本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 進捗会議(7月第4週)
            機種客とコンテスト状況・総付け報告

「それでは、尾田主任お願いします」
 尾田主任は、まずアンケートに基づいた中古台の機種入替の評判が、良かったことを報告した。 その理由としては、アンケートに答えられて機種要望を出されて人に対して、わかる範囲でスタッフに案内させたところ、感謝されたこと。 また便利カードの切り替えの際の会話で、久しぶりに来られたお客様から好きな機種が入ったから、今度からこの店舗利用すると2、3人の人から言われたこと。 実際、ホールコンのデータでも、アンケートを基に入れた中古台は、そうでないものに比べて、稼働が高いことを報告した。
 日数は少ないが、会員管理で調べると『機種客』が増えている傾向にあり、特に増台した機種に関しては、機種の取り合いが少なくなったのか、その傾向は強くなったことを付加した。

「さすが、尾田主任です。良く調べてるね」
「ありがとうございます。これも最近新規入会が増えたことと、便利カードの切り替えでお客様のカード挿入意識がアップしたことで、データが増えて助かっています」
「この会議に参加している皆さんには、尾田主任と同じようにデータの活用し、データに基づく報告が出来ることを期待しています。 尾田主任の話を聞いて、調べ方が分からないと感じたら、後で尾田主任に訊いて下さい。自分たちの仕事を数値で検証することは大切なことですから」
 翔太の言葉に参加メンバーは頷いた。
 翔太は報告を聞きながら、機種揃えによる機会損失がある程度解消されたことで、離反客を呼び戻す下準備ができたと思った。 当然、ホールに戻って来た後の継続力もアップするので、稼働の回復がより確実なものになると感じていた。

「尾田主任、引き続きお願いします」
尾田主任は、報告を続けた。 感謝カードの記入が順調に行われていること。写真コンテストの前に立ち止まる人が思っていたほど多くなかったが、 スタッフとお客様との会話のネタにはなっており、スタッフの名前を覚えてもらうことに貢献していると報告した。
 翔太は尾田主任に、写真コンテストのために追加施策を打つかどうか尋ねたが、尾田主任はまだ初日の段階なので、水曜日まで様子を見たいということになった。

「ちなみに、尾田主任の写真コンテストの『成功の基準』は、どのように設定していますか?」
「1週間で延べ300人の投票です」
「延べですか?」
「1日に1回投票の権利があるとしています」
「毎日来る人は、毎日投票の権利が発生しているという設定です。 これで来店回数が増えるとは単純に思っていませんが、その願いを込めています」
「わかりました。写真コンテストの工夫は、随時やってください。 予算のかかる場合は、事前に私に相談してください」
 翔太は、尾田主任が総付け商品配布の成功の影響を受けて、岡田リーダー達と何やら打合せをしているのを知っていたので、任せることにした。

「じゃ、吉村主任お願いします」
 吉村主任がまず報告したのは、豆の木パン工房の報告だった。 お客様から美味しいと好評であり、それにつられてワゴンのコーヒー販売も伸び、特別に用意したミニコーヒーを合わせると倍の売上を記録した。 第一目標としていた豆の木パン工房の売上向上は、翌日からの土日売上が1.5倍以上伸びたことが分かった。 実際は生産が間に合わなかったので、機会損失を起こしているとのことだった。 ホールで景品として仕入れたパンも、土曜、日曜と完売とのことであった。

「昨日、伺ったとき江崎さんはたいへん喜ばれており、オーナーが店長によろしく伝えてくれとのことでした。 また正式にお礼の挨拶に来るそうです。おそらく平日の客入りを見てからということでしょう。好印象なのは間違いありません」
 翔太は、これで豆の木パン工房は繁盛店になるだろうと考えた。 パンの美味しさは焼き立てが一番なので、一定数以上お客様が来るようになれば、絶えず焼き立てパンが並び、評判が上がる。 翔太は、アルバイトの長谷川さんから美味しいけど、お客様が少ない。 オープンの時の宣伝に気づかなかった。 しかし、今は少しづつお客さまは増えている。という話を聞いて、一定の以上のお客様を集めてあげれば、軌道にのるだろうと判断していた。

「これも吉村主任と森川副店長が頑張ってアイデアを出したお陰です。 これでこのホールのファン店舗が一つ出来ました。 これは大きいですよ。二人ともご苦労さまでした」 と翔太は頭を下げ、ニッコリ笑った。
 翔太としては、森川副店長が、成功体験をしてくれたことが最大の収穫だった。

