本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 7月1日の朝礼(カード切り替え初日)

 その日は朝から良く晴れていた。
「おはようございます。7月1日の朝礼を始めます」
 岡田リーダーの掛け声で、朝礼が始まった。唱和、今月の目標。現在進行しているプロジェクトの確認。 そして、最後にカード切り替えの伝達事項が報告された。

「今日からは、『会員カード』という言葉は使用しないでください。 『便利カード』という言葉に切り替えます。昨日の晩に『会員カード』と書かれたポスター等は貼り換えて、今は『便利カード』となっています」
 スタッフはみんな真剣に聞いている。
「カード切り替えの目的は、一つはお客様からの情報収集です。 十分時間をとって、このカード切り替え用紙を記入してください。
 その時にDM送付は4種類に分けているので、最低でも重要情報の送付は、“要”にしてもらうように積極的に誘導してくださいね。 その間、他の人はフォローをお願いします」
「ハイ」

「2つめの目的は、お客様との関係づくりです。 すでに親しい人もいると思いますが、そういう人をひとりでも多く増やしてください。
 イメージ的に言えば、気軽に頻繁に声を掛けることができる関係を目指してください。 入店の時の挨拶はもちろんですが、台を打たれていていても、『調子はどうですか?』と声を気軽にかけられる関係です。
 そのために、なるべくお客様の顔と名前を覚えるようにしてください。 そして、このホールが目指している地域のコミュニティ的存在になるという話を、カードを切り替える時にしてください。 ただの切り替え作業だけで終わり、というようなことが無いようにしてください。
 ロープレでのシミュレーションでは、10分弱の時間がかかります。 記入開始時間と記入終了時間を切り替え用紙に書くようになっていますので、必ず書いて下さい」
 岡田リーダーは、スタッフの顔を見た。
「ハイ」

「切り替え時の話題作りとしては、地域の写真コンテストをして、地域の良さの再発見に取り組んでいるとか、私を応援してくださいとか、話をしてください。 お客様の一押し風景を訊くのも良いかもしれません。
 但し、お客様があまり会話を嫌がっているのに、無理にするようなことは止めてください。 あくまでも、One-to-Oneが基本です。相手に合わせて、対応を変えてください」
「ハイ」

「それから、カウンターの方も新しいカードが出されたら、カード切り替えのご協力に感謝の声掛けをしてください。 また、その方がお帰りになられるときに、インカムで担当者に連絡してください。 連絡を受けた担当者は、なるべくお客様のお見送りをしてください。
 それらか、お客様が古いカードでしたら、カードの切り替えをおススメしてください。 OKをもらえたら、打合せ通り、インカムで連絡し、連携を取ってください。 必要なら、主任や店長も切り替え作業を行います。遠慮しないで呼び出してください」

「あの~すみません。どうやって担当者が分かるんですか?」アルバイトスタッフが手を上げた。
「あえての質問、ありがとうございます。 この間の勉強会で説明したように、カードを渡すときに、自分の名前と日付けを、このポストイットに書いて、カードに張り付けるのでわかります。」
「すみません。思い出しました。ありがとうございます」
「それから、カード切り替え中の人がいない場合、お客様に対してカード切り替えのアナウンスを依頼しますので、対応をお願いします。以上です」
 その後、西谷主任と吉村主任が気になった点を簡単に発表した。

 最後に翔太が一言挨拶をした。
「みなさん。改めておはようございます」
「おはようございます」
「今日からカード切り替えは、店舗にとって非常に重要な意味を持っています。 常連のお客様との信頼関係づくりの大きな一歩だからです。 コミュニティ作りの基礎工事です。
 同時にみなさんから見ると、知り合いを増やすことで、働きやすい楽しい職場を作る活動でもあります。みなさん一緒に頑張りましょう」
 翔太は店舗のオープンを確認すると、店長会議のために、ホールを後にした。店内では会員カードの切り替え作業が盛んに行われていた。

 

◇◇◇ 久米坂店の進捗報告

 翔太は本社に来ている。店長会議を終えて、山崎部長と本部の隅にあるミーティングテーブルで話をしていた。 小泉社長は高坂部長と会議後も引き続いて打合せをしている。 おそらく本町店の競合店対策の話であることは間違いない。 デルジャン店が閉店しているので、ジャック本町店は稼働が上昇している。 しかし、地域一番店のマルナム本町店も同じように稼働が上がっており、稼働の上げ幅が若干多い。

 店長会議の報告の中で本町店の川田店長は、利益を取ろうとするとすぐに稼働に影響がでるので、予定より資金の確保が遅れているという報告をしていた。 地域一番のマルナムも同じように回収モードに入っているので、 パチンコユーザーからみるとジャック本町店が、極端な回収をしているという印象は与えてないとは思われるが、 お客様の粘りがなくなっているのは、確かなようである。
 最近、メーカーから良い台が出ないこともあり、新台に対するパチンコユーザーの反応も弱くなっているのも影響していると考えられる。

