本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 山口饅頭堂

 森川副店長は、豆の木パン工房の江崎オーナーと山口饅頭堂にいた。 山口饅頭堂は駅前の商店街の中にあり、細々と営業を続けている。 江崎オーナーと親しい社長の山口さんは、二代目ということであった。
 話を聞くと、商店街の人通りが少なくなるにしたがって、売上が下降しており、困っているとのことであった。 売上を上げるために宣伝力を強化したいとのことで、江崎オーナーの話を聞いて、ジャック久米坂店の総付け商品として扱ってもらえたらという話であった。

 森川副店長は、ジャック久米坂店の考え方、地域の情報として店舗を紹介するスタンスについて説明した。 そして、取り扱うかどうかは、商品を持ち帰り、店舗のスタッフ食して、これを自分達のお客様に奨めたいと思うかどうかで決まると言った。 山口社長は、それならと店一押しの“おはぎ”を出してくれた。 森川副店長は最初の一口で、甘ったるいと思った。
 作り方を尋ねると昔からの職人さんがいて、その人が作っているとのことだった。 取り敢えずインタビューという形で、山口饅頭堂の成り立ちなどを聞き、現在、お客様の価値体験を上げるために取り組んでいることをヒアリングしたが、特に何もしていないということであった。 帰りに試食用に“おはぎ”をもらい、二人は店を出た。

「森川さん、おはぎを食べていかがでした?」
 江崎オーナーが尋ねてきた。
「少し、甘すぎるように感じました」
「実は、私もそう思っています。味の改良については言っているのですが、結構頑固で変えようとしないんですよ。 最も職人さんが作っているから、あまり味について山口社長自身、あれこれ言えないのかもしれないんだけど。ダメかな?」
 森川副店長は一瞬言うべきかためらったが、へたに期待をもたせるのはマズイと思い、素直に感じたことを言った。
「好みはいろいろですので何とも言えませんが、おそらく8割ダメだと思います」
「そうかもしれないが、何とか応援してもらえるとありがたい」
 江崎オーナーはやっぱり無理なのかという顔をしていたが、それでも一縷いちるの望みは持っているようであった。 森川副店長は、商店街の駐車場で江崎オーナーと別れて、店舗に戻った。

 森川副店長は、店舗に帰ると女性スタッフに指示して、もらってきたおはぎを切って、スタッフの人数分試食用おはぎを作った。 とりあえず、役職者も含め、その日の早番と遅番のスタッフ全員からアンケートとった。 アンケートまとめると、おススメするかどうかで、9割のスタッフがおススメしたくないと回答している。 パッケージやおはぎの見てくれは問題ないが、味が問題であり、すぐに飽きるとしてあった。 閉店後、森川副店長は、翔太にアンケート結果を持ってきた。
「店長、アンケート結果です。おススメするは、1割しかいません」
「森川副店長は、どうすべきと考えているのですか?」
 森川副店長の脳裏に、江崎オーナーの何とか応援してもらえないかという顔が浮かんだ。
「この山口饅頭堂を、ホールの推奨店とするとマズイでしょね」
「マズイですね。いま私たちは、地域の活性化のお手伝いをしようとしていますが、それは賞賛に値する価値があるものに対してしようとしています。 味噌でも糞でもPRすれば地域が活性化するとは考えていません。 そんなことをすれば、ジャック久米坂店の信用がなくなってしまします。 良いものを応援してこその地域活性化です」
 森川副店長は、アンケート結果を見たまま黙ってしまった。そして、ぽつりと言った。
「断ります」