 続いて吉村主任は、朝のラジオ体操と太極拳体操の状況を報告した。 参加者は5人ほどで、やはり高齢の方が多い。 スタッフの声掛けで協力してくれたお客様ということであった。
 店舗のスタッフが10人以上いるので、傍から見ると、大勢で何かをしていると見えているとのこと。 翔太も参加しながら道路を見ていたが、車の中から覗いている人が確かに多かった。 明日には、『ラジオ体操 朝の健康体操の会』と書いた水色ののぼりと、巴をデザインした太極マーク入りの『太極拳体操 朝の健康体操の会』と書いた黄色いのぼりが来るので、 明後日には、それを道路と駐車場の間に並べる予定と報告した。
「『参加は無料です』ののぼりは?」
「それも届きます」吉村主任が答えた。
 翔太は夜が遅いので、毎日8時前に出てくるのはきつかったが、率先垂範を自ら言い出している以上、少なくともこの1週間は、毎日『朝の健康体操の会』に出ようと思った。

 吉村主任の報告が終わり、いつもの会員獲得の状況と便利カードの交換状況の話をした。 会員は少し低迷をしていたが、総付け商品配布のときにスタッフを増やし、集中してとったので、今月の達成はほぼ確実になった。 DM要も6割を超え、便利カードでもDM不要からDM要にしてもらえる人が増えてきている。 そして、入会と便利カード切り替えのフォローの徹底で会話が増えている。 それにつられて稼働も徐々に増えてきている。
 翔太は8月のリニューアルに向けて、お客様と会話ができる、さらなる企画を探していた。

◇◇◇ 豆の木パン工房さんのお礼の挨拶

 事務所にカウンターから連絡が入った。
「いま、豆の木パン工房の江崎様が、店長に会いたいとお見えになっています。どういたしましょうか?」
 モニターを見ると、豆の木パン工房の作業服を着た男性が立っている。ホールに出ていた吉村主任が、ちょうど駆け付けたところだった。 翔太は、すぐにインカムのボタンを押して、マイクに向かってしゃべった。
「事務所の応接室へ、ご案内してください」

 翔太は、森川副店長に声を掛け、事務所横の簡易応接室に入った。
 豆の木パン工房の江崎オーナーは、今回の総付け商品配布のお礼に来られたのだった。 翔太は手土産のミニパン50個をいただき、丁寧な謝辞を受けた。 そして森川副店長や吉村主任が行った今回の取り組みとその姿勢、ホールスタッフの真剣な態度を賞賛してもらった。 翔太は、吉村主任にミニパンを渡し、ホールスタッフ全員にこのことを伝えるように指示した。

「江崎オーナー、こんなに喜んでいただいて恐縮です」
 翔太は恐縮したが、江崎オーナーは、総付け商品配布以降に、お客様が大幅に増え、売上が大きく伸びて、経営が一挙に安定したこと。 そのお陰で、迷っていたアルバイトを雇うことが出来たこと。それにより経営が完全に軌道に乗ったとのことだった。

「それは、もともと江崎オーナーのパンがもともと美味しかったからですよ。 経営が安定したのはリピーターが着いたということですから、江崎オーナーの実力ですね」と、翔太は江崎オーナーを持ち上げた。
 そして、自分たちの地域貢献とは、本当に頑張っている人や店舗に光があたるお手伝いをすることであり、自分たちの会社が目指しているコミュニティホールの話をした。
 江崎オーナーは何度も頷き、共感し、何かあったら、是非協力したいと言っていただいた。 そして、とりあえず朝のラジオ体操は、お嫁さんと小学校と幼稚園のお子さん2人の計3人が参加しますとのことだった。
 翔太はお礼を述べ、少し雑談をし、切り上げようとしたとき、江崎オーナーから突然相談があった。

 実は、経営者仲間で経営がじり貧となり、困っている社長がいるので相談に乗ってもらえないかという話であった。 その社長とは、親の後を継いだばかりの和菓子屋であった。 そこの和菓子が、同じように総付け商品にならないだろうかということだった。
 翔太は、本当に良いものを作っている人でないと応援できないので、断る場合もあることを再度伝え、とりあえず相談に乗ることを承諾した。 担当は、森川副店長か吉村主任ということなので、翔太は森川副店長を担当にすることにした。

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