本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇入会状況の実態調査報告

 翔太は休憩を取らずに、森川副店長と尾谷主任に入会状況実態調査の報告を求めた。
「関根店長が言われたように、金曜日と日曜日に入会状況の調査をしました」
 尾谷主任は調査結果の集計用紙を店長に渡し、後は、二人で1枚を見るようにコピーを配った。

「調査をしてよくわかりました。今までの私の認識とだいぶ違っていました」
 実際に調査をしてみると、店舗にいる会員の数が意外に少ない。
 カードを挿入していなくても、会員になっている人が4割はいると思っていたが、 実際は3割ぐらいしかいなかった。 残り7割の中で入会アプローチを受けた人が3割ぐらいで、 残りの7割は入会のアプローチを受けたことがなかった。
 つまり、お客様の中で49%に人は、入会案内を受けたことがないことになる。 もちろん昔に入会アプローチを受けて、それを忘れている人もいるとは思ったが、 これまでの思っていた認識とかなり違うことは確かだった。

「森川副店長、調査をしていかがでしたか?」
「これほど自分の認識と違う結果が出るとは思いませんでした」
「尾田主任は、どうですか?」
「同じです、予想外でした」
「これまでの認識は、おそらくスタッフからの声を、鵜呑みにして作っていたのではありませんか?」
 森川副店長は神妙な顔で答えた。
「そうかもしれません。でも、ホールスタッフが意図して嘘をついていた、ということはないと思います。 彼らも、これを知ったら驚くでしょう」

「私も大滝店で、主任の時に会員管理担当をしいました。 その時同じように調査をして、自分の認識の誤りに気付いたことがあります」
 そう言って翔太は、北条真由美に会員化の取り組み方が甘いと言われ、 加えて考え方自体が問題解決思考でなく、できない言い訳を並べ立てて、 自分のできないことを正当化するただの馬鹿ではないの?(前作P.90) というような言われ方をしたことを思い出していた。

 翔太は森川副店長を改めて見た。
「それで森川副店長としては、会員強化にどう取り組んでいくつもりですか?」
 森川副店長は、尾田主任の顔を見た。 尾田主任はメモを見ながらしゃべりだした。
「そうですね。これを見る限り、現在の取り組みでは不十分と思いました。
 まず、スタッフの認識を改めたいと思います。 そのうえで新規入会の案内方法を見直します。 とにかく今までの入会者数は少なすぎたと思います。 それとカードを挿さない会員が多いので、挿入を促していきたいと思います」

「それで1年後に1000枚のDMを送れるようになりますか?」
 尾田主任が追加策を入れた。
「それとDMが“不要”の会員さんが約半分いらっしゃるので、 その人を何とか“DM要”に変えれば何とかなると思います」
 翔太は、森川副店長を見た。
「そうですね。この調査を見る限り不可能ではないと思います」
「分かりました。明後日に『会員管理実践講座』を受講する予定になっていますよね。 それをどのように活用すれば目標を達成するか考えてください。 原案が出来たら、すぐに報告してください。 森川副店長、お願いします」

 それから翔太は今後の予定として来月のはじめに第1回目のニュースレターを送り、 地域密着店舗の方向性を明確にすることを話した。 それに伴い、いろいろと忙しくなるので、今のやっている業務の完成度を高めておくように伝達した。

 ◇

 翔太は、星野店長に進捗会議の感想を聞くために残ってもらった。
「星野店長、ご苦労さまです。春日主任もご苦労様。いかがでしたか?」
「この前『コミュニティ基本講座』を受けてやらなければならないことと、 進め方の概略説明を聞いてきたよ。
 実際にコミュニティホール化を進めていく段取りをみていくと、 ただ接客やサービスを良くして、 お客様に好感をもっていただこうという活動とは違うことが良くわかった」

 星野店長としては、キックオフを大げさに感じていたが、必要なことだと思った。 そして、翔太がコミュニティホール化の布石として、接客やクリンリネス、 会員の強化などを本気の取り組みをさせている意味が納得できた。
 そして、これらの組み合わせで、翔太が求めてる結果とはなんであるかを洞察してみせた。

