本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 小泉社長と高坂部長

 10月の店長会議が本社で行われた。
 いつものように小泉社長が業界の動向を報告し、両部長が各部の概況を話した。 その後、各店長が業績数値の発表と先月の反省点、そして今月の目標と改善課題を発表した。
 本町店は泥沼にはまっていた。 ジリ貧が続き、地域3番店となっていた。
 一方、久米坂店は、好調であり、稼働が少しずつではあるが上がっている。 利益も計画通りとれている。

 会議が終わり、翔太は小泉社長に報告に行こうとすると、今日は高坂部長から相談があるから時間が取れないと、小泉社長に言われた。
 翔太は、またいつもの相談かと思った。
 山崎部長にそのことを言うと、まさか追加資金の話はいくらなんでもできないだろうと話していた。
 とりあえず翔太は山崎部長に、山口饅頭堂のことと、頑張った森川副主任の話、認知症講座の詳しい報告をして、本社を後にした。

 高坂部長は社長室にいた。
「どうしたの?高坂部長。もっと追加資金がいる?」と小泉社長が話しかけてきた。
 高坂部長はそういう話ではないと言い黙った。
 小泉社長も高坂部長の様子が何か変だと感じ、黙った。
 しばらく沈黙が続いた。

 小泉太一は沈黙耐えられず、口を開こうと思った瞬間、高坂部長が胸ポケットから、辞表を取り出し、社長デスクの上に置いた。
「ご迷惑をおかけしました。辞めさせてください」
 そう言って高坂部長は深々と頭を下げた。

「どういうことかな」
 高坂部長は顔を上げようとしない。
「会社に大金を使わせながら、何の成果も出せず、申し訳なく思っています」
 高阪部長は頭を下げたまましゃべっている。
「・・・・・・・」
「責任を取って、辞めさせていただきます」
 高坂部長は頭を下げたまま一向に上げようとしない。
 その時小泉太一は、ビックリするほど大きな声を上げた。
「高坂部長!あなたは私に、もっと損をさせる気なのか!」
 驚いた高坂部長は反射的に頭を上げて、小泉社長の顔を見た。

「今回の本町店の失敗は、確かにうちのような企業では、大きな痛手だ。
 だけど私は損失とは思っていない。
 これは高坂部長の勉強代。高坂部長への投資だと思っている。なのに・・・」

 高坂部長は小泉社長の顔を凝視した。
「なのに。あなたが辞めてしまえば、すべてが本当にパーになってしまう。 本当に損失になってしまうんだ。これ以上私に損をさせたいのか、あなたは!」
 小泉社長は確かに怒っている。
 確かに怒ってはいるが、その目は怒っていない。
 社長は俺を見捨てていない。
「も、申し訳ありません。勝手なことを言いました」
 高坂部長は頭を90度に下げた。

 小泉社長の声が、急に柔らかくなった。
「高坂部長のこの会社を想う気持ちは、私が一番知っているよ。 本町店の件では、本当に苦労を掛けたね」
 社長は俺の苦労を知っている。
 そう思った瞬間、高坂部長の目から勝手に涙があふれてきた。
「私が本町店を地域一番店にしたいと知っていたから、一生懸命、頑張ってくれたんだろう」
 頭を上げることができない。
 高坂部長は必至で嗚咽おえつをこらえていた。
 この社長のためなら何でもできる。
 そんな思いが心の底から湧き出て止まらない。

「相談役が何を言ったかはしないけど、相談役は高坂部長をかわいいと思っているよ。自分の息子みたいだって」
「・・・・・・・」
「相談役は、高坂部長は幼くして亡くした長男に雰囲気が似ているって、私にいつも言ってたからね。 部長に会ったその晩、相談役は言い過ぎたって反省していたよ」
 高坂部長は、一時といえども相談役を恨んだ自分を恥じた。
 そして、自分が自分のやりたい経営をするために、社長の言うことを聞かず、勝手なことをしていたことに、初めて気づいた。
 高坂部長の足元が涙で濡れていった。

 高坂部長が落ち着きを取り戻してから、小泉社長は今後の本町店について話を始めた。 そして、出玉と新台入替だけでは難しくなった環境に適応するため、コミュニティホールの考え方や手法を学ぶように、高坂部長に改めて言った。

「ところで高坂部長、先月久米坂店へ見学に行くように言ったと思うけど、見に行ってくれた?」
「申し訳ありません。見に行ってません」
 高坂部長は申し訳なさそうに頭を下げた。
「それじゃ、明日、一緒に久米坂店を行こう。私も見に行くから」
 そう言って小泉社長は高坂部長に笑いかけた。

  

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