にアルバイトスタッフと話をしていると面白く、2時間はアッという間に終わってしまう。
翔太は研修で話をするたびに思うことがある。 アルバイトのサービスやマインドに対する意識は決して低くない。 彼らは東京ディズニーランドに行ったりして、良いサービスを体験しているし、世の中全体のサービスレベルは上がっており、それを体験している。 役職者も危機感をもって、自らのサービスマインドを高めないとアルバイトスタッフの指導が難しくなる。 そういう意味で、この研修を役職者も一緒に受けさせることは、意味があると翔太は確信していた。
「それでは、今ら15分間の休憩とします。この後は遊技機の基本的な勉強をしてもらいます。
時間は1時間です。資料は配布しますが、筆記用具は忘れないでください。解散」
遊技機勉強会の講師をする尾田主任が大きな声で、みんなに伝えた。
参考資料:コミュニティホールのベース
:スタッフ育成研修
◇パチンコの基本&遊技機勉強会
結局、遊技機勉強会は、1時間半まで伸びた。
遊技機についての名称や簡単なトラブルの対処法については、慣れてくるが、アルバイトにきっちり一から教えたことはなかった。
そのために、遊技機について勝手な思い込みをしているアルバイトスタッフも多かった。
遊技機の名称や基本的な性能。玉が1分間に100発の速さで打ち出されるなども、知らないスタッフがいた。
そして、遊技台の319分の1という確率が何を意味しているのか。毎回の大当り抽選の意味とは何かを説明した。 319回スタートを回して当たらない理由や、319回スタートを回した時の大当たり体験確率がどれくらいになるか、グラフなどを使って説明した。 完全に理解はできていなくても、お客様から「319回、回したけど、なぜ当たらない」と言われた時に、焦らず対応できるだけの知識を与えた。
そして、大当りの継続率90%とか70%の意味合いをその場で計算させて、お客様が感じる大当り継続イメージと実際の大当り継続体験とのギャップを意識させた。
最後に1000円当りのスタート回数を多くするのと、お客様の投資意欲を上げることのどちらが大当り体験確率を上げることが出来るのかを、計算させてみた。
そして、お客様に大当り体験をしてほしいと思えば、投資金額をアップさせることが大切であると教えた。
投資金額を上げる方法は、スタート回数がメインではなく、そのホールの信用やスタッフの関係力が重要であることを、全国データなどの数値を使って説明した。
専門的な話や数学の確率論もあり、多くのスタッフは戸惑っていたが、逆にパチンコはいかがわしいものではなく、確率論をベースとしたゲームであることを理解してくれた。
また、TSと呼ばれる大当りの出やすさに波があり、これをうまく予測できれば、投資が少なくて大当り体験ができ、
そうでなければ負け確率が高まることも、なんとなくではあるが、スタッフに理解させることができた。
最後に、『遠隔』と言われるものは、実際にはないこと。法律による取り締まりとそれを犯すことのリスクの話をした。 そして、自分の働いている店に対して、100%の信頼をまず自分たちが持つことを強調して、遊技機研修は終わった。
翔太は尾田主任から実施直後に状況報告を受けた。
尾田主任は一通り説明したので、アルバイトスタッフのパチンコに対する理解はかなり進んだというように考えている。
それはそうだと思うが、さらに進めてパチンコ業界の健全性、少なくともうちの会社に対しては、絶対の信頼を持ってもらいたいと考えている。
そして、パチンコという娯楽に安心感を持ってもらいたい。
それができて、自信をもってこのホールのコミュニティへの参加を呼びかけることができる。
翔太は、尾田主任にねぎらいの言葉をかけ、自分の想いを伝えた。 そして、今回説明した基本知識は今後も繰り返し勉強会の中に取り入れ、スタッフの中で当たり前になるまで行うように依頼をした。