◆◇◆ 第18話 社長の方針 ◆◇◆
むかしむかしあるところにパチンコ店を経営している会社がありました。
業界も成熟し、段々お客様が少なくなってきています。
社長は経営の参考になればと思い、とある大学の経営セミナーに参加しました。
セミナーの講師は、女性客を大切にして、女性客が増えれば、男性客は自然に増えてくるという話をしていました。
社長はさっそく店長会議でその話をしました。
「みんな、私は先だって有名な大学教授の話を聞いてきた。
女性客を増やせば、男性客も自然と増えてくるというお話であった。
今日からは女性客が来たいと思う店づくりをして、お客様を増やす努力をしてくれ。
これからは『女性客強化』だ」
店長は一斉に頷きました。
1か月後、店長会議の席で、社長は店長に訊きました。
「先だって『女性客強化』という方針を伝えたが、状況を報告してくれ」
A店長は言いました。
「社長のお言葉はすぐに役職者全員を集めて伝えましたが、まだ成果はでていません」
B店長もC店長も、その他の店長もほぼ同じ話でした。
社長は成果を焦ってはだめだと思い、もう一か月待つことにしました。
2か月後、店長会議の席で、社長は店長に『女性客強化』について報告を求めました。
A店長は言いました。
「社長のお言葉は、役職者はもちろん、アルバイトスタッフまでみんな知っています。みんな一生懸命に頑張っていますが、女性客の人数は横ばいです」
他の店長に訊いても内容はほぼ同じで、成果が出るまでもう少し待って欲しいというは話だった。
3か月後、店長会議で社長は「女性客」への取り組みの報告を三度求めた。
A店長は社長に言いました。
「社長、前回の会議でも言いましたが、社長の『女性客強化』の方針を知らないものは、私の店舗には誰一人いません。
3日前に入ったアルバイトでも知っています。そして毎日朝礼でも確認しています。しかし、成果がなかなか出ないのです。
毎日言っているので、嫌がるスタッフが出てこないかと心配しているほどです」
「そこまで徹底して言ってくれているのか」
「ハイ、社長」
他の店長の報告も同じような報告だった。
社長は会議の後に考えました。
3か月取り組んでも成果が出ない。これ以上無理にやって、スタッフが辞めたりすれば、また採用にお金がかかる。
ここれが限界か。やはり学者先生の話は役に立たないのかもしれない。
社長は会議でこれ以上『女性客強化』の話をするのは止めようと思いました。
◇
数日後、社長は地元経営者の集まりで、久しぶりにA店長の店舗近くにきたので、立ち寄ることにしました。
店舗の駐車場では、炎天下にも関わらずアルバイトスタッフが、制服姿で汗をかきながら掃除をしています。
社長は軽く声を掛けて、事務所に入ろうと思いました。
「ご苦労様」
気づいたスタッフは慌てて礼をしました。
「店長はいる?」
「さっきお出かけになりました」
「どこへ?」
「すみません。私は存じません」
社長は、もっともだと思った。
「女性客は増えた?」
「女性客の強化のお話は、店長や主任から聞いています」
店長の報告通り、アルバイトスタッフまでみんな知っている。社長は言ったことが徹底されていることに満足した。
「それで、ここでは具体的に何をしているの?」
「特に店長や主任から指示はないので何もしていません。ただ、個人的には女性のお客様の玉の上げ下げなど、早目に対応するようにはしていますが・・・」
とアルバイトは答えた。
事務所に入いると主任がいたので、社長は同じ質問をしてみました。
「特に店長から指示がないので何もしていません。ただ方針をみんなに伝えるようにということなので、朝礼の確認事項としてみんなで唱和をしています」
社長は3か月経っても『女性客強化』の成果がでない理由、それどころかこれまでも社長方針を出しても大した成果がでない理由がようやくわかった。
そこへA店長がニコニコしながら帰ってきた。
「あ、社長お疲れ様です。今、競合店の視察から帰ってきたところです」
(ワンポイント)
トップがどのような方針を出しても、幹部や役職者の能力を上げない限り、具体的には進んでいかないことを示唆している。
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