本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 総付けパンの最終打合せ

 二人が行くとオーナーの江崎さんが、人懐っこい笑顔で向けてくれた。最初に会ってから5回目になる。 吉村主任は、いつも会員募集のときに言っていることがある。
 入会したら顔を覚えて、1か月間は何回も積極的に意識して会話をするように。 そうすれば、ある一定の人間関係が築かれて、ある一定の親しさを維持できる。つまり、友達になると。
 現在、便利カード切り替えの際に、関根店長がリーダーに指示し、同じことさせているのを知っている。 関根店長もおそらくコンサルの北条真由美の受け売りだったような気がするが、確かに真理をついている。
 便利カードに切り替え始めてから、ホールの雰囲気はダンダン変化してきている。 うまくいけば、今回の感謝キャンペーンの期間に、変化が体感できるかもしれない。 そんなことをふと思った。

 二人は事務所に通され、いつものように折り畳みの椅子に座った。 最後の打合せということで、確認事項と協議事項が書かれたA4のコピー用紙を渡した。
 吉村主任は、この間の会議の打合せで決まったことを話した。

「いかがでしょうか」
 江崎オーナーはしばらく紙を見て、何やら書き込みをしていたが、それが終わると、できることできないことを言い始めた。
「パンの半分を袋詰めにすることは、可能。この日だけ妹を呼んで、手伝いに来させれば何とかなる。 持ち帰りとなるので、パンは出来立てである必要はないからね。 パンの香りを閉じ込めるために蓋をするのも可能。 これもラップか何かで出来る。
 しかし、配送までとなると、ちょっときついかな」
「そうですか。無理は言えないですよね・・・」と吉村主任が言いかけたのを森川副店長が止めた。

「江崎さん、制服の予備はありますか?」
「あるけど?」
「それを貸していただけませんか?」
「それは構わないけど」
「問題が無ければ、うちのスタッフがパンを取りに来て、そのまま配ったら視覚的なインパクトがあるし、宣伝にもなると思いますよ」
「それはいいですよね。江崎さんどうですか?」
 吉村主任が賛同した。
「よし、それでお願いします」
 それから3人は、パンの個数と配送のため段取りなどの最終確認を行った。

 その時、吉村主任が急に新たな提案を江崎オーナーにした。
「江崎さん、この昼過ぎのパンをもっと甘いパンに変えることできませんか?」
「できないこともないけど?」
「昼過ぎは、当然昼食を食べた人が多くて、パンをその場で食べたいと思うかは疑問です。 甘いパンならデザート感覚で、まだ食べれるんじゃないですか?」
「ということは、袋詰めは変えなくても大丈夫ですよね。その場の試食用ですよね」
 吉村主任は頷いた。
「吉村主任、そういうこと。江崎さんいかがですか?」
 森川副店長が、吉村主任の意図を汲み取り、後押しをした。
「分かった。変更しよう。その代わり原価は15%くらい上がるけど問題ない?」
 吉村主任は、森川副店長を見た。
「大丈夫です」森川副店長は、即答した。

 森川副店長は、打合せをしながら、パンを食べて喜ぶ、自分がよく言葉を交わすお客様の笑顔を思い浮かべていた。 ここ数年は台整備のことしか真剣に考えたことはなく、お客様を様々な角度から笑顔にさせることの楽しさを、忘れていたことに気づいた。

◇◇◇ 3回目スタッフ研修と総付け説明

 翔太はいつものように研修を始めた。 最初のチームビルディングはゲーム要素が強く、みんな和気あいあいとやってくれる。 チーム分けはリーダーの話を聞きながら、翔太がチーム分けをしている。
 やはり、一緒にゲームなどの共同作業をさせると、仲間意識が芽生えてくる。 しかし、特定の仲良しグループが出来ると、それが派閥となり、全体のチームワークを乱す。 ホール業務はチームプレーなので、お互いの強みを出すような関係にならなければ意味がない。 役職者を交えて親しくさせて、みんなをコミュニティホールづくりという目的を共有し合う同志にしていく必要がある。

 現在、朝の店外の掃除、挨拶運動、便利カード切り替えに、会員募集と忙しくなってきている。いずれもお客様との接触があり、お客様との交流が進んでいる。 当然、お褒めの言葉などもいただき、スタッフとしては以前では得られないお客様に対する手ごたえを感じている。
 お客様は誠心誠意ことに当たれば、応えてくれる。 接客の努力の楽しさを知ってもらえれば、これから先、スタッフの心のコップは上を向き、何事にも頑張れる人になるのではないかと研修をしながら、翔太は考えていた。

 後半の共通のマインド作るための読本とディスカッションを終え、感謝カードの書き方で良かったものを取り上げ説明した。 感謝カードは尾田主任が頻繁に目を通して、感謝ノートを基に、スタッフと、時にはリーダーも巻き込んで話をしている。 翔太はそんな使い方もあったのかと感心して、横で聞いていることもあり、大滝店とは違う独自の活用方法が生まれてきているように感じている。

 最後に、翔太は今回の8月改装までの感謝キャンペーンの趣旨を説明し、コミュニティ化による業績改善について話をした。 そして、2日後の総付け商品企画の詳細を説明するために、森川副店長と吉村主任にバトンタッチをした。

 まず森川副店長が挨拶をした。
「お疲れ様です。明後日は総付けをします。
 明後日の総付け商品の配布については、試食をしたうえで、みなさんが呼びかけをしていただいています。 おそらく、試食をした分、みなさんのエンジンがかかり、通常よりもかなり?多くの人が来ます。来られるはずです。来られるんじゃないかと思います」
 スタッフから小さく笑いが漏れた。
「明日は新台入替初日なので、来店する人は多くなります。 その人達にも翌日の総付けの案内をしっかりしてください。 そして、明後日は今までにない集客にしましょう。
 同時にこれも、忘れないでください。 ホールに来ているときが、最大の営業チャンスです。
 翌日の土日の営業につなげ、24日から始まるラジオ体操、太極拳体操の参加者を増やし、皆さんが撮った写真コンテストの参加や景品イベントにつなげていきましょう。
 それでは明後日の段取りを吉村主任から説明してもらいます」

 森川副店長は吉村主任にバトンタッチをした。 吉村主任の説明をスタッフは面白そうに聞いていた。 スタッフの頭の中にも、お客様の喜ぶ顔がイメージできるのだろう。
 翔太はその様子を見ていて、明後日の企画は上手くいくという予感を持った。 そして、なにより森川副店長の取り組み姿勢の変化が嬉しかった。

 この後、昼休憩をはさんで普通救命の講習が始まった。 完全に事前の段取り通りとはいかなかったが、講師の方の自分達対する評価は良く、AEDを抵抗なく使えるように継続的に取り組んでいくという趣旨に、賛同がいただけた。 今後の講習会のめどはとりあえず立った。 最後に記念写真を撮り、参加者全員が握手をして解散とした。
 参加したお客様や地元の方に対しては、主任たちがお見送りをし、感想を聞いたが、概ね良好であった。

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