本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

出玉客とロイヤリティ

「副店長の懸念は最もです。
 それでは、今まで通りの出玉中心の施策をしていて、 この店はV字回復ができるのですか?
 翔太は、森川副店長に質問した。
「それはなんとも言えません。
 でも、少なくとも直近のリスクは回避できるんじゃなでしょうか」
 森川副店長は、自己の正当性を主張した。
 同席している山崎部長は、いつもの反応だというように、すずしい顔をしている。
 翔太もやっぱり、またこんな話になったかと思ったが、 浅沼店の星野店長も来ているので、ここははっきり言っておく必要があると思った。

「今、森川副店長から、もっともな問題提起をしていただきました。
 副店長以外の人も、そんな危惧きぐを持たれている人がいるかもしれません。
 良い機会ですので、なぜ、このコミュニティホールに取り組んでいるのか、もう一度説明します」
 そう言って関根店長はホワイトボードの前に立った。

 翔太は、ホワイトボードに“勝にこだわるお客様”と書いた。
「今、勝にこだわるお客様が多いという話がありました。 では、このお客様の問題とは何でしょうか?
 そう言ってみんなの顔を見た。

「先ほど副店長が言われたように、 出玉施策を打たなければ離れてしまうということではないのですか」
 尾田主任が発言した。
「その通りですね。
 それでは、この人たちのロイヤリティをあげて、 この店舗に定着させることはできますか?
 翔太は、尾田主任にさらに問いかけた。
出玉に対しての関心が主なので、 店舗自体に対するロイヤリティを上げるのは難しいと思います。
 私は会員管理をしていますが、そういう人は勝たせても、 出玉をしているホールが他にあれば、来なくなります。
 もちろん、こちらも出玉をすれば戻ってきますが・・・」
 翔太はホワイトボードに“出玉”と書いて、 その下に“ロイヤリティ”と書いて大きく×を付けた。

「この店は今、地域5番店になっています。 では、このような“勝にこだわるお客様”を集めて、 業績が本当に回復すると思う?
 もっと言えば、そんなお客様をメインにして、 安定したホール経営ができると思っている?
どうなの?」

 吉村主任が言いたそうにしていたが、翔太は目で抑えて、尾田主任を見た。
「業績は出玉を今以上にやれば、業績は回復するかもしれません。 でも、一時的なものだとは思います。これまでもそうでしたから」
 森川副店長は尾田主任をにらんでいる。
「当然、安定したホール経営となると、さらに難しいと思います」
 尾田主任は森川副店長を気にせず、淡々と言った。
「他の人はどうですか?」
 森川副店長は不服そうな顔をしている。西谷主任は何かメモを取っている様子で、顔をあげようとしない。 ちらりと星野店長をみると腕組みをして目をつむっていた。

Ⅴ字回復の2つのポイント

 山崎部長を見るともういいだろうという感じで、小さくうなずくのが分かった。
「実を言えば、私も大滝店で同じことを経験し、立て直しに行き詰った経験があります。 いくら社長から予算をもらい新台や出玉をしても、一時的な業績回復しかしなかった。
 その時は、後少し予算が足りないとか、たまたまタイミングが悪かったとか、 競合店が無茶をしたからとか、いろいろと言い訳をしていました。
 当時店長だった山崎部長が、一番良くご存知かもしれません」
 山崎部長も頷きながら聞いている。大滝店店長時代のことを思い出しているのだろう。
「以前は私も森川副店長と同じように思っていました。 だから、決して出玉を否定するものではありません。 今も山崎部長と出玉について打合せをし、その効果について話しています。
 でも、出玉ですべてが解決するわけではないということです」
 翔太はみんなの注目が集まるように一呼吸おいた。

「店舗を立て直すのに大切なことは、2つあります。
 一つはお客様を集めること、もう一つは、お客様をホールに定着化させることです」
 翔太はホワイトボードに書いた“集客”と“定着化”という文字を大きくマルで囲んだ。
 翔太は、この際、久米坂店のメンバーの出玉依存意識を変えたい、 特に森川副店長の意識を変えたいと思い、 あえて先ほどの尾田主任と同じような話をすることにした。

 まず、出玉イベントがこれまでお客様に、 どのような心理的影響を与えて来たかを説明した。 そして、出玉イベントができないことで、出玉効果がかなり下がったという話をした。
 もしかりに、何も言わなくても誰でもわかるような出玉は、 お金がかかり過ぎて事実上できないこと。 そんな予算は大手でもなかなかできないということも言った。

 次に、出玉は安売りと同じで、集客装置とするためには、ただ値引きをするだけでは意味がないこと。
 集客効果という場合は、競合店より安くすること、つまり、競合店以上の出玉をすること。
 例えとして、自店がスーパーとしたら、頑張って150円のコーラを90円に値下げしても、 競合スーパーが同じコーラを75円にして売り出せば、お客はそちらに行き、90円の集客効果はない。
 それは無駄な値引きとなる。
 つまり、大手と張り合った場合、大手以上の出玉を継続的にしなければ意味がないことを説明した。

「店長、ちょっとよろしいですか?」
 尾田主任が軽く手を上げた。
 「なんでしょう?」
 「よく、競合店が盛んに出玉をしているので、 うちも少しでも出玉をしておきたい、というような話をよく耳にしましたけど、 あれは効果がない、と言うことですか?」
「出玉を何のためにしているかが問題だ。
 今言ったように集客のためであれば、”意味”はないでしょう。
 尾田主任は75円のコーラの店をスルーして、90円の店に行きますか?
「行きません」
「そういうことです」
 尾田主任は頷きながらメモを取っている。

 翔太は続けた。
「ただ、目的が来ているお客様に“損失感”というか“見劣り感”を与えたくないということで、 出すのは“あり”だと思っています。
 先ほどの例で言えば、90円の店で買い物をしていて、 75円の店に行かなかった。帰ってきて75円に行かなかったけど、 この店もそこそこ値引きしてくれたから、『まあいいか』という気持ちになってもらうためですね。
 出玉も目的的に利用すれば問題はないと思いますよ。私はそうするつもりですから」
「分かりました。ありがとうございます」
 尾田主任は、何やらメモを取っている。 翔太には、単なる出玉と目的をもった出玉の違いを理解してくれたように見えた。

「他の人もよろしいですか。話を続けます。
 これから話すことは、わが社が店舗のコミュニティホール化を進める最大の理由なので、よく理解して下さい」
 そういうと翔太は話を続けた。

 出玉中心施策の大きな問題は、それで集めたお客様の定着化が、あまり期待できないこと。 “勝ちにこだわるお客様”は、勝たしたからといって、ホールの定着率が向上することはない。
 彼らは勝つために来ているので、勝てなくなれば来なくなる。 また、もっと勝てるホールがあれば、こだわりなくそのホールに移動する。
 だから彼らを多く集めると、出玉の有無の影響が大きく出て、店の稼働が安定しない。 おまけに稼働が少ない時は出ていないことをPRしているようなものだから、 他のお客様も期待感がなくなり、離れる原因となる。
 つまり、ジリ貧になっていくことを説明した。

「皆さん、よろいしいですか。出玉は万能ではありません。 出玉の限界を認識しておいてください。
 単なる出玉では、集客効果も定着化効果も期待できないということです」  森川副店長以外は、みんな熱心に聞いていた。

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