本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 進捗チェック(8月第3週)

「それでは全員が集まったところで、進捗チェックを行います。 皆さんの努力の甲斐があって、計画以上の稼働になっています。
 7月の稼働アップ要因は、主に一人当たりの滞留時間が伸びたことでしたが、8月はお客様数の増加です。 実数も増えていますが、来店回数が増えたのが要因と考えています。 これは会員の動きを会員管理システムでチェックして確認しています。
 競合店の頭数が少し減っているので、おそらく顧客シェアがアップしてきたと思います。 これもまた会員管理システムでチェックして、来月の店舗会議で報告をしたいと思います。
 ハイ。それではお盆でみんな忙しくしているので、効率よく発表してもらい、早めに終わらせましょう」
 翔太はそう言うと、いつものように西谷主任に発言を促した。

「それでは報告します」
 西谷主任は、店外掃除の現状、店内のクリンリネスの状況を説明した。 廃棄野菜の朝市については、先週2回実施し、好評であり、このお盆の期間も2回実施することを報告した。 長期的な運営については、まとめている途中ということであった。 ただ、廃棄野菜を考える会のメンバーは増えており、農家の方が10人、消費者の方が39人、 内訳は、一般のお客様が14人、『朝の健康体操の会』のメンバーが13人、うちのスタッフが12人となっていること。 食堂ではメニューを開発してもらっており、3週目に配る試食券のメニュー対象になっていること。 ワゴンでは野菜ジュースとして使ってもらえるように交渉していることなどを報告した。

 続いて尾田主任が報告した。 先々週行った遊技台アンケートと会員管理を使った機種客分析により、購入を決め中古台が新たに3機種あること。 リーフレットの告知を改めて行い、今日から強化機種についてPOPも用意していること。 これについては、盆前にDMを送ったこと。遊技機勉強会は、強化機種を中心に行っていること。 午前中の状況だけでは何とも言えないが、稼働は通常より上がっていること。 リーフレットを見て、スタッフに質問をしたお客様が3人いたと報告した。
『写真同好会』については、9月から募集を本格的に開始する予定で進んでいること。 そして翔太に、ニュースレターで取り上げて欲しいとお願いして、報告を終わった。

 吉村主任は、まず総付け商品の「感謝」という文字の書いたマグカップの配布トークの紹介をし、 終礼後にスタッフの口がなれるようにリーダーと一緒にロープレをしていることを報告した。
 その後、感謝シールの配布状況の説明。感謝シールを集める人がちらほら出てきており、少しずつではあるが浸透してきている。 しかし、たまにゴミ箱に捨てる人がいるので、見つけたすぐに回収するようにスタッフに指導していることを報告した。
「ゴミ箱に捨てる人は多いのですか?」
「少ないです。1日に2、3枚程度です。このくらい大したことはないと思いますが、 お客様が見るとシールの価値が下がり、不快に思うので、見つけ次第回収するように言ってます」

 続いて『朝の健康体操の会』についての報告に移った。 会のメンバーは64人となり、常時30人以上が、参加している。 最近講師の劉先生が来られないときは、アルバイトの喜多君が先生の代わりを務めている。 喜多君と仲の良い社員の住吉君とアルバイトの長谷川さんが太極拳体操をマスターして、喜多君をサポートしている。
「劉先生には本当にお世話になっているので、改装の1日目に行う焼肉大会にお誘いしてください」
「分かりました」
「それから、吉村主任、『朝の健康体操の会』をどうするのかも、よろしくお願いしますね」
「了解しました」

 最後に森川副店長が、山口饅頭堂の山口社長に対して、おススメの総付け商品にはできないとお伝えしたことを、みんなに報告して終わった。

◇◇◇ 改装前の最終確認

 翔太は明日にからの改装の趣旨と段取りの確認のために、主任と副店長を集めた。
「明日から外装と内装の工事に入ってもらいます。外装と内装は西谷主任お願いします。 駐車場のラインの引き直しと一部外構の補修は森川副店長お願いします。 食堂の改装は、責任者の遠山シェフがメインでされます。 それから、森川副店長には、改装の様子やみんなの働きをビデオに撮ってもらうことをお願いしています」
 翔太は森川副店長を見た。
「ビフォー・アフター記録係の森川です。 みなさんの働いている姿だけではなく、怠けている姿もとりますので、注意しておいてください。 これは内緒ですが、社長に直に送りたいと思います」
 と言って森川副店長はニヤッと笑った。
「西谷主任は、リニューアル前と後の写真の準備はOKですね」
「はい。準備できてます」
 西谷主任が即答した。

「ということで次にいきます。 休憩室は、コミック本を読むコーナーは縮小し、カウンターテーブル周りにします。 今のゆったりソファーは撤去して、木目調のテーブルと椅子を置き、試食をしたり、お客様が座って、話が出来るようにします。 その代わり、ホール内の休憩椅子を増やします。
 それと、ホール内にあるコミュニティ掲示版の横に、49インチのテレビを取り付けます。 森川副店長が編集した映像を事務所から流せるようにします。 コンテストなどの催事用の掲示板を、景品交換所へいく途中の壁に付けます。 その横にも49インチのテレビを付けます。これは私が担当します」
「それじゃ、次回の写真コンテストは、そこでやればいいんですね」
「結構、大きめに作りますから、頑張ってください」
「ありがとうございます」
 尾田主任が嬉しそうな顔をした。

