◆◇◆ 第28話 やってるけど ◆◇◆
むかしむかしあるところにパチンコ店がありました。
ほとんどの店は毎年ジリ貧で、業績は右肩下がりになっています。
社長は焦りました。「このままでは潰れてしまう」
あるとき業界のセミナーに行くと、接客・サービスをすることで、会社が良くなるという話を聞きました。
社長は早速、全店長を接客とサービスの基本を教える研修会に参加させることにしました。
「研修会はどうだった?」
研修を終えて帰ってきた店長に社長は聞きました。
「はい、たいへん参考になりました」
各店長は口を揃えて研修を賞賛しました。
「そうか、それはよかった」
「さっそく、店舗で実践しようと思います」
そう言って店長達はそれぞれの店に帰っていった。
半年後、ほとんどの店の業績は相変わらず右肩下がりであった。
店長会議で社長は言った。
「半年前、接客サービスの研修会に行って、参考になるとみんな言ってただろう。
なぜ、業績はこれまでと変わらないんだ。
本当に接客やサービスに力を入れてやっていたのか?」
店長達はうつむいて答えません。
「どうなんだ」
社長は少しムッとして怒鳴りました。
「接客、サービスはかなり良くなったと思います。
挨拶は徹底しています。
アイコンタクトもしています。
表情もニコニコして良くなりました。
態度も身だしなみも言葉遣いも良くなっています」
社長はその店長を睨み掴ました。
「他の店長は同なのか」
「うちも以前より良くなっています」店長は口々に言った。
社長は思った、要するに接客やサービスではお客様は増えないということか。
◇◇◇
半年後、社長は東京で行われた業界団体の集まりで、昔から知っている親しい社長に久しぶりに会った。
「久しぶり、調子はどう?」
その社長は声を掛けてきた。
「相変わらずダメですね」
「前に会った時に接客・サービスに力を入れるって言ってたよね」
「あれはダメでした。店舗の接客やサービスは良くなったんですが、肝心の客足は一向によくなりません。
接客やサービスを強化しても無駄なのが良くわかりました」
「そうなの?うちは結構業績は良くなったけどね」
「そうなんですか?接客やサービスって、地域によって反応が違うんでしょうか?」
「そうは思わないけどね」
「どんなことをしたんですか?」
「接客の基本5原則を徹底したんだよ」
「それはうちも同じです。・・・やっぱり地域差なんでしょうか?」
結局なぜ違いがでるか分からなかった。
◇◇◇
ある日社長は店舗の様子を見に行った帰り、前を歩いているお客様の会話が偶然耳に入ってきた。
「このお店、最近また接客やサービスの質が落ちてきたよなぁ」
「一時期良かったけどね」
「良かった?ANAやJALのさるまね接客じゃなかった?」
「それは言える」
「だいぶ前になるけど、駐車場を降りてすぐ土砂降りの雨にあって、慌ててパチンコ店に入ったけど、びしょ濡れ。ここのスタッフと目があったらどうしたと思う?」
「どうしたんだ」
「ニッコリ笑って、『いらっしゃいませ』っていったんだ」
「それだけ?」
「そうなんだ。俺はさ、思わず・・・・・・・」
後の会話は聞き取れなかった。
◇
社長は車に乗って思った。
うちのスタッフはちゃんとアイコンタクトをし、笑顔を作っている。あの社長のところと同じのはずだ。
店長達が言ったように徹底している。
それにしても、あの客は『俺はさ、思わず・・・』の後なんって言ったんだろう?
気にしながら本社に車を走らせた。
帰ってメールを見ると、あの社長からメールが入っていた。
================================================
この間は久しぶりでした。
あれから接客・サービスのことを考えていて、同時に今年の名言を実行させていたのに気づいたので、それを送ります。
何かの参考にしてください。
これがその名言です。
他人を愛せよ。
そうすれば彼らもまた、
あなたがたを愛するだろう。
彼らの役にたて、
そうすれば彼らも
あなたがたの役にたつであろう。
by ジャン=ジャック・ルソー
================================================
※ルソー;人民主権の概念により民主主義の進展に大きな影響を与えた政治哲学者
(ポイント)
接客やサービス(作業)をしてスタッフやお店のファンが増えない理由は、それを通してのお客様に対する愛やお役立ちがないからです。
こんな接客を何年していても、関係づくりはできません。
愛やお役立ちとは、自分達対する気遣いです。
配慮です。
関心です。
それらが無いと、お客様は店やスタッフに対して心を開きません。
いざとなったとき、お客様は離れていきます。良くある話です。
※サービスと作業の違いがよく分からないという方は、パチンコ寓話『サービスと作業①』又は『サービスと作業②』を読んで下さい。
★・・・他の寓話も見る
掲載日: