◆◇◆ 第21話 サービスと作業 ◆◇◆
むかし、むかし。あるところにパチンコ店で働いている女の子がいました。
大学に通っていたのですが、実家からの仕送りが減り、効率的なアルバイトはないかと
探していたところ、パチンコ店の時給が良かったので、ここでアルバイトをすることに決めました。
女の子は、主任からサービスに力を入れているので、
サービスをしっかししているスタッフは、時給が上がるという話をされた。
そして、なるべくお客様に気遣いをしてくださいと言われた。
女の子は同じ働くなら時給が高い方が良いと思い、毎日一生懸命に働いた。
コールランプを押され、お客様に玉箱の上げ下げを言われると、手早く玉箱の上げ下ろしをたり、
お客様のタバコを買ってきてという要望にも、いやな顔を見せずにこなしていました。
他にもお客様のペットボトルや空き缶も、捨てて欲しいと言われたら、すぐに捨てに行き、
空調が少し暑いと言われたら、事務所に行って温度を下げたりしていました。
女の子はお客様から言われたことに対して、頑張って対応していました。
しかし、店長から時給が上がるという声はかかりません。 女の子は、この状況が３か月も続いたので、『どうも主任に騙されているのではないか』とに思い始めました。 ある日、休憩室で時給の話を聞いた主任と２人になったので、 以前聞いたサービスをしっかりすれば時給が上がるという話を持ち出しました。
「主任、私は頑張ってサービスをしているのに、なぜ時給が上がらないんですが、
本当はサービスをしっかりすれば時給が上がるというのは、ウソなんじゃないんですか」
女の子は思い切って問いただしてみた。
すると主任は答えました。
「うそじゃないよ。Ａ君もＢさんも上がったよ」
「じゃ、どうして私の時給は上がらないんですか？」
女の子は興奮してきました。
主任は答えました。
「サービスをしていないからじゃない」
女の子は腹が立ってきました。この主任をはじめ、この店舗の店長の目は、節穴なのかと思いました。
「私の働いている姿を見てないんですか」
「定期的に見ているよ」
「じゃ、どうして」
女の子は睨みました。
主任は答えました。
「あなたは、お客様の言われたことに対応しているね」
「そうですけど、それが何か？」
「お客様の言われたことをこなすことは『作業』っていうんだよ」
「『作業』・・・ですか？」
「そう、作業。それはサービスとは言わない。
あなたはレストランに行って席に着いたけど、水が出てこない。
周りを見ると他のお客様には水が出ている。
そこで、ウエイトレスに水を持ってくるように言ったとしましょう。
あなたの言葉、つまり指示を受けて水を持ってきたウエイトレスに、
あなたはサービスをしてもらったと感じますか？」
「それは、別に感じません。口には出しませんが、気の利かないウエイトレスと感じると思います」
「そういうことです」
「人から言われてするのは、サービスではなく、作業です。それがどんなことでも」
そう言って主任は女の子を顔を見た。そして続けた。
「言われる前に何かをしてくれるのは、自分に対する気遣いや好意を感じます。
つまり、うちが力をいれているサービスとは、相手に気遣いや好意を感じさせる活動を言います」
「・・・・・・」
「指示されたことは機械でもできます。指示される前に察して、行動を起こせるのは今のところ、人だけです。
それでは私はあなたに改めて尋ねます。
あなたはコールランプで呼ばれる前に、お客様の玉箱の上げ下げをしたことがどれだけありますか？
お客様に言われる前にタバコを買ってきましょうか？と尋ねたことが何回ありますか？
お客様から言われる前に、ゴミを自分から捨てましょうか？と訊きに行ったことはどれだけありますか？」
「・・・・・・」
◇◇◇
女の子は下宿先に帰って、電話でこの話を母親にした。
すると母親は嬉しそうに言葉を返してきた。
「良いところでアルバイトしているね。
お母さんも死んだお祖母ちゃんから『言われてやってもらっても嬉しくない』とよく言われたものだよ。
だからこんなによく気がつくようになったのよ。
あなたも頑張りなさい。
お母さんもあなたに、もっと気遣いができるようになって欲しいと思っていたのよ。
『気が利かない化け物は、昼に出る』っていうでしょう。
この前盆に帰ってきて、家の手伝いもせずゴロゴロしていたあなたを見ていて心配していたのよ。
それに来年は就職でしょう。
会社に入ったらどうなるかと心配していたのに・・・・」
それから30分、女の子は母親の説教と自慢話を聞くことになったのでした。
（ポイント）
１．サービスと作業の違いを明確に意識していますか。
２．自分の行為はサービスか、作業なのかスタッフに意識をさせていますか。
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