「それと景品大幅に入れ替えます。吉村主任が2か月前から景品業者と交渉していました。 景品業者の方で対応できないものは、直接販売店やメーカーにあたって取り寄せています。 最近、宅配が頻繁に来ているのが、それです。 地域密着のコミュニティホールというコンセプトに会った商品構成になります。吉村主任構成は?」
 吉村主任は、翔太の指名を受けて報告した。
「ザクッと言えば、防災関連グッズ20%、防犯関連グッズ10%、安全グッズ10%、健康グッズ20%、 ありがとうグッズ10%、面白実用品10%、面白雑貨10%、その他10%というというような感じになります」
「ということで、大幅に変わります。ディスプレイについては、寺島リーダーと吉村主任が監修します。 そして是非お客様に買って欲しい商品には、なぜこの商品を勧めるのか、手書きPOPを付けます」
 吉村主任が頷いた。
「尾田主任は、改装後の装飾とポスター、イーゼル関係ですね」
「ほとんど準備はできています」
 翔太は頷くと話を続けた。

「21日は作業をしてもらい、夕方6時から慰労会をします。駅前の『焼肉のプラス2』というところです。山崎部長が来られます。吉村主任、劉先生は?」
「大丈夫です」
「基本は役職者が、一般スタッフをねぎらうというのが趣旨ですので、羽目を外さないようにしてください。 当然、そのお店には地元のお客様も大勢来られるので、スタッフも飲みすぎないように注意して下さい。 日頃のうっぷんを晴らしていると思われるとマイナスになりますから、お願いします」
 西谷主任が残念そうな顔をしていた。翔太が西谷主任の顔をじっと見ると慌てて、了解しましたと返事をした。
「あと新台入替は3日目になります。今回の入替は多くないので、余裕で行えます。 4日目はスタッフ研修。夕方6時にすべての作業を終える言う計画です。細かいことは、配布した資料を見ておいて下さい」

 尾田主任が手を挙げた。
「今回のチラシは、どれくらい配るのですか?」
「通常と変わりません。本当は出したくないくらいですけど、内容は、新台情報が半分と今回の改装情報が半分ですね」
「リニューアル荒らしは来るでしょうか?」
「まあ、くるでしょうね。基本的に出玉はほとんどしないので、あきらめるすぐ出て行くと思います。 あきらめなければ、出て行ってもらうしかないですね。競合店で対抗して出玉をしてくるところがあるかもしれないので、競合店へ誘導して下さい」
 それを聞いて森川副店長が反応した。
「そんなことしたら、競合店の稼働が上がりますよ」
「別にかまいません。見せかけの稼働を積み重ねても、意味はありませんよ」
「そうでしょうか。その盛況感につられて、多くのお客様がかなり出してると錯覚し、集まると思いますけど」
「前にも言いましたが、そういう人はジャック久米坂店が是非とも来て欲しいと考えているお客様ではありません。でもそういう人がたくさん来ると、何が起こると思いますか?」
「・・・・」
「おそらく良い台は、出玉狙いの客に押さえられているので、出玉をしていても、既存のお客様はそれほど満足しないと思いますよ。 むしろ、常連客はそんな状況を不満に思うんじゃないですか。 もし出玉をしている競合店にそういう人が集まったとしたら、競合店の常連は打ちにくいからと他のホールを探すかもしれません。 そうなると、ジャックがリニューアル・オープンをしていたことを思い出し、来てくれるかもしれない。 これはジャックにとって美味しいお客様です。良くない客がいなくなり、良い客が来る。一石二鳥ですよ」
 翔太はニッコリ笑って言った。
「それは、机上の空論だと思いますけどね」
 と森川副店長は一応反論したが、黙った。

「ある経営者がしつこいと思ったら、もう一度言えと言ってました。そしたら、聞いた人は、本当に大切だと思うと。私もそれに倣いたいと思います」
 翔太はみんなを見た。
「今回、リニューアル・オープンでもあまり出玉営業はしません。 基本的に出す出さないという大きな波を店で作らないのが、コミュニティホールの基本方針です。
 何故かと言えば、店が出す出さないをすると、お客様はどう思うかと言えば、勝つためには店の運営を読もうとします。 つまり、お客様が勝負をしているのは、お店と勝負をしているのです。 そうなると勝てる店を選ぶために店を変えます。 そうなると店舗の定着は起こるでしょうか?」
「難しくなります」尾田主任が答えた。
「そうですよね。基本的には、お客様は遊技台と勝負をしてもらわないとダメなんですね。 つまりメーカーとの勝負です。その勝負の環境を整えるのが、我々ホールという発想です。 だから、お客様は勝てる台を如何に選ぶか、相性の良い台を如何に選ぶか、が勝負のポイントになります。 ホールは基本的に勝ち負けに関与しないので、安心して台との勝負が出来るということになる。 だから、店が極端な出玉はやらない」
「それでは出玉をしている店に負けますよ」と森川副店長が発言した。
「冷静に考えてください。出玉し続ければ勝てるのであれば、苦労はいりません。そんなお店ありますか?普通、出玉し続ければホールは潰れるでしょう」
 そう言って翔太は森川副店長を見た。
「それはそうです」
「出せば、回収する。誰でも知っています。 最近のお客様は、特に敏感で動きが早い。無理に集めてもすぐにいなくなる。 一部のユーザーだけが得をする。昔と同じことをしていてはジリ貧じゃないですか」
 森川副店長は『ジリ貧』と聞いたとき、山口饅頭堂に対して江崎オーナーが言った言葉が重なった。 『これまでと同じことをしていたらジリ貧だ』と。森川副店長はそれ以上何も言えなかった。

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