「さすがですね。春日主任はどうですか?」
「私は、森川副店長と尾田主任が行った会員の実態調査にたいへん興味を持ちました。 私も会員管理の担当をしていますので、久米坂店の資料を基に、 独自の調査シートを作って調査をしてみたいと思います」
 春日主任は嬉しそうに話した。
 時計を見ると、午後7時を過ぎていた。

 ◇◇◇大雨と掃除

 その日は朝から本格的な雨になっていた。
「横井リーダー、よろしいですか?」 事務所にアルバイトスタッフが入ってきた。
「何?」
「今日も、道路の掃除に行くんですか?」
 時計を見るといつもの掃除の時間となっている。
「今日は、スタッフの人数も少ないし、ホール作業がたいへんだと思うんですけど。 それに大雨ですし、・・・」
 アルバイトは行きたくなさそうなオーラを盛んに出していた。

 横井リーダーが判断に迷っていると、事務所でパソコンを見ていた森川副店長が声を掛けてきた。
「今日は人数が少ないんだろう。それにこんな雨だから濡れて風邪をひかれても困るし、 今日はホール作業に専念してくれていいよ」と大きな声で言った。
 それを聞いて横井リーダーはアルバイトスタッフに、朝の道路掃除の中止を言い渡した。 アルバイトスタッフは嬉しそうにホールに戻っていった。

「森川副店長、そんなこと言っていいんですか?」
「構わないさ。これまでは掃除をしなかったんだから。 それで誰も困っていないだろう。 アルバイトスタッフの身になってみろよ、たいへんだよ。 横井リーダーは、もう少しスタッフに対する思いやりを持たないとダメじゃない?」
 そう言って森川副店長は、開店作業のチェックのため事務所を出ていった。

 寺島明日葉は事務所でやり取りを見ていた。何か釈然としない。 心の底で、『これはマズイ』という声が聞こえる。 今更、森川副店長の決定を覆すことはできなない。 しかたがないで、アルバイトに代わって自分で道路掃除をすることにした。

 ホール前から掃除して、信号のある交差点に差し掛かったとき、声を掛けられた。
「ご苦労様。今日は寺島リーダーが当番?」
 そこには大雨の中、傘をさして立っている関根店長の姿があった。

・・・・・・◇・・・・・・

 翔太は今朝、嫌な夢を見た。北条真由美に詰問されている夢だった。
『クリンリネスは順調に進んでいるんですか?』
『順調に進んでいます』
『なぜ、そう言い切れるのかしら?』
『それは、掃除のチェックリストにチェックが入っていたからです』
『チェックリストにチェックが入っていたら、なぜ、掃除が実行されていると言い切れるのかしら? 関根主任は実際に確かめたことはあるのですか?』
『私は、スタッフを信用しています』
『そんなことは聞いていません。関根主任は、早く私の質問に答えていただけるかしら?』
『・・・』翔太はマズイと思った。実際に確認をしていない。

『何をしているのですか?早くお願いします!』
『・・・』
『クリンリネスは、コミュニティホールの布石なんでしょう? なぜきっちりしているか実際に確かめないのかしら? 本当に店舗をコミュニティホール化しようと思っているの? それとも自分の怠惰を、部下への信頼と錯覚なさっているのかしら?
 もし、軍隊なら部下のオーバートークを信じて前進して、全滅する無能な指揮官ってところかしら・・・』

 夢の中の北条真由美はどんどん翔太を追い詰めてくる。
『特にこの大雨の日のチェック。怪しいと思いませんか? 本当に誰か掃除に行ったのかしら???』
 その言葉を聞いたとたん目が覚めた。

・・・・・・◇・・・・・・

 朝の7時。大きな雨音が聞こえる。 もしかしたら?と思った翔太は、顔を洗うとすぐに出かけた。
 掃除の対象となっている信号のある交差点にあるファミレス、翔太はここで朝食を食べることにした。 食べ終えて、窓の外を見ていると、ホールの入り口から掃除をし始めたスタッフの姿が、遠目に見えた。

 こんな雨の中でも、スタッフが休まず掃除をしている。 翔太はうれしかった。 やっぱりうちのスタッフは信用できる。 特に大雨でも休まずにやり続ける姿勢は、ホールの評価を高める。
 翔太は、掃除スタッフに声を掛けるために、信号の交差点で待つことにした。 やってきたのは寺島リーダーだった。

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