本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ カード切り替えのネックを考える

 翔太が事務所に戻ると、ミーティングテーブルでリーダーの岡田と明日葉が話をしていた。
「ご苦労さん。何のミーティング?」
「店長、実は、カードの切り替えがうまく行かなくて・・・」
 岡田リーダーが答えた。
「明日葉がカード切り替えの様子を見ていて、会話が短いんじゃないかって。調べてみたら、こんな感じです」
 岡田リーダーは作ったばかりの会話時間を、まとめた表をグラフ化したものを翔太に見せた。 その時、森川副店長も事務所に入ってきたので、ミーティングに加わった。
「今朝から夕方7時までのカード切り替え申込書を集計したものです。 86枚ありますが、記入時間が3分未満のものが40%あります。 3から5分以内のものが30%。6分以上のものが30%です。 この3分未満のものは、たぶん切り替え作業だけになっていて、会話が出来ていないと思います」
「なるほど」
 翔太は、記入されたカード切り替え申込書をパラパラとめくった。

「人による特徴はない?」
「あります。この坂下と北原、それに池端は、すべて3分未満です」
 明日葉リーダーが答えた。
「それで?」
「彼らには、私と岡田リーダーがもう一度趣旨を説明し、スタッフ休憩室で簡単なロープレを行いました。 その後で、会話を6分以上しているスタッフに同席させ、流れを実際に見させています。」
「それで改善したの?」
「いま、横井リーダーが、その3人のカード切り替え作業には立ち会って、改善されたか確認しています」
「北原については、さっき横井リーダーから頼まれて、俺が確認した。 大丈夫、7、8分ぐらい話をしていたよ」と森川副店長が答えた。
「ありがとございます」
 岡田リーダーが軽く頭を下げた。

「では、同じスタッフでも3分未満の場合があるけど、これは?」
 翔太は話を進めた。
「本人に訊いてみました。相手の都合が半分。 後はホール内での聞き取りができにくくて、会話が続かず、とりあえず終わったらしいです」
 明日葉リーダーが答えた。
「ホールの“音”の問題か」
 翔太はこのままではマズイと思った。せっかくの常連客との関係づくりを再構築するチャンスを逃してしまう。 ここでつまずくと、この後のリニューアルに響く。

「店長、ここで提案なんですけど、明日から2週間ほどお客様の休憩室を、臨時のカード切り替えコーナーにしてはどうかと話してたんですけど。 そうすれば音の問題は防げるし、お客様とのコミュニケーションもとれると思うんです」
 翔太は、岡田リーダーの提案は悪くないと思った。休憩室を利用するお客様には多少迷惑をかけるが、短期であるし、全面を使うわけではない。大丈夫だろと判断した。
「OK。そうしよう。休憩室のレイアウト変更は今晩やるとして、席を離れるお客様の不安を解消する方法を考えておいてくれ」
「店長、すでに考えています」
「わかった。あとは・・・」と言いかけると明日葉が言葉をはさんだ。
「あとは、スタッフへの伝達と、主任への協力依頼ですね」
「主任への依頼は、私の方からしておきます」
 森川副店長がそれに応えた。

「あと気になるところは、DMの不要から要への切り替えだな。 いま申込書をめくったら、まだ不要の人が多いように思うけど」
「それについては、会話時間の次に解決していこうと思っていました。 引き続きスタッフの行動が、目標にしている結果を生むかチェックをしていきます」
 岡田リーダーが毅然と答えた。
 翔太は、リーダーたちが、施策の現場での実行に対して、目的意識を持ち、自分たちの役割と責任をはたそうとしていることが嬉しかった。 コミュニティ推進に明るい光がさしているように思えた。

 

◇◇◇ 7月の月初め店舗会議①(改装計画の発表)

 7月に入ってから天気が良い、6月の大雨がウソのように思える。
 翔太は月初めの店舗会議をいつものように始めた。 本部から山崎部長。浅沼店からは星野店長と宝田主任が参加している。 浅沼店のコミュニティ化は、ここより2か月遅れで進行している。
 今日は来月の改装工事に絡めた計画を発表するので、星野店長にはできるだけ参加するように連絡を入れておいた。 翔太は、定刻通り会議を始めた。
 まず最初に山崎部長に挨拶を兼ねて、グループ店の状況を報告してもらった。 次に店長会議から持ち帰った伝達事項を読み上げた。 引き続き6月の店舗業績の報告を行い、7月の数値目標を確認した。

