本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 本町店への陣中見舞い

 久米坂店の副店長である森川敦夫は、古巣のジャック本町店へ遊びに来ている。 この本町店はジャックグループの最大規模店舗であり、ここで頑張り、主任から副店長に昇格した。 ここの川田店長が認め、高坂部長に引き上げてもらった。 そして、昇格と同時にジャック久米坂店へ移動となった。思い出が残る懐かしい店である。

 駐車場を見るといつもより車が多めに止まっている。 競合店のデルジャン本町店が閉まっているので、その影響が出ている。 それは来る途中に見た地域一番店のマルナム本町店も同じで、駐車場には結構車があった。
 店舗の裏に回り、ホール事務所のインターホンを押して中に入ると、事務所には主任2人と川田店長がいた。 ドアロックを解除してくれた与謝野主任が、お久しぶりですと挨拶をしてきた。川田店長は森川副店長に気づき、奥のデスクから、手をあげた。

「お久しぶりです。陣中見舞いを持ってきました」そう言って、お菓子箱を川田店長に差し出した。
「ありがとう。悪いね」
 川田店長はそう言いながら、ワゴンにいつものコーヒーを持ってくるように、出川主任に伝えた。 森川にとっては勝手知ったる店なので、監視モニターやホールコンを覗き込んだ。
「川田店長、準備の方はどうですか」
「ほぼ、予定通りかな。出玉準備の資金も順調に集めているし。 新台も結構入れるよ。高坂部長のお陰で、社長から予定通りの資金はいただけることが決まっている」
 そう言って余裕の顔を見せた。
「高坂部長はよく来られるのですか?」
「二日に一度ぐらいの頻度かな。今日も来られると思うよ」
「そうですか。お会いするのが楽しみですね」

 森川はふと目をやると、柱の横に小さな表で会員獲得の集計表が貼ってあるのに気づいた。
「ホールに人が多いですね。会員獲得はどうですか?」
 森川の言葉に、川田店長は自慢げに答えた。
「デルジャン閉店のお陰だね。先月は37人も新規会員がとれたよ。 普通20名ぐらいだから、結構増えたよね」
 森川は、たった17人増えただけ?と思ったが何も言わなかった。
「ここの会員挿入率は、15%ぐらいでしたよね」
「それは、あまり変わってないよ」
 森川は久米坂店と同じ状況ではないかと思った。 ということは未アプローチのお客様がかなりいることになる。

「そうですね。ローラーとかしてないんですか?」
「やってないよ。そんなことをしても、会員になる人はなっているから、今更なんともしようがないよ。 それにスタッフがぎりぎりで、そこまで手が回らないよ」
 おそらく、今このホールにデルジャンの常連が結構来ている。 それを積極的に取り組むために、会員募集を強化しないといけないのに、せっかくのチャンスを逃しているように森川には思えた。

「スタッフは増やさないんですか?」
「増やさないよ。出玉のための資金作りを最優先にしているから、余計な経費はかけないよ」
「でも店長、先だって接客コンサルタントの先生に、スタッフの接客指導をしてもらいましたよね」
 横でデスクワークをしていた与謝野主任が会話に入ってきた。
「あれは、小泉社長のおススメだからさ。無下にはできないし、接客力を上げるのは悪いことではないしね」
 出玉や新台入替だけではなく、スタッフの育成にも取り組んでいると森川は少し安心した。

「会員の来店人数はどうですか?」
「横這いか、少し増えているんじゃないかな」
 新規会員が増えているのに、“横這い”と聞いて、森川副店長は、日頃、翔太が会員動向の判断材料にしている、 6か月以上継続してきてくれる絆客の動向が気になった。
「ちょっと会員システムを見させてもらっていいですか」
 森川副店長が調べてみると、来店会員数は若干増えているが、絆客は逆に減っている。 おそらく、いまホールは回収モードに入っているので、それを嫌って、競合店を回遊しているのではないかと思った。 リストを出して個別にみると月に20日以上来店するお客様が、何人か抜けていた。
 先月の新規会員をチェックしてみると8割がDM不要になっている。もし、離反した場合、手が打てない。 デルジャンに戻ってしまうと手も足も出ないと感じた。