「森川副店長、それもいいかもしれませんが、他の可能性も考えてみました?」
「他の可能性ですか?」
「そうです。おそらくこのままでは山口饅頭堂は潰れていきます。考え方を変えない限り。 とすれば、今回のアンケート結果をもとに、考え方を変えてもらうように働きかければいいじゃないですか」
「でも、あそこの職人は頑固と聞きましたから」
「それは森川副店長が確かめられたのですか?」
「いいえ」
「それでは、それは山口社長の意見です。少なくとも事実かどうかはわかりません」
「・・・」
「普通、お客様の多くは、このお店が不味いと思っても、文句は言いません。黙って買いに来ないだけです。 ということは、職人さん自身も売上が伸びないので、現状のままではダメだと、なんとなく分かっているのではないですか。 でも変えるきっかけが無いので、そのままになっているだけかもしれませんよ」
「そうかもしれません」
「それじゃ、そのアンケートを基に、山口社長に職人さんに説明して、味の改善を提案したらどうですか? もしそれで、提案を受け入れ、美味しいものが出来れば、その時はそのPRのお手伝いをこのホールを使ってやれば良いんでしょう」
「・・・」
「まずは提案してみたらどうです」
 しばらく考えていたが、森川副店長は返事をした。
「そうですね。分かりました。そうしてみます」
 森川副店長はゆっくりと自分のデスクにもどりかけた。

「あっ、そうそう、おはぎと言えば、仙台に有名な“おはぎ”の店があるのを知ってますか?」
 翔太はいきなり森川副店長に話しかけた。
「いえ」
「ちっちゃなスーパーなんだけど、平日でも5000個、お彼岸なんか15000個以上も売り上げるらしいよ」
「そんなにですか?」
「そうだろう。最大手のスーパーのオーナーなんかも見学に行ってるらしいよ」
「ちょっと常識では考えられない数量ですよね」
「常識は自分達がとらわれている固定観念ですからね。 仙台はちょっと遠いけど、発想の転換を図るためには、行くといい刺激になると私は思うけど。 ネットですぐ調べられるから、参考資料として、お渡ししてみたらどうですか」
「わかりました」
 森川副店長はスーパーの名前を翔太から聞き、デスクで何かメモしていたが、すぐに閉店処理をするため、あわただしく事務所を出ていった。

◇◇◇ 進捗会議(8月第2週:遊技勉強会、写真同好会)

 翔太は、浅沼店の星野店長と事務所のミーティングテーブルにいた。
「今日は、人数が少なく、みんなバタバタしているので、入れ替わりで進捗チェックをします」
 翔太はそう星野店長に断わり入れ、西谷主任を呼んだ。

 西谷主任はクリンリネスの状況、8月も町内会の公園清掃ボランティアに参加したこと。 その人達に『朝の健康体操の会』の話をしたら、参加したいという人が3人ほどいたことを説明した。 その人達が、知り合いに声を掛けると言っていたので、それ以上の人数の参加が見込めると報告した。
「西谷主任、良いですね。こういった地道な口コミが大切なんです。 他のメンバーがやっている企画にも関心を持って、お互いの施策に繫がりを作っていく。 これが出来ると相乗効果が出てきます。相乗効果が出るとコミュニティ形成が早まります。公園清掃、本当にご苦労様でした」
 そう言って翔太は西谷主任の労をねぎらった。
 続いて、ニュースレターの反応の報告として、スタッフから集めたコメント一部を読み上げた。 廃棄野菜については、農家に3件訪問したが、まだ話が詰まっておらず、もう少し時間がかかることを報告した。 しかし、感謝キャンペーン中の企画として、廃棄野菜を使った朝市は、盆前の土日に実施の方向で進んでいると報告した。

