本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ リニューアル・オープン

 5日ぶりに朝の健康体操が行われた。意外に多くの人が参加され、参加人数は60人近くになった。
 久しぶりということもあり、『破棄野菜の朝市』も盛況で、スタッフと参加者は朝市を見たり、キレイになった店舗を見ながら、楽しそうに会話をしていた。 この日は早くから駐車している車があり、ナンバーを見ると県外車が多かった。 吉村主任の提案で、昨日の夕方、体操のための駐車禁止のスペースを確保していたので、問題は無かった。
 体操が始まると、駐車している車から何人か出てきて、もの珍しそうに見ていた。中にはスタッフに、健康体操の会や朝市のことをいろいろ聞いてくる人もいた。 この日は体操が終わるとオープンの準備もあるので、すぐ解散とした。 それでもメンバーの何人かは残って、スタッフに改装したお店を見に来るからと言って帰っていった。

 9時過ぎから徐々に駐車場の車が多くなり、オープン前には100人近くが並んだ。昔の盛況感が出ていた。 地域の人で、普段他店に行っているが、出玉があると期待してきた人も多かった。 出玉があまり無いと、すぐに帰るのかと思ったが、居心地が良かったのか、以外に長く粘ってくれた。 もちろん、遠くから来たオープン狙い客は、予想が外れたと早々に撤退する人も多くいた。 おそらく近くの競合店の中で出している店舗の情報を、仲間から連絡を受けて移動したのだろう。

 翔太は、ホールを回り、顔を知っているお客様には、できるだけ声を掛けた。 スタッフから紹介したいお客様がいると声がかかり、一緒に挨拶に行くこともあった。 ホールを回り終えて、事務所に戻ってからは、お客様の動きをモニターで見ていたが、全体的にさらに会話の数は多くなっている気がした。 この日のために会員募集専任として、声掛けの上手いアルバイトスタッフの立花と東山を配置し、会員を積極的に募集している。 午前中だけで入会者は15名を超えそうである。

「部長、結構いい雰囲気になっていますよね」
 翔太は、心配してリニューアルの立ち合いに来た山崎部長に声を掛けた。
「スタッフも生き生きしているし、お客様も楽しそうだ。この様子だと、今日の稼働は、地域2番店のダーストンの稼働は確実に上回るだろう」
「星野店長も見られてどうですか?」
 翔太は見学に来ている浅沼店の星野店長に感想を訊いた。
「お客様とスタッフの雰囲気がいいね。 関根店長から、改装を事前に告知して、徐々に稼働を上げていくという話を聞いて、はじめは疑っていたけど、7月から今までの打ち手を見ていて、納得したよ。 努力の角度が違うと思ったよ。そう思うとこれまで同じことをただ繰り返していた、仕事ではなく、作業をしていただけと反省させられたよ」
「星野店長、今日は謙虚ですね」と山崎部長が声を掛けた。
「私は、いつでも謙虚ですけどね」と星野店長が笑った。
 それにつられて、みんなが笑った。

「楽しそうですね。関根店長」
 事務所に入ってきた明日葉リーダーが声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「実は、さっき、朝市に来ていた人が、パチンコをされたんです。初めてとおっしゃってました。 なんか見ていたらやってみたくなったって。さっきまで私その人のサポートをしてたんです」
「へーっ、初めて」山崎部長が声をはさんだ。
「そうなんです。関根店長が知ったら喜ぶかなと思ったんですけど。これって、店長が日頃言われている『創客』ですよね」
 翔太はそれを聞いて思わずニッコリした。
「良く教えてくれたね」
 寺島リーダーも嬉しそうにほほ笑んだ。
 翔太はこの事例を頑張ってくれたスタッフみんなと共有したいと思った。
 朝礼という自然な集まりの中で、スタッフとの関係が出来き、安心して店舗を訪れた。 そしてパチンコに興味を持って、打ちたいという気持ちになった。 それを考えると、コミュニティを求めるパチンコユーザーを取り込んだ後は、そういう人たちに来ていただくことが重要になる。 将来のために店舗外の人と交流し、仲良くする交流会をもっと力を入れていく必要があると思った。

「関根店長、大安寺店の伊藤店長と大滝店の田所店長が来られました」
 事務所にいた西谷主任が、インターホンの画面を見ながら翔太に報告した。
「伊藤店長、田所店長、おはようございます」
 翔太は、わざわざ来てもらった礼を述べた。
「関根店長は、盛況だね。店内を見たけど、どこから見てもコミュニティぽくて、いいね。 風除室の花もそうだし、景品のPOPも、どこから見てもコミュニティだね。店の想いが伝わる。 それに食堂のメニューも書き方に工夫があって面白かった。もうすぐ11時になるから、どれくらいお客様が入ってくれるか楽しみだね」
 伊藤店長は感心してディスプレイを褒めた。
「ありがとうございます。私もお昼にどれくらい食堂を利用する人があるか、楽しみにしています。 仕掛けとしては、改造前の試食の半額券を600枚以上配っていますので、それを期待しています」
「さすが関根店長ですね。事前の仕掛けが細かい」
 そう言って田所店長は、店長を出して、メモしていた。
「田所店長、ノウハウの盗み取りですか?」
「そう、真似る。良いモノはどんどん真似る。これが一番効率がいい。山崎部長がいつもおっしゃっているだろう。ねぇ、山崎部長」
「でも、田所店長、落語の『時そば』にならないようにしてくれよ」
「分かってますよ。そんなヘマはしませんよ。ねぇ部長」
と言って田所店長は笑った。 その声につられてみんなが笑った。

◇ 豆の木パン工房からの陣中見舞い

 その時事務所にインカムが入った。 ちょうど翔太と入れ違いにホールに出ていた森川副店長からだった。 話を聞くと、豆の木パン工房の江崎オーナーが陣中見舞いと言って、スタッフにミニパンを40個持ってきてくれたので、応接室にお通しとうしようとしたが、 店長に挨拶してすぐ帰るからと言われているので、直接事務所に案内しても大丈夫かというモノであった。
 翔太はすぐに承諾し、江崎オーナーに事務所に来ていただいた。

「江崎オーナー、お気を使っていただき、ありがとうございます」
 翔太は江崎オーナーにパンのお礼を言い、山崎部長と他の店長を紹介した。 江崎オーナーは名刺を持ってきていないことを恐縮しながら、部長と他の店長と名刺を受け取った。 その後ろで、西谷主任が、豆の木パン工房の江崎オーナーからパンをいただいたので、お礼を言うようにスタッフに連絡をしている。

 翔太は、江崎オーナーに声を掛けた。
「また、総付け商品でお世話になると思います。その時は、また森川か吉村がご相談にあがりますので、よろしくお願い致します」
「それくらい、おやすい御用です。それよりも、前にお願いした山口饅頭堂ですが、森川さんのアドバイスのお陰で仙台に行ったようで、今、おはぎの味を改良しています。 また、みなさんに試食をお願いするかもしれませんが、その時は、よろしくお願いします」
「本当ですか?」
 それを聞いて森川副店長が反応した。
「本当です」江崎オーナーは頷いた。

「このことを森川さんや店長さんにお伝えしたくて、こちらに寄せてもらいました」
「その節はこちらこそ、お断りして申し訳ありませんでした。また、森川に相談していただければ、いくらでも協力させていただきます」
「店長さん、ありがとうございます。みなさんのお陰で山口社長もやっと一歩が踏み出せたと思っています。 わたしも仙台に行ったのは昨日知ったところです。実際にスーパーの社長や奥さんに話を聞くことができたみたいで、感動していました」
「そうですか。それはお役に立てたようでなによりです」
 翔太は、自分たちの地域との取り組みが間違ってなかったことを告げられてようで嬉しかった。

 江崎オーナーは、改めてお礼を言うと帰っていった。 森川副店長は、それに同行している。翔太はその様子をモニターで見ていた。スタッフが江崎オーナーに盛んにお礼を言っている。
「あれが、豆の木パン工房のオーナーか。地元店との協力関係が徐々に出来てきているじゃないか」
 同じようにモニターを見ていた山崎部長が言った。
「はい、今、森川副店長が担当していて、江崎オーナーから先ほど話に出た饅頭店を紹介されています。 味が悪いので、推奨店にできないと断ったのですが、今聞くと、味の改良をしているらしいですね。 もしかしたら、またつながるかもしれません。森川副店長が頑張って対応してくれているお陰です」
「そうなのか」
 山崎部長は、思わず翔太の顔を見た。山崎部長は、森川副店長は出玉と新台入替しか興味が無いと思っていたので、意外だった。
「地域密着にしていくということでは、違和感が無いようですね」
「それなら良かった。つながって、コラボが出来るお店が増えるといろんな意味でいいね」
 山崎部長が、満足そうに頷いた。
 翔太もあきらめていた山口饅頭堂が、本当に味を良くして、美味しいものを作ってくれたら、 第二の豆の木パン工房になる可能性が高いので、話題作りになると期待が膨らんだ。

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