「今月の計画は、8月と連動したものになっています。2カ月計画と思ってください。ゴールは8月末です」
 そして翔太は、8月の改装効果を最大限に引き出すための最重要事項として、7月の会員カードの切り替えを挙げた。
「6月末に会員カード切り替え用の『便利カード』が3000枚届いています。 申込書も届いています。これは皆さんも知っていると思います。 これを使って、7月の半ばまでに常連客の切り替えを行い、いつも来ていただいているお客様と改めてコミュニケーションをとります。 現在、そうなるようにリーダーが細かく現場をチェックし、指導をしていることは、皆さんもよく知っていると思います」
 主任たちが頷いた。
「申込書で収集した情報を活用し、フォローを行うことで関係づくりをし、私たちも含め、スタッフがお客様一人ひとりと親しくなってもらいます。 そして、これをベースとして、7月の後半から始まる企画への参加を促し、8月の改装オープンへの流れを作ります。 すでにいろいろと協力していただいていますが、引き続きホールに出て、スタッフのフォローをお願いします」 そう言いながら、翔太はみんなの顔を見た。

 翔太は用意したプロジェクターを使って、今回の計画の概要をホワイトボードに映した。
 最初に改装期間は、8月21日から4日間になったことを改めて報告した。 そして、リニューアル・オープンの段取りとスケジュールについて説明をした。
 予定としては、7月の3週目には、8月は改装のために4日間の休みを取ることを掲示する。 そして改装までの1か月を、5期に分け、それぞれ目玉企画を作って、お客様への感謝キャンペーンを行い、 『お客様と一緒に作る地元のコミュニティ店舗』というコンセプトを打ち出す予定であることを告げた。

 まず第1期として、7月第3週末には、感謝をテーマとした総付け商品を配布する。予定としては豆の木パン工房のオリジナルパンを予定している。
 次に第2期として、7月第4週には、3日間のポイント交換会は感謝をテーマとし、品揃えはいつもの倍にする。 見に来られたお客様には、販売している健康茶をお試しということで、試飲してもらう。
 その横で、尾田主任から提案のあった写真コンテストを行い、ついでに投票をしてもらう。

 第3期の8月の第1週は、以前やって評判の高かった屋台を呼び、同時にテレビでやっていた面白グッズを4種類、1,2点仕入れる予定にしている。 MHKで紹介されていたものなので、年配の方はテレビで見ている可能性が高い。 そして写真コンテストの結果発表を行い、重ねて来店動機をつくる。
「仕入れが1,2点では少ないのではないのですか?」
 西谷主任が質問した。
「大丈夫、すぐに仕入れる旨を伝えて、実際仕入れを行えば問題ありません。 お客様に次の来店動機を与えることになり、在庫リスクの回避もできて一石二鳥です」
 翔太の答えに西谷主任が頷いた。

 続いて第4期、5期にあたる8月の第2週目と第3週目の集客企画を説明した。 企画内容は、ワゴンサービスの設備が新しくなるので、これを利用する。 新しい設備は、ただのコーヒーだけでなく、カプチーノや抹茶ラテなどもできるようになる。 これをお客様に周知するためとして、感謝キャンペーンに協力してもらう。
 具体的には、第1週に翌週使える抹茶ラテ試飲券。 第2週にはこれも翌週使えるカプチーノ試飲券をホール内で配布する。 翌週の試飲券を配布することで、次週の来店目的を作るというものである。 加えて改装直前の第3週は、さらに総付け景品を配布するというものであった。

 翔太が立てた企画内容は、毎週の企画で集客を行うと同時に、 来られたお客様を次週の企画に誘うことで、お客様を繰り返し誘導し、集客の波を徐々に高めていくという内容であった。 回収営業はしないという演出として、最初の週は少し出玉をするが、すぐにもとに戻す。実際、改装に向けて回収営業は一切しない。
 そして、今のパチンコの稼働を7月末までには16000アウト以上、8月末までには最低でも18000アウトまで徐々に引き上げる。 スロットに関しても、15%の稼働を引き上げるというものであった。
「8月の改装にともなう計画は以上です。何が質問はありますか?」
 質問はやはり回収と出玉計画についてであった。 翔太は大滝店の事例をあげながら、回収や出玉はせずに稼働目標を達成できると説明し、ここで休憩タイムをとった。

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