◇◇◇ 8月の社長報告(2/2)
・・・前回のつづき
小泉社長としては、懸念材料を払拭したく、さらに質問を重ねてきた。
「久米坂店の競合店の稼働はどんな状況なの?」
「そうですね。微減と言ったところです。現在、地域5番店から地域3番店に、もう少しでなりそうです」
「そうなると、地域2番店か3番店あたりが、出玉で稼働の回復を狙ってくるんじゃないか?」
出玉での稼働の取り合いではよくあるパターンである。小泉社長はそれを心配している。
「それについても問題ないと思っています。
おそらく仕掛けてくるとすれば、7月末の久米坂店の状態を見てということですから、8月の第1週というところでしょう。
しかし、8月は盆休みがあります。
盆休みはどこも利益を確保したいと思っているので、そこをあえて出玉営業にして利益を飛ばすことはないと思います。
ということは一時的な出玉になるので、問題はないでしょう。
もし短期でお客様を取り戻そうとして、極端な出玉をやれば、盆休み営業とのギャップが鮮明になり、
お客様の不満が増大し、自滅行為となるのはわかるでしょうから、そんなことはやらないでしょう」
「OK。わかった。これからの稼働はどうなる?」
「基本的には、前にお話しした通りです。
今、稼働は上昇傾向にあるので、このまま感謝キャンペーンということで、いろんな企画をお客様に提案していきます。
いずれにしても盆休みに向けて稼働は上昇するはずですので、お客様には久米坂店は地域活動に力を入れ、
地元から支持されている他のパチンコ店とは違うパチンコ店というイメージをもってもらうように演出します。
ちょうど稼働が下がる盆明けが改装になるので、リニューアルでもう一度お客様を集めます。
おそらく20000稼働ぐらいは行くとみています。
この稼働になると、地域2番店のダーストンの背中が見えてくる感じになると思っています」
山崎部長からもフォローがあり、小泉社長は改装後の営業方針について納得した。
「わかった。引き続き頑張ってくれ。ところで森川副店長はどうなった?」
「そうですね。コミュニティに対する取り組みが積極的になってきたように思います。
特にパン屋さんとのコラボでは、積極的にアイデアを出して、オーナー店長を助けていたので、コミュニティの面白さが分かったんではないでしょうか?」
「では、出玉よりもコミュニティという感じになってきている?」
「それはなんとも言えないですね」
翔太は少し考えてから答えた。
「まあいいか。コミュニティによる業績回復はこれからだから、現時点で、少しでもコミュニティに関心が向き始めた、ということで良しとしよう。
森川副店長はこのまま久米坂店で頑張ってもうらうことにするよ」
「わかりました」
この後、浅沼店のコミュニティ施策の進捗状況報告をし、ほぼ予定通りであることを小泉社長に伝えた。
「星野店長からも聞いている。浅沼店が先行しているので、事前にミスを犯しそうなところが分かり助かると星野店長が言っていたよ」
そう言って小泉社長が笑った。
「ところでさ、さっき言ってたパン屋さんの話を詳しく聞かせてくれ」
小泉社長は興味深そうに訊いてきた。
翔太はこの後、豆の木パン工房との取り組みをはじめ、個別にコミュニティ施策についてこまごまと小泉社長に報告した。
時間はあっという間に過ぎ、時計は夜の8時を過ぎていた。 小泉社長から近くのレストランで夕食でもどうかと誘われたが、店に帰って今日中にやるべきことがあるので、翔太は辞退して店に帰った。 帰り道、翔太は小泉社長と十分話せたことで、充実している自分を感じていた。
◇◇◇ 8月店舗会議(総括確認・廃棄野菜)
翔太はメンバーが集まったので、始めることにした。
山崎部長と浅沼店の星野店長が同席している。
まず、店舗会議の連絡事項を伝え、いつものように今月の数値目標。
そして、現在予定されているイベント企画のスケジュールを森川副店長が読み上げた。
翔太は、集客を徹底させるために、企画を重ねて説明した。
「月初めからアルカリイオン水のサービス開始をしているのは、みなさんも知ってると思います。
競合店はすでに3年以上前から水のサービスをしているので、目新しくはありません。
だから、今回切り口を変えて、お客様に案内しているのは周知してもらっていると思います。
それから、この前の店休日にワゴンサービスが、業務用コーヒーマシーンを入れ替えたのも知っていると思います。
その販促として、今週からワゴンサービスの抹茶ラテの試飲半額券を配ります。