「川田店長、6ケ月継続しているお客様が減ってましよね」
「そうなの?今、回収モードだから仕方がないかもね。出玉の時にはきっとまた戻ってきてくれるよ」
「それから、新規会員にDM不要が多いですね。8割にもなりますよ」
「最近はDMをいらない人が増えているから、そんなもんさ」
 川田店長は全然問題と感じていない。近くにいた出川主任に話をしても、本当ですか初めて知りましたと問題意識はない。 久米坂店の雰囲気とはまるで違う。森川は何か居心地の悪さを感じた。

 

◇◇◇ 違和感の本質

「川田店長、久しぶりなんで、ちょっとホールを見てきます」
 森川はそう言って事務所を出て、ホールに入った。
 良く知ってるスタッフがいる。知ってるお客様もいる。 軽く挨拶をしながら、ホールを見て歩いた。
 みんな忙しそうに働いている。でも違和感がある。 良く見るとスタッフの接客にバラツキがある。接客5原則が徹底されているわけではない。 研修を受けただけで、フォローをしていない。コールランプがついても、中々対応ができていない。 現場リーダーもホールスタッフも元気がない。少し疲れているように感じた。 もちろん久米坂店と比べてお客様との会話もないし、お客様の笑顔の数が少ない。
 外に出るとたまたまだろうと思うけど、駐車場にゴミが落ちていた。 森川副店長はゴミを拾ってホールのゴミ箱に入れた。事務所に変えると高坂部長がいた。

「部長、お疲れ様です」
「森川、調子はどうだ?店長会議のときに関根店長が、リニューアルの1か月前に告知をすると言ってたけど大丈夫なのか? 8月はせっかくの盆営業という稼ぎ時なのに、客数が減るから大変だよ?」
「一応反対はしたんですけど、・・・大滝店ではうまく行ったとかで、人の意見に耳をかさないんですよね」
「関根店長も頑固なところがあるからな。二匹目のドジョウがいるほどこの世は甘くはないよ」
「そうですよね」と話を聞いていた川田店長が相槌を打った。

「森川副店長、久米坂店の稼働は良くなったの?」
「あまり改善されていません。少し良くはなった程度ですね」
「そうだろう、十分な出玉や新台入替なしに、そう簡単に立て直るわけはないよ」 川田店長が横で頷いている。
「だから今回は周到に準備をしているよ。 デルジャンに対抗して、今月の20日には思い切ってメーカーSの新台とメーカーKの新台、それにバラエティ強化のために中古台を大量に入れるよ。 メーカーSやKの新台は地域最速だから、それなりの集客が見込める。 中古台はお客様のアンケートを基に入れるから間違いないよ。 それに出玉が加わる。だから今のデルジャンの客は掴んで離さない。 デルジャンを喰って、うまく行けば1番店のマルナムを抑えることができる」
 高坂部長は自信タップリに計画の概要をしゃべった。
 それからしばらくメーカーが良い遊技台を出さない。 これはいけると思った遊技台でも、最近のお客さんはすぐ飽きるなどの雑談が続いた。 森川は、高坂部長の話を聞きながら、本当に本町店は地域1番店になれるのだろうか、とだんだん不安に思えてきた。

 森川敦夫は帰りの車の中で考えた。本町店の取り組みと久米坂店の取り組みは何が違うのだろうかと。 単なるコミュニティホールに取り組む、取り組まないというものではないように思えた。
 カーブを曲がり、太陽の光で輝く大きな海が見えたとき、突然ハッと気づいた。
『本町店は、業績の回復は、新台入替と出玉が何とかしてくれると思っている。 それに対して、久米坂店は、自分たちで何とかしないといけないと思っている』
 この違いが危機感の違い、取り組み姿勢の違いになっている。

 しかし、心情的には本町店に成功して欲しいと、森川は思うのであった。

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