「山崎部長、デルジャン本町店のオープン時期は分かったんですか?」
 翔太は山崎部長に尋ねた。
「おそらく、今月の20日過ぎぐらいと聞いている」
「そうですか、いよいよですね」
「高坂部長も、正念場だから、力が入っていると思うよ」
「そうですね。ところで頓挫している新店の方はどうですか?」
「今月末から住民代表と話し合いが始まる」
「うまく行くといいですね」
「おそらく、私たちがやっているコミュニティ型のホールについて理解してもらうために、 大滝店か大安寺店、久米坂店が順調なら、久米坂店もいいかもしれない。 住民の代表を案内することになるかもしれない」
「分かりました」
 翔太は時計を見た。会議が終わって1時間以上なるのに社長はまだ会議室にいる。

 翔太は小泉社長を待つ間、山崎部長に現在の久米坂店の状況を報告し、店舗の改装を視野に入れた7月、8月の計画を説明することにした。
「4、5、6月と体質改善は進んでいます。以前のような出玉や新台入れ替えに頼る営業は、一切やっていません。 そのために出玉目当てのお客様は離れていきました。 逆に各主任たちが主導している地道な関係づくり活動で、定着化する人が出てきています」
 翔太は、会員の来店人数、再来店人数、復活会員人数などをグラフ化した報告書で、久米坂店の状況を説明した。
「そして、6か月以上継続して来店している会員が5月で下げ止まり、6月末では若干増えています。 その上位リストを見ると、投資金額が多く、あまり勝てていない人が結構います。 それに引きかえ最近離反していった会員は、大勝している人が多く、投資金額の低い人が多いのが特徴です」
「つまり、不良客がいなくなって、優良客が増えてきているということか」
「そうです、大滝店と同じ兆候が少しですが出てきています。 現在のコミュニティ化施策を進めていけば、利益と稼働は徐々に上がってくる可能性が出てきました」
「なるほど」山崎部長は頷いた。

「そこで、前から言ってました改装を予定通り8月に実行しようと思っています」
「そうだね。で、計画は今日持ってきたの?」
「はい、小泉社長と部長に詳しくご説明しようと思っていたのですが、・・・」
「もしかしたら、社長は時間がとれないかもしれないから、俺が代わりに説明を聞いておくよ。 以前話していた構想と大きなずれはないんだろう?」
「ありません」
「それじゃ問題ないと思うよ。森川副店長にも見せた?」
「ええ、見せました」
「何か言ってた?」
「この計画自体が疑わしいというような顔をしていました」
「そうだろうな。それじゃとりあえず説明をしてくれるか」
 翔太は、明日の店舗会議で説明する予定にしている『稼働改善行動計画書』を山崎部長に渡し、ポイントを説明した。

「コミュニティ構想が徐々に具体化してきてるね」
 山崎部長は計画書に目を通しながら呟いた。
「何か問題があるでしょうか?」
「流れとしてはこれで良いと思うよ。会員カードの切り替えは布石として良いアイデアだと思うけど、スタッフはバタバタだな」
「現在、立て直しのために、いろいろな手が打てるように、スタッフを少し多めにしています。この体制で乗り切れると思っています」
「そうだな。お客様とのコミュニケーションを増やし、関係づくりをするためには、まずはスタッフの人数はいるからな」
 そう言いながら山崎部長は、気になるポイントを確認のため翔太にいくつか質問をした。

 翔太が一通り答えると、山崎部長は顔をあげた。 
「ところで、これらの施策は、翔太が一人で考えているのか?」
「そうではありません。主任たちが、積極的にコミュニティ化について、提案してくれるので助かっています。 彼らのアイデアを、上手くコミュニティに結びつけ、稼働を上げるのが、今の私の役割と思っています」
「それはいいね。だけど、企画の中にもう少し地元の人を巻き込んだものが欲しいな」
「そうですね。農家の方と連携して朝市なんかをやりたいんですけど。 今、西谷主任がだいぶ農家の方と親しくなっているみたいなので、後一息というところですね」
「なるほどね。後アドバイスをするとすれば、この『豆の木パン工房』のオーナーの活用。 商店主仲間を紹介してもらうのもいいかもしれないよ。 それとスタッフの地元とのつながりを、もう一度当たってみるのもいいかもしれない」
「ありがとうございます。もう少し工夫をしてみます」
 そう言いうと、翔太はニッコリとほほ笑んだ。

 翔太が腕時計を見ると、7時近くを指してしる。しかし、小泉社長が現れる気配がない。
「小泉社長は遅いですね」
 山崎部長が壁の時計を確認した。
「もう、7時か、日を改めて社長には報告に来た方が良いね」
「そうします」
「今日聞いたことは、一応社長には報告しておくよ」
「ありがとうございます」
 翔太は本社から久米坂店へと移動した。久米坂店に着いたときには、8時半を過ぎていた。

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