本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 総付け企画のブラッシュアップ

 最後にパン工房の話となった。
「現在、豆の木パン工房さんの紹介ポスターを貼り、定期的にビデオ映像を流しています。 21日のパンの無料配布も伝えています。
 今回は先方にも販促だから納得いただいて、ほぼ原価で仕入れさせてもらっています。
 21日の段取りですが、パンは焼き立てが美味しいので、焼きあがると連絡があり、取りに行くことになっています。 最初は10時半に配る予定です。次が13時、15時半、17時、19時の5回です」
 そう言って吉村主任は携帯で連絡し、今度総付けで出すパンのサンプルを、会議の人数分事務所から持ってこさせた。 翔太はそれを食べた。確かに美味しい。

「吉村主任。豆の木パン工房の総付けの第一目的は何としていますか?」
「ハイ、今後の地元企業とのコラボレーションを考えると、今回は豆の木パン工房の売上を実質的に底上げすることだと思っています。
 ジャックと組むと売上が上がるとなると、豆の木パン工房のオーナーから、知り合いを紹介してもらえる可能性が高まります。
 また、こちらが面白い店舗や企業を見つけてアプローチするときにも、役に立ちます」
「了解です。私もそう思います。そして私たちの感謝の表現として、良い企業の商品をお客様にお届けすることになります」
 吉村主任は頷いた。
「今の計画で、豆の木パン工房さんの売上は、確実に上がりますか?どうでしょう?」
 翔太はみんなを見た。
「吉村主任の計画を、より確実にする方法やアイデアは何かありますか?参加してる人は聞くだけでなくて、頭を使ってください」

 尾田主任が手を挙げた。
「何でしょう?」
「豆の木パン工房さんは、わかりにくい場所にあるので、大きめの地図を付けたらどうでしょうか」
「パンを配る時に、ミニチラシも配る予定ですが、そこにとりあえず地図はあります」
 そう言って、吉村主任はミニチラシの原案を見せた。キレイにまとまってはいるが、確かに地図の部分は小さくて見にくい。
「吉村主任、このホワイトボードに今のアイデアを書いて下さい」
 吉村主任は、ホワイトボードを自分の後ろに持ってきて、『大きい地図を付ける』と書いた。
「これで十分でしょうか?」翔太は、みんなに向かって問いかけた。

 浅沼店の春日主任が手を挙げた。
「私が発言しても、よろしいでしょうか?」
「どうぞ、メンバーの中で唯一女性なので、女性の視点を生かしてください」
「はい、ありがとうございます。
 パンを買いに行くのは女性がメインになると思うのですが、パンを食べてもらうのは、女性に食べてもらわないと意味がないと思うんですね。 でもホールのお客様の7割以上は男性です。総付けで配っても女性の口に入る実際の数は小さいと思います」
「なるほど、そうですね」
「それでしたら、パンを袋に入れてお持ち帰り用にしてもらうと良いんじゃないかと思うのですが・・・」
 春日主任が自信なさそうに言った。
 吉村主任は、『お持ち帰り用のパン』と書いた。

「お持ち帰り用のパンにして、それにチラシと地図、それに感謝メッセージを封筒に入れてお渡ししたらどうでしょう? 手間はかかりますが、インパクトはあると思います」
「それじゃ、せっかくの出来立ての意味がないんじゃないですか?」と西谷主任が発言した。
 それを聞いて森川副店長が問題ない、と発言した。
「パンは1個60円だから、一人のお客様に2個配っても大丈夫だ。 だから、その場で食べる焼き立てパンと、お持ち帰りパンを用意したらいいんじゃないかな。
 お客様はその場でパンの美味しさ体験していただき、お持ち帰り用は、奥さんや娘さんへのお土産とする。 美味しいパンを食べたご主人が、お土産を渡すときに『出来立ては本当に美味しかった』と言ってくれると、 お持ち帰りパンを食べた奥さんや娘さんも出来立てを食べたくて、豆の木パン工房に行くんじゃないか」
 これを聞いてなるほどと頷いた。吉村主任はホワイトボードに、2種類のパンの用意と書いた。

「パンを食べると口の中の水分が取られ、飲み物が欲しくなるので、ミニコーヒーを安く提供するか、3ポイントぐらいで提供したら喜ばれるのではないでしょうか」
 再び春日主任が発言した。
「わかりました。関根店長、どうでしょう」
「賛成です。ワゴンサービスと協議をしてください」
「了解しました。他に何かありませんか」
 吉村主任はみんなを見渡した。
「無いようでしたら・・・」と吉村主任が終わりかけた。
「それじゃ、ちょっといかな」翔太が手を挙げた。