これは来週から使える半額券です。基本はワゴンの女の子が配りますが、スタッフも協力ということで配ります。
なるべく多く配って、お客様の来店動機を作ってください。
来週は、カプチーノの試飲半額券を配ります。
これは再来週のお盆休みから使える券です。
これで重ねて来店動機付けをします。
半額券がトリガーとなって、パチンコに行こうとしたとき、このジャックを思い出してもらうという作戦です」
みんな真剣に聞いている。翔太は話を続けた。
「何度も言ってますが、店に来られて時が、最大の営業活動のチャンスです。
今週来店したお客様を一人でも多く、来週に来てもらうことにより、徐々に集客の波を大きくしていきます。
今月はお盆という追い風が吹きます。
これを最大限に利用して、改装前に稼働を少なくとも19000アウト以上にもっていきます。
ちなみに、リニューアル・オープン向けの来店動機は、第3週に配る新作メニュー試食券です。
ワゴン、食堂と協力して、ジャック久米坂店を盛り上げます。
私の方からは以上です」
翔太はそう言って参加メンバーの一人ひとりの顔を見た。
「それでは、いつものように進捗報告をお願いします」
西谷主任が、クリンリネスの進捗として、8月1日より、さらに掃除範囲を30m拡大したこと。ゴミの量が意外にあり、少し手間取ったことを報告した。
続いて8月2日の朝市の報告をした。
参加農家は、3件で山根さんが、他の二人の野菜も一緒に運んでテントに陳列したこと。
ラジオ体操参加者とスタッフの声掛けでお客様が8人、それと遅番のスタッフ2人が家族を連れて参加して購入したこと。
合計売上は7600円になったこと。
そして10時以降は、店内で試験的に5袋カウンター横に置き、12時までに完売。
残りの野菜は、ホールの食堂が買い取り、地元の新鮮野菜炒めとして、販売してすべて消化できたことを報告した。
「西谷主任、ご苦労様でした。山根さんの反応はどうでしたか?」
「山根さんは、最初から期待はしていなかったので、一人3000円の小遣いでも悪くはないとおっしゃってました。1円パチンコの資金ぐらいにはなると」
「悪い反応ではなかったということですね」
「そうです。量も少量でしたので、商売としてのうま味があるとまではいかないというところです」
「今回持ち込まれたのは、売り物の野菜ですか?」
「そうですね。すみません。廃棄野菜の話はホールが忙しく、先方に行って話をすることができませんでした」
「今後、どうしますか?」
「実は、廃棄野菜問題について、ネットで調べてみて思ったんですけど、本当に多いことがわかりました。
この問題について2日は時間があったので、山根さんと話していて、実際に困っていることが確認できました。
地域の問題を、ホール機能を使って解決するということでは、この廃棄野菜を積極的に取り扱うべきだと考えました」
西谷主任は、素案ですが、と前置きしながらA4のコピー用紙を配った。
表題は、『廃棄野菜問題を考える会』と書いてあった。
話の趣旨は、生産者と消費者をつなぐ会をつくり、廃棄野菜を無くすというものであった。
生産者の農家の方には、山根さんが中心に声を掛けてくれることになっている。
消費者の顔ぶれとしては、ホールのスタッフとホールに来られるお客様や地域の住人の方、
そして廃棄野菜の最終処分先として、ホールの食堂やワゴンサービス、それにプラスαとして商売に野菜を利用する地元の店舗などを巻き込むというものになっている。
今後の課題は、集荷、引き取り価格、販売方法、販売価格、数量の問題、野菜の種類の問題など山積しているが、挑戦してみたいということであった。
「西谷主任、廃棄野菜問題は私も取り組むべきと思っています。
但し、うちはボランティア団体ではないので、極端な持ち出し行為はしないようにしてください。
生産者、消費者、うちの三者がみんなWin-Winの関係にならないと長続きはしません。
その点はよろしくお願いします」
「了解しました。まずは農家の方への聞き込みをしてきます」
西谷主任が神妙に答えた。
「森川副店長には西谷主任のフォローをお願いしていましたが、最初の山根さんの打合せの時は同行してください。
その後は、西谷主任が農家訪問でホールを抜ける穴を埋めていただきたいのですが・・・」
「わかりました」森川副店長は頷いた。
西谷主任は、最後に朝市の様子と地元新鮮野菜炒めの記事を、明日、風除室とコミュニティ掲示板に張り出す予定であることを報告して締めくくった。