本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 相談役からの呼び出し

 高坂部長は相談役に呼び出されていた。

「高坂さん、どうするつもりなんです」
 相談役の口調はキツイ。小泉社長のお父さんがなくなる時、息子だけでは心配だからと、説得して小泉社長のお母さんを相談役にした。
 これまで会議に参加したことない。
 その相談役から高坂部長の携帯に電話がかかってきた。

「私は、あなたに任せておけば、この会社の経営は安泰とずっと思ってきました。 この間社長が本社を抵当に入れるかもしれないって聞いてびっくりしました。
 経理の杉田に訊いたら、第一営業部の利益が大幅に目標未達で、新店資金が不足してきているって言うじゃないですか。 あなたは、この会社を潰すつもりなんですか」
「そんなことはありません。本町店さえ何とかなれば・・・」
「あなた、以前からそうおっしゃってましたわね。
 太一も人が良いもんだから、お金をいくらでも継ぎ込んで。 高坂さん、あなたはいったいいくら太一にお金を使わせるつもりなんですか?」
「・・・、それは・・・・」
「いくらお金を使っても、どうにもならないんじゃないの?」
「いえ、後、もう少しで・・・」
「あなた、先月も先々月も同じようなことを言われていた、と聞いています。それでダメだったんでしょ!」
「・・・・・・・」
 高坂部長は苦しそうに黙った。
「もう少し、もう少しって、いくら資金を用意すれば、100%大丈夫って言えるんですか?」
「それは何とも・・・」
「言えないんでしょ!じゃ、ダメな時があるということなんでしょ!
 その時には、私ら親子が路頭に迷っても良いと思っているわけなの?
 どうなの?」
 高坂部長は、相談役の顔をチラシと見た。 相談役が自分の言葉に興奮してきているのが分かる。 相談役の顔のしわが増えた。相談役の年も今年で78歳か。 相談役は昔は若くてキレイだった。 そんな思いが高坂の頭をふとよぎった。
「・・・・・・・」
「うちは博打をするために、あなたを雇っているのじゃなくて、経営をしてもらうために雇っているんですよ。
 これじゃ当たりはずれの博打をしているのと同じゃないですか」
「・・・・・・・」
 高坂は違うと言いたかった。これまで先代と一緒にやってきた経験と知識を活かして、可能な限りリスクを押さえて経営をしていると言いたかった。 しかし、結果が出ていないので反論できない。
 押し黙る高坂部長を見て、相談役はいらだった。
「高坂さん、あなた責任をどう取るお積りなの?」
 高坂部長は相談役から散々同じことを、繰り返し、繰り返し言われた。耐えるしかなかった。

 相談役の家を出たときは、ちょうど太陽が西に沈むときだった。夕焼けを見ながら、いろんなことが思い出された。
 はじめて社員になったときの頃、主任になり、店長になり、部長に抜擢されて頑張ってきたこと。
 若かった頃、相談役には本当に可愛がってもらった。
 正月やお盆は頑張ってくれたからと、相談役が自分たち社員を自宅に招き、ご馳走を食べさせてもらった。 結婚した時は、仲人もしてもらった。
 本当に心の底から感謝している。
 会社の規模は小さく、本当に家族的な雰囲気だった。

 夕日が沈んでいく。高坂部長はその光を無意識に目で追った。
 本町店は本気で地域一番店を狙いたいと思っていた。
 自分なりに一所懸命頑張った。
 でも上手くいかなかった。
 これまで会社に尽くしてきた自分を思うと、一気に虚しさがこみ上げてきた。
 結局、役に立たなくなったら終わりか・・・。
 山にかかっていた太陽の最後の光が見えなくなった。
 後には残照が残っていた。

 突然、スマホが鳴った。川田店長からの電話だった。
「高坂部長、どこにいらっしゃるのですか。お電話を至急いただきたいのですが・・」
 高坂部長は高台の公園にいた。
 ゆっくりスマートフォンの電源を切った。
 秋風が妙に冷たかった。どんどんあたりは暗くなっていった。

  

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