本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ リニューアルの状況整理(9月第2週進捗会議)

 翔太は二階の会議室にいた。リニューアル・オープンから3週間が経過した。 最初に、みんなに共通の認識を持もってもらうために、競合店の動向を説明した。

 ジャック久米坂店のオープン直後から、出玉攻勢を仕掛けてきたダーストンは、一時期稼働は上がったが、 一番店のグレイトデールが出玉営業をすると、すぐに稼働が下がってしまった。
 それでもしばらく頑張って出玉営業を続けていたが、ターゲットにしていたジャック久米坂店の稼働が、あまり影響を受けず、 少ししか下がらないので、出玉攻勢だけでは無理だと思ったのか、先週半ばで出玉営業は止めてしまった。
 結局、ダーストンは自滅した形になり、三番店が定位置になってしまった。 ただ、ダーストンの店長が、3日に1度の割合で、この店に来ていることから、まだまだ二番店の地位は諦めていないのは明らかであった。

「ダーストンはまた仕掛けてくるでしょうか?」
 尾田主任が翔太に尋ねた。
「尾田主任、君はどう考えている?」
 翔太はすぐに答えず、逆に尾田主任に訊き返した。
「そうですね。ダーストンの店長が3日に1度来ているので、このままでは終わらないと思います。 この地域のお客様数が減ってきているのは、ダーストンの店長も意識していると思いますので、 この地域で生き残るためには、地域一番か二番店にならないとダメだと思っていると考えます。
 するとやはりこのままで終わることは無いと思います」
「それじゃ、尾田主任は仕掛けてくると思っているということかな?」
「はい」

「では、ダーストンの店長は、どういう手を打ってくると思う?」
「そうですね。今回のことで、単純に出玉だけではお客様を呼び戻せないと分かったので、新台入替と絡めて、攻勢を掛けてくるように思います」
「具体的には?」
「普通の新台はあまりインパクトがないので、有力な定番機のシリーズものの新台が出た時、 その台の大量導入を地域最速で行い集客をし、出玉面で攻勢を掛けるというところでしょうか」
 少し考えて尾田主任が答えた。それを聞いていた森川副店長も十分ありうるという顔している。
「みんなはどう思う?」翔太は他の主任に振ってみた。
「私もそう思います。その時、屋台イベントや応援ガールなどを呼んで派手に演出をするんじゃないでしょうか」
 西谷主任が答えた。
「それならいっそダーストンのリニューアルも考えられるんじゃないか。少し早めにリニューアルをして、離れた客を呼び戻す」
 浅沼店から参加している星野店長が発言した。
「星野店長、その手もありますよね。目には目でもないでしょうが、リニューアルにはリニューアルを!ですよね」
 尾田主任が感心したように頷いた。それに他の主任も賛同した。

「それじゃ、訊くけどダーストンがリニューアルを仕掛けてきたとして、私たちのホールはダメージを受けて稼働が下がるだろうか?」
 翔太が訊くと主任たちは少し沈黙した。そして吉村主任が答えた。
「あくまでも仮定ですが、ダーストンの店長の思考パターンが現状のままだとすれば、ダメージをうけるどころかチャンスになると思います」
 翔太はニコッとした。
「つまりこういうことです。ダーストンはおそらくリニューアル前に、改装と出玉のための資金を確保するために厳しい営業をしてくると思います。 これまでの業界の常識にとらわれていると思うからです」
「それで?」
「その結果として、ダーストンの既存のお客様がダーストンを避けて、他のホールに行く可能性が出てきます。 その中にうちの店舗も入ります。そうするとこのホールの快適さを知ることになります。 そして、改装で閉店する2、3日は、ダーストンのコアなお客様も仕方なく、うちのホールに来る可能性が出てきます。 この時に関係づくりをやれば、定着してくれるかもしれません。 だからチャンスと考えることができると思っています」
 吉村主任は前にいた大滝店でも同じ経験しているので、あまり心配はしていなかった。

「でも、ダーストンのリニューアルオープンで、関係づくりをしても、またもとのダーストンに帰ってしまうのでは?」
 西谷主任が質問をした。それに対して吉村主任は余裕をもって答えた。
「確かにリニューアルオープンということで、ダーストンに打ちに行く人はいるでしょうが、ジャックに親近感を感じた人は、出玉営業が終わればまた帰ってくるでしょう。
 それに今定着しているお客様は、出玉よりもホールとの関係やスタッフとの関係を重視する方なので、たとえダーストンがリニューアルで出玉をしてきても、動かないでしょう。 それは今回のお客様の動きで、明らかになっていると思います。だから増えることはあっても減りはしません」
 翔太は、横に座っている森川副店長をちらりと見たが、目をつむって吉村主任の話を聞いている。 顔の表情からは反発ではなく、話を聞きながら何かを思い返しているように見えた。
 実際そのとき、森川副店長はジャック本町店の競合店のリニューアル時における対応を思い出していた。 そしてジャック本町店が今苦境に立っている原因も認めたくはないが、理解をしていた。

「吉村主任の言う通りです。リニューアルもそうですし、新台を大量導入して出玉をしても結果的には同じになるでしょう。 なぜなら、私たちは出玉を第一としない客層の取り込みをメインにしているからです。
 だからと言って油断はしないでください。お客様は私たちの姿勢を見ています。 新台を入れたり、出玉をする本質は、お客様に対するホールのやる気のアピールです。 ラーメン店で言えば、美味しいラーメン作りに取り組んでいる姿勢です。
 それはコミュニティホールを目指している私たちも同じです。 だから新台も入れ替えるし、ピーアールもしっかりする。面白い台は積極的におススメをします。 だから、尾田主任に取り組んでもらっている遊技台の勉強会は大切なのです」
 翔太は尾田主任を見た。尾田主任は微かに頷いた。

「重要なので何度も言いますが、その姿勢はお客様の投資金額に影響を与えます。 つまり、良い取り組み姿勢を示せば、お客様の投資金額が多くなります。 投資金額が多くなれば大当り確率は当然上がります。 それはスタートを少々回す以上に効果があります。
 逆に良い取り組み姿勢を示すことが無ければ、スタートを如何に回しても無駄になります。 それは出玉をしてもまったく流行らないホールを思い出せばよくわかると思います」
 主任たちは、近くで馬鹿みたいにスタートを回しているのに稼働がほとんど上がらないホールを思い出していた。
「だから皆さんは、今のコミュニティホールづくりを主体にした運営を、自信を持って進めてください。やり続けてくことでその基盤は強固になっていきます」
 主任たちは頷いた。

「もしかしたら、ダーストンの店長は、コミュニティホールの価値に気づくかもしれませんが、早くやったものに分があります。 基本的にこのコミュニティホールへの道は、お客様研究の道なので、競合店を気にせず、今のコミュニティ施策の充実に努めてください
 翔太はそう言うと、いつもの進捗チェックを行った。 施策内容に大きな変更点や改善点はなく、進捗に目立った遅れは無かった。

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