 西谷主任の報告が終わると、尾田主任が入れ替わりに報告に来た。
 先週、遊技台アンケートを実施し、回収が前回より多い471枚あったこと。 感謝カードの記入状況。直近の遊技台の勉強会の状況などを報告した。
「遊技台の勉強会は、少しマンネリ化してきていない?」
「そうですね。最初は熱心だったのですが、最近はマンネリ化し、知識の習得にもバラツキが出てきています」
「マンネリ化の原因は何と考えているの?」
「やはり、活用シーンが少ないということが一番の原因と思います」
「お客様からの質問が無い!ってこと?おかしいですね。従来の説明主体型のリーフレットを変えて、スタッフへ質問誘導をする内容にしていますよね」
「はい」
「リーフレットについて、お客様への告知はどうなっていますか?」
「・・・・特にはしていません。リーフレットの表を変えているので、気づくと思ったんですが」
「実際は?」
「気づいてないかもしれません。結構人気のある台のリーフレットを変えたので、お客様も良く知っているからと、見てないのかもしれません」

「では、尾田主任はどうしたら良いと思いますか?」
「まず、いまの話は仮説なので、自分でホールを見たり、スタッフに訊いて確認したいと思います」
「確認できたらどうするんですか?」
「もし知られていないということでしたら、リーフレット変更の案内をしたいと思います」
「具体的には?」
「まず、リーフレットが大幅に変更されたことを訴えるDMを、出したいと考えています。 もちろん無駄な経費は書けないように、過去の遊技者を会員管理で選定してから出します。 今からやれば、お盆営業の集客に間に合うと思います」
「他には?」
「リーフレット変更案内のPOPを付けます。それを遊技中に台に刺します。 動きを付けることで、お客様の目に留まるようにします。 スタッフにも会話の中で、リーフレットに触れるように通達します」

「効果はどうやって確認しますか?」
「終礼でリーフレットからの質問があったか、報告をしてもらいます。いえ、インカムでもその都度、報告してもらいます」
「わかりました。今、尾田主任が言ったことをまとめるよ」
 翔太はそう言うと、尾田主任の話のポイントを復唱した。尾田主任は頷きながら、メモした。
「そうしうことで間違いないですね。OK。やってください」
「はい、早速取り掛かります」
 そう言うと尾田主任は報告を終わり、席に戻ろうとした。

「ちょっと間って、尾田主任」
 翔太は尾田主任を呼び止めた。『写真同好会』の進捗を聞くためであった。
「すみません。忘れてました」と言って席に戻り、資料を持ってきた。
 尾田主任は、『写真同好会の会則』を作っていた。
「どうせなら、きっちりしようと思って作りました」と言って、会則のポイントを話した。
 まず、第一に目的の明確化ということで、目的は、ホールに集まってともに映像を楽しむこととしてあった。 入会は入会用紙に記入し、基本的に便利カードの利用者を義務づけている。 つまりジャック久米坂店の会員になるのが前提。義務付けた理由は、活動の連絡のためのとしてあった。 もちろんDM要は必須としてあった。
 基本活動内容としては、四季の地域の風景の提出が義務付けられており、要するに3か月に1回の写真コンテストの応募としてあった。 その他にも、会のメンバーの提案で、テーマ別のコンテストや展示会を開くとしてあった。 そして、年に1回総会を行い、コンテスト優勝者の表彰をすることが書かれていた。

「これ、賞金か何か付けるの?」
「一応社長賞を付けようかと考えているんですが、店長から社長に言っていただくと、ありがたいです。さらに総会をホテルでできれば、言うことなしです」 と言って尾田主任はちょこんと頭を下げた。
「一応、社長には話しておくけど、総会って何人でするつもり?」
「それは50人・・・」
「それは少ないね。せめて100人集めるからやってくれっていったら、小泉社長も乗ってくれるかもしれないよ」 と翔太はニヤッと笑って尾田主任を見た。
「それはいくら何でも・・・」できないと尾田主任が言いかけた。
「久米坂店だけでやろうとするからだろう。 尾田主任が考えている『写真同好会』が上手くいくなら、大滝店や大安寺店、浅沼店でのやってもらい、合同でやれば無理なことはないと思うけど。ねぇ、星野店長」
 星野店長もニヤッとしてもっともだと翔太の意見に賛同した。
 尾田主任は頑張りますと言って、次の吉村主任と交代した。

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