「はい、店長」
「焼き立てパンと言ってるけど、伝え方を工夫しないと伝わらないよ。
 例えば、豆の木パン工房さんが着ている白い作業服で、ホール内に運んでもらう。 視覚的に分かり易よね。しかし、お客様は台を見ているから気づき難い。
 だったら、匂いだろう。焼き立ての香ばしい匂いをホールの中に持ち込む。 そのために焼けたら本当にすぐに持ってきてもらう。 近くだから可能だろう。 そして、香ばしい匂いがなるべく逃げないようにラップをかけて持ってくる。
 持ってきたら、すぐにカウンター横のワゴンに運ぶんじゃなくて、ワゴンから一番遠い入口から入ってもらって、パンのラップを取り、ホールの中央通路を通って、ゆっくり持ってきてもらう。 そうすると香ばしい匂いで、お客様が振り向く。
 その時、『豆の木パン工房さんのパンが到着しました』とアナウンスが入る。 お腹が減っているときにその演出をやれば、インパクトは大きいんじゃない? インパクトが大きいほど、お客様はそのことを家族に伝えたくなるよ」
 吉村主任はホワイトボードにポイントメモした。

「それからポスターやチラシだけれど、内容は『新しいパン作りに挑戦している努力家』と読めばわかる。内容は面白いけど、タイトルにもう少しインパクトが欲しい。
 最初の掴みだね。
 例えば、『失敗を美味しさに変え続ける努力のパン職人』とかさ。
時間はないけど、最後まで工夫を重ねて仕事のレベルを出来るだけ上げてくださいね」
「了解しました」
 吉村主任は、ホワイトボードを書きながら返事をした。

 最後に翔太は、前日までの新規会員の獲得数と、便利カードへの変更者累計を報告して、進捗会議を終えた。

◇◇◇ 夏祭り

 吉村主任は、森川副店長と夏祭りに来ていた。 この日は朝から日差しが強く、いつものようにラジオ体操をし、太極拳体操をするだけで汗だくとなった。
 二人の目的は、お祭りを楽しむのがメインではなく、お祭りの様子をビデオカメラに撮ることだった。 吉村主任は会社のカメラで撮影し、森川副店長は、自分のビデオカメラを持ってきていた。
 ビデオカメラを二つにしたのは、撮影の変化を付けるためと、もう一つは、祭りに参加している人を、一人でも多く映すためである。

「森川副店長、さっき事務所に電話をしたら、今日はいつものようにホールのお客様は少なかったということです。 おそらく、このお祭りを来ている人が結構いると思います」
「分かった。ビデオの中にお客様を映せばいいんだな」
「そうです。なるべく多く映っている方が、ホールで再生したときに楽しいですよ」

 二人は、メインの大型の神輿を、一緒に別々の方向から撮影をしてから、分かれて祭りの風景を撮影した。
 撮影をしている中で、結構お客様に出会った。お客様の反応も様々で、親しく話かけてくださる人もいれば、無視される人もいる。 森川副店長は着任して2年近くになるので、多くの人から声を掛けられていた。
 今日、遅番やお休みをとっているスタッフとも何人かであった。 女性スタッフの中には小さいお子さんを連れていて、楽しそうに家族と過ごしていた。

 二人は合流し、昼食を済ませた。 そして、総付け商品の最後に打合せをするため、豆の木パン工房へ急いだ。夏の日差しは眩しい。
 吉村主任は運転をしながら話しかけた。
「森川副店長、お祭りは良いですよね」
「そうだね。私も小さい頃は、祭りのときは一日中お祭りに行っていたもんだ。 うちの祭りは盆前なんで、ここのお祭りを見ていると帰りたくなるよね」
「ええ、私も祭りの日は楽しみにしていました。 縁日でイカ焼きやフランクフルトを買ってもらうのが楽しみでした」
「今日の祭りに参加できない人も多いだろうから、帰ったら早速ビデオを編集して、大型モニターで流すとするか」
「たぶん、昼間働いて参加できなかった人は、喜ばれると思いますよ」
 そんな話をしている間に、豆の木パン工房に到着した。

 森川副店長は、地域密着でやる以上は、やはり地域の人が楽しむものを、共に楽しみ、 地域の問題も自分のこととして、共に考えていく必要があるのではないかと、ぼんやりと感じ始めていた。

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