本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 新規会員定着化促進(リーダーミーティング)

 リーダー3人は会員管理システムの前に集まっていた。
 店舗会議を終えた翔太はすぐにリーダー達に指示を出した。 せっかく便利カードを作ったのに、来なくなる人がいる。それを減らすように具体的な工夫をするように言ったのだ。
「いま、会員管理システムで調べたんだけど、7月に新規会員161名の中で、8月に来た人が110人です。翌月の再来店率が68%。 システムメーカーが言っている新規会員の翌月再来店率の全国平均65%は上回ってるけどね」
 岡田リーダーが資料を指さした。
「その他は?」明日葉リーダーが訊いた。
「継続会員は再来店率87%になっている。復活会員は63%」
「全国平均はそれぞれ85%、55%だから全国平均よりは高いのか」
 横井リーダーが数字を見た。
「店長が、この店はお客様とのコミュニケーションを取っているから、継続率は高くなっているはず、と言ってたけど、本当に高くなってますね」
 明日葉リーダーは感心して数字を見ていた。

「お疲れ様」
 競合店調査から帰ってきた森川副店長が声を掛けた。
「副店長、お疲れ様です」
 3人が一斉に挨拶をした。
「何をしているの?」
「実は、店長から会員の再来店率を上げるように言われて、3人で考えているんです」と岡田リーダーが答えた。
 覗き込む森川副店長に3人は、データを見せながら説明した。 森川副店長は、この前の会議で言っていた定着化をリーダー達に考えさせていることはすぐに分かった。
「再来店率は、良いんじゃないの?」
「そうなんですよ。でも、これさらに上げるように指示されたんです」
 一瞬『無茶を言っているな!』と思ったが、他より成果を出すというのは、こういうことかと森川副店長は、ふと思った。
『自分なら出玉で稼働を上げた後、何をするように指示しただろう?』おそらく分析もすることなく、屋台イベントやライターイベント等を指示しただろう。何かやれば良くなると思って。 実際、出玉と新台以外の効果は、基本的に気にも留めなかったから、詳しく研究したこともない。
 ふとその時、先々月、ジャック本町店に陣中見舞いに行ったときの記憶がよみがえってきた。 あの時、本町店に対して、業績の回復は新台入替や出玉が何とかしてくれる、と勘違いしていると思った。 しかしそれは本町店だけじゃなくて、過去の自分も同じだ。 今、自分たちで何とかしないといけないと思って取り組んでいる3人を見て、はっきりと気づいた。

「どうしたんですか?副店長」
 少しボーっとしたように見えた明日葉は、森川副店長に声を掛けた。
「いや、何でもない、続けてくれ」
 そう言われて3人は議論に戻った。
「店長からは新規会員の再来店率を上げるように言われたんだから、それに絞って考えよう」
「岡田リーダー、ということは来なくなった新規会員の51人を調べるということですね」
 明日葉が応じた。岡田リーダーがシステムを操作し、すぐその場で会員リストを出した。

「住所が遠方の人を省くと、45人になる」
「来店回数を見てもらえますか」
 明日葉リーダーがリクエストした。
「来店回数が1回の人が38人、2回の人が3人、3回以上が4人ってなっている」
「1回が圧倒的に多いですね」
 横井リーダーが呟いた。
「入会担当者を調べてみましょう。特定の人間に集中していたら、担当した人の入会作業に問題があるかもしれないでしょう」と明日葉が言った。
 明日葉が、カード作成申込書と名前を照合してみると、坂下が6人、北原が5人と多かった、その他は多くて3名ぐらいだった。
「坂下君は、7人獲得して6人の再来店がありません。北原さんも6人獲得して5人とこれも良くありません。 それと3人獲得して3人とも来なかったのも問題ですよね。米杉、吉野、桑田の3人です」
 明日葉の報告を聞いて、とりあえずこの5人については要注意ということで、3人の意見は一致した。 そして、手分けをしてロープレを行い、問題点を探ることにした。

「でも、1回来店者の38人はその20人を除いても、まだ18人いてますよ」と横井リーダーが言った。
「入会担当者は、顔を覚えて挨拶に行くようにしているから、挿入していない可能性は低いと思う」
「それじゃ。1回しか来ない18人は、次に来る動機付けを何かで強化したらいいじゃないかしら」
「結構今、廃棄野菜を利用した『元気野菜ジュース』が人気あるよね。 今月入会者に新メニュー販促キャンペーンで、2週間の期限付きに試飲元気野菜ジュース割引券を渡したらどうだろう」
 そうしようと3人はとりあえず具体策が見つかってホッとした。
 それを横で聞いていた森川副店長は、リーダーが最近成長してきているように感じた。 森川はこれまで、会員管理システムを使って、業績の改善を考えたことも無かった。 これも関根翔太が、店長となって、無理な目標を出すからリーダーが成長するのかとも考えた。
 実際、森川自身が無理と断言し、放り出した会員化促進をリーダーたちは関根店長の下、着実に遂行している。 こころの隅で、この事実を否定したいと思うが、事実は無視できない。

「3人とも頑張ってるね」
 ホールを巡回し、事務所に戻ってきた翔太は、3人に声を掛けた。そして、森川副店長にも3人にアドバイスを与えていると勘違いし、ねぎらいの言葉を掛けた。
 3人のリーダーは、分析結果を嬉しそうに翔太に説明した。
 それに対し、翔太は疑問を投げかけてきた。
「で、今月の新規再来店率は上がるの?」
「・・・・・・・・」
 3人は一瞬固まった。坂下、北原に対する指導しても、入会時に渡す割引券を今日から付けたとしても、それは来月の新規会員の再来店率が良くなるというものである。
「どうするの?諦めるの?」翔太は軽く追い込んだ。
「・・・・・・・・」
「そう言えば、坂下、北原は、8月何件とったのかな?」
 その一言に明日葉が反応した。
「店長、すぐ調べます。彼らが採った会員は、今月は来ない可能性が高いので、すぐに来店を呼びかけるDMが出せないか調べ、出せるならすぐ出します。 それと1回来店者の翌月再来店が低いこともわかっていますので、これもDMの要・不要を確認し、DMを出せる人には割引券か何かを送ります」
 翔太はニッコリ笑って、これから浅沼店へ打合せに行ってくるからと言って、また事務所を出て行った。 リーダーの3人は、さっき明日葉の言ったことを会員管理システムで調べ始めた。 この時、森川は、なぜ翔太の下では人が育ち、自分の下では人が育たないのかはっきりわかった。 森川副店長はしばらく3人の様子を黙って眺